初心者太郎

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3/2/2026, 6:44:13 AM

—万引き—

店内の防犯カメラに、しっかり犯行シーンが映っていた。
画面の中にみえる十歳くらいの子供がパンを盗み出している。

うちのスーパーは、最近景気が良くない。こうした安価の盗みも許すわけにはいかない。

「この黒い帽子を被った小学生男子だ。今度見つけたら捕まえるように」

店長として、店員に呼びかけた。

「店長、この子ですよね⁈」

午後三時。
バイトの男子が連れてきた。
間違いない。カメラに映っていた子供だ。

「ちょっと裏まで来てもらおうか」

俺は屈んで子供にそう言うと、おとなしくついてきた。

「昨日、パンを盗んだよね」
「はい」

無機質な声で返された。

「どうして盗んだのかな」
「……」

子供は何も言わない。物欲か、犯罪欲か。

「とりあえず、お家に電話してもいいかな」
「はい」

子供は、家の電話番号をスラスラと口に出した。

「じゃあ、親御さんを呼ぶね」
「……」

番号にかけた。すぐに繋がった。
お子さんが万引きをしたこと。店に来て欲しいことを伝えると電話を切った。

「君、どうして万引きをしたんだ?」

俺は、もう一度訊いてみた。

「……見てほしかったから」
「え?」
「お母さんに見てほしかったから……」

その子供は、悲壮な瞳をただ足元に向けていた。

お題:欲望

3/1/2026, 8:23:46 AM

—愛の誘拐—

大きな家を見上げて、インターフォンを鳴らした。

「はい」男の声がした。
「宅急便です」

俺がそう言うと、男は出てきた。

「こちらにハンコを」

男がハンコを捺すために俯く。
俺はそのタイミングを見計らって、瞬時に相手の口元にハンカチを押し付けた。

バタリとその場に倒れ、意識を失った。

俺は帽子を深く被り、マスクを付け直し、中へ進む。

「誰?」

部屋に入ると、一人の女がいた。
夕日に照らされ、長い黒髪が淡く揺れている。まるでどこかの国の姫であるかのように、儚く、美しい。

「あなたを誘拐しにきました」

俺の声を聞いたその人は、驚かなかった。

「どこに連れて行ってくれるんですか?」

むしろ、笑みを浮かべていた。

「それは、教えられません。私は誘拐犯ですから」

俺は、ハンカチを彼女の口元に優しく押し当てた。
彼女の体から、スッと力が抜けてゆく。思ったよりも早い。

彼女を支えて、抱き抱える。
その時にチラッと見えた腕の痣。

「どこか遠い街で、二人っきりになれる場所で。私が必ず幸せにしてみせます」

俺は白馬の王子でも、魔法使いでもない。
けれど、彼女を愛する者として、俺は彼女を救い出したい。

俺は、彼女の左手薬指にはめられた、ダイヤの指輪を投げ捨てた。
彼女を抱き上げ、家を駆け出した。

お題:遠くの街へ

2/27/2026, 11:48:44 PM

—分身—

宅急便で自分宛に何かが届いた。
誰から送られたのかはわからないが、とりあえず中を開けてみた。

「なんだこれ」

白くて丸い物体。真ん中に赤いボタンが付いている。
俺は、そのボタンを押してみた。

「え……?」
「やあ」

その物体はボタンを押した途端、変形して姿形が全く俺になった。

「何かしてほしいことあったら言ってくれ」
「……じゃあ、明日、代わりに学校行ってきてくれないか」
「わかった」

次の日。
もう一人の俺は、制服に着替えて家を出た。

少しだけ心配になったが、多分大丈夫だろうと思った。
俺には友達がいないからだ。

「いってきます」と母の声が玄関から聞こえた。

母は仕事の時間だ。
これでやっと一人きりになれた。

俺は思う存分ゲームをした。学校にいるよりもずっと楽しい。
気づけば俺が帰る時間になっていた。

「ただいま」
「おかえり、どうだった?」

まるで母の訊くようなことを言ってしまった。

「楽しかったよ」
「楽しかった?」
「うん。じゃあ俺、宿題するから」

もう一人の俺は自室に向かった。
楽しかった、という彼の言葉が引っかかっていた。

次の日。
今日は学校に行ってみることにした。

「おはよう」

一昨日までは全く話さなかった薮木に挨拶された。一瞬戸惑ったが彼の視線はこちらを向いている。

「おはよう……」
「『クロノ』のイベントやったか? あのめっちゃゴールドもらえるやつ」

クロノ——クロノブレーカーは、俺の好きなゲームだ。

「やった!——」

俺は薮木と語り合った。

「おはよう」とまた新たな仲間も加わった。
岡田だ。「あのボス強すぎないか?」

初めてクラスメイトと話すことができた。
昼食も一人じゃないし、放課後も初めて誰かと遊んだ。
今日はとても楽しかった。

「ただいま!」

家に帰り、大きな声で言ったが返事はない。
俺は階段を駆け上がり、ドアを開けた。

もう一人の俺はもういなくなっていた。

『どうか、素晴らしい人生を』

机の上に書き置きされたメモ。

「ありがとう」

天を見上げ、彼に届くように言った。

お題:現実逃避

2/27/2026, 4:37:12 AM

—心理テスト—

君は今、夢をみている。
楽しい夢だ。
隣にいるたった一人と、どこか遠い地で、笑い合い、手を取り合い、幸せな時間を共に過ごしている。

君は、隣にどんな人を思い浮かべる?

家族でも友人でも良い。
誰か一人を思い浮かべて欲しい。

今、君の頭に思い浮かんだその人は、きっと君の一番大切な人だ。

もし。
僕のように、たったの一人も思い浮かばなかったそこの君。
どうか、そんな君に幸あれ。

お題:君は今

2/26/2026, 1:35:42 AM

—星降る雨—

鉛色の空から、ポツポツと雨が降り始めた。やがて、このまま帰るのが憚られるほど、雨脚が強まってきた。

「参ったな」

老人はやむを得ず、近くの屋根のあるパン屋に避難した。
物憂げな空を眺める。
しばらくは、止みそうにない。

「お客さん?」

すると店のドアから女の子が出てきた。
中学生くらいにみえる。

「すみません。急に雨が降り始めたもんだから、雨宿りさせてもらってます」
「あー、そうですか」

彼女は明らかに残念そうな顔をした。
久しぶりにお客さんが来た、と思ったからだ。

「でも、せっかくだから入ろうかな」
「ほんとですか⁈」

女の子はパッと顔を明るくして言った。
老人は入り口をくぐった。

「この店の一番人気はなんですか?」

老人は訊いた。

「メロンパンですね。でも、私はこのクロワッサンの方が好きなんですけど」
「じゃあ、一つずつ頂こうかな」

彼女は素早い手つきでそれらを袋に詰めた。

「ありがとう」

老人はにっこりと笑った。

「いいえ、こちらこそ。お買い上げありがとうございました!」

彼女は丁寧に頭を下げた。

「まだ雨止みませんね。——うちの傘、よければ貸しますよ」
「いえ、悪いですよ」
「うちのパンは出来立てが美味しいんです。早く家に帰って食べてもらいたいんです」
「……申し訳ないね」

老人は傘を受け取り、店を出た。

次の日。昨日の天気が嘘のように晴れた。
女の子は店を開けるためにシャッターを上げると、驚いた。

「なんで⁈ お客さんがこんなに⁈」

店の前には大量の客が並んでいた。
最近、全くお客さんが来なかったのに——。

「いらっしゃいませ!」

彼女は、店を開けた。
客が雪崩のように入り込んできた。
結局その日、パンがなくなるほどの大盛況だった。

——トシさんがこの店を絶賛してたんだ。

ある客がこう言っていた。
『トシさん』は、どうやら有名なレビュアーらしい。

「みつけた」

彼女は閉店後、気になって調べてみた。
検索がヒットした、一件のブログ記事。
そこにはこう書かれていた。

『今日は、運命のように巡り会えたパン屋について紹介しようと思う。——』

この店の名前が刻まれていた。
そして、ここのパンを高く評価する言葉が並んでいた。

『——何より、店員さんの対応が素晴らしかった!』

評価は、満点の五つ星だった。

お題:物憂げな空

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