「私プレゼントって嫌いなんだよね」
西武、三越、高島屋を3件ハシゴしても見つからず、
新宿の寒空の下を2時間も歩き回ってようやく見つけた大事な大事な僕のプレゼントを見て彼女は言った。
僕の表情を見て、
更に残念そうに眉を下げる彼女
一体どうしたというのだろうか
まさかプレゼントを用意して
こんな顔をされるとは
納得出来ず、僕は必死に弁明した
目に染みるほど寒い街の中、
どれほど君を想って足を動かしたか
しかしますます不機嫌になる彼女
どうして?どうしてだ?
努力虚しく耐え難い沈黙の後、
彼女の紅色の唇がゆっくりと動いた
「こんなもの用意しなくても
君がこれを探してた数時間
私と一緒にいてくれたら、
それだけでもう最高のプレゼントだったのに…」
聞き終えるより早く、あまりの愛おしさに
僕は彼女の細い肩を抱きしめていた
彼女の暖かい体温を感じるー
その前に
あまりにも無慈悲な音が彼女をかき消した
事実を述べるならば
スマホのアラームに呼び起こされた
何度か瞬きをし、全てを理解して
枕元のスマホを見るとLINEが届いていた
「店長!クリスマスケーキが有り得ない数届いてるんですけど…もしかして誤発注ですか?」
最悪のプレゼントに、思わず僕は呟いた
「俺プレゼントって嫌いなんだよな…」
鍋の蓋を開けると
暖かな水蒸気と共に
品の良さそうな柑橘の香りが立ち込める
豊かなゆずの香りを胸いっぱいに吸い込むと
忙しなく走り抜けたいつもの通学路が脳裏にあらわれ
同時に隣の席にいた女の子の青白い手がよぎる
ハンドクリームが好きなその子は冬になるといつもこの香りをまとっていたっけ
それにこの匂いは実家の庭でもよく嗅いだ覚えがある
傷んだゆずを収穫し、湯船に浮かべて遊んだ幼少期の自分が楽しそうに笑っている
ひとつの香りに呼び起こされた
たくさんの思い出に浸っているうちに
気づけば湯気は薄れ
大好きなあなたが作ってくれたゆず鍋が私を待っていた
またひとつ
私の脳内のゆずの香りフォルダに
新たな思い出が加わることへの充足感に包まれながら感謝の気持ちを込めて手を合わせた
あなたは本当に気まぐれだ。
ある時は遥か遠くに、
ある時は手を伸ばせば届きそうな所にいて、
ずっと同じところにはいてくれない。
時にはどんよりとした色で涙を零し、
時には満点たる光をもって私を照らして、
ころころ表情を変えるから落ち着かない。
しかし私は、
間近に迫った明るい光の中に、
恐怖を感じることがある。
かと思えば私は、
遠くに広がるあなたの悲しみの下で
心地よく鼻歌を歌ったことがある。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
そうか
あなたは不変の広がりに過ぎないのか
変わっていたのは私の方だった
大空よ
どうかこれからも末永く健在で
流転する私を不変の光で見下ろして
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄。
澄んだ音が響く
暗闇の中で自らの思考を見つめてみる
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄。
もう一度、
澄んだ音が響くと
ベルの音を導引として
頭の中の思考の影が徐々に薄れていく
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄。
3度目のベルの音で思考を手放し、
周囲の空気と自らの身体が一体化したような感覚を全神経で味わう
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄。
ゆっくりと目を開けると、
世界の色が鮮やかに目に差し込んでくる。
以前は退屈で仕方なかった瞑想だが、
今や私の人生を彩るのに必要不可欠な土台となった。