鍋の蓋を開けると
暖かな水蒸気と共に
品の良さそうな柑橘の香りが立ち込める
豊かなゆずの香りを胸いっぱいに吸い込むと
忙しなく走り抜けたいつもの通学路が脳裏にあらわれ
同時に隣の席にいた女の子の青白い手がよぎる
ハンドクリームが好きなその子は冬になるといつもこの香りをまとっていたっけ
それにこの匂いは実家の庭でもよく嗅いだ覚えがある
傷んだゆずを収穫し、湯船に浮かべて遊んだ幼少期の自分が楽しそうに笑っている
ひとつの香りに呼び起こされた
たくさんの思い出に浸っているうちに
気づけば湯気は薄れ
大好きなあなたが作ってくれたゆず鍋が私を待っていた
またひとつ
私の脳内のゆずの香りフォルダに
新たな思い出が加わることへの充足感に包まれながら感謝の気持ちを込めて手を合わせた
12/22/2022, 1:13:24 PM