—写らなかったもの—
金閣寺が水面の上にそびえ立っている。
「一階のところ見てよ」僕は指差した。
「あれ、金が張られてないね」
グループのトイレ待ちで、僕は好きな人と偶然二人っきりになった。
「お金が足りなかったのかな」
彼女はそう言って、くすっと笑った。
「そうかもね」
僕も釣られて笑ってしまった。
「そこ二人ー、こっち向いてー」
偶然通りかかったカメラマンが言った。僕たちは、レンズに向かってポーズをとった。
——
先生から封筒を受け取って開けると、たくさんの修学旅行の写真が入っている。
その中にハレーションが起きた一枚の写真。
僕はそれを見て、一週間前の金閣寺を思い出した。
「その写真、買ったんだ。実は私も買ったんだ。なんかエモいよね」
後ろの席から顔を覗かせ、彼女は言った。
「うん、わかる」
彼女も同じ写真を持っている。
それだけで胸が熱くなった。
「でさ、帰ったあとに金閣寺を調べてみたの。一階に金が張られてないの、わざとなんだって。各階ごとに世界観があるらしいよ」
「そうなんだ。でも、ぜんぶ金にした方が絶対かっこいいのに」
僕がそう言うと、庶民の発想だね、と彼女に笑われた。
逆光で写らなかったものも、僕は今も、はっきりと覚えている。
その思い出が、まばゆいほどに輝いていた。
お題:逆光
—悪夢—
広大な草原に放り出された。
わけもわからぬまま、私は辺りを見回す。
すると、突然ミャーというネコの鳴き声が、背後から聞こえてきた。巨大な愛猫のミケが迫ってきていた。
私は逃げるために、腕と足を必死に動かす。それなのに、ちっとも前に進まない。
声が出せない。
しだいに距離は縮まってゆく。
そして、ミケは私に向かって大きく前足を振りかざした。
「はっ……!」
ミケが私に触れた瞬間、夢から醒めた。
隣を見ると、私のベッドでミケは呑気に寝ていた。
辺りはまだ暗い。
だるく、重い身体を起こした。
感覚でわかる。今は熱がある。
明日の仕事は休めない。私はリビングまで行き、風邪薬を三錠、口に放り込んだ。
ついてないな、と思いながら、ベッドに戻って再び眠りについた。
お題:こんな夢を見た
—勝手な未来—
未来の自分を見てみたい。
そんなふうに思ったことは、だれしもあるだろう。
「博士、未来がみれるって本当か⁈」ランドセルを背負った春太が声を張る。
「あぁ、ついに完成させたぞ。タイムマシーン第一号だ」
博士は、それにかけられた白い布を取る。大きいメガネが一つ現れた。
それを見て、春太は訝しげに博士を見る。
「これが、本当にタイムマシーンなのか?」
「パパがそんなの作れるわけないでしょ」
博士の娘、奈美が言った。
「いつもの発明品を見てみなさいよ。ろくでもないものばかり作ってるじゃない」
「待て待て、今回の俺は一味も二味も違うんだ。春太、覚悟しとけよ」
博士の言葉を聞いて、春太の表情は明るくなった。
「だがな、タイムマシーンとは言っても、一回しか使えないし、未来の自分と会話することしかできない。それでもいいか?」
「もちろんだ!これ、つけてもいい?」
博士は、了承すると、春太はすぐさまそれを装着した。春太は、視覚も聴覚も大きなメガネに奪われてしまった。
そして映像が流れる。
「未来の俺ですか?えっと、大谷春太です」
『おぉ、過去の俺か。初めまして』
「すごい、本当にタイムマシーンなんだ」
春太は感嘆の声を漏らした。
「時間があまりないので一個だけ聞きます。俺は、漫画家になれますか?」
『なれるさ。だって今、俺は漫画家なんだ』
「俺すげー!」
『だがな、未来がわかったからといって、安心しちゃいけない。たくさん、たくさん絵を描き続けてくれ。頑張れよ』
「はい!」
ブラックアウトし、春太はメガネを勢いよく外した。
「博士、ありがとう!これからも頑張るよ」
彼は研究室を飛び出していった。
奈美が大きくため息をつく。
「本当に良かったのかしら。AIを使って嘘の未来を見せるなんて」
実は、実際に春太と会話をしていたのは博士だった。変声し、その声に合わせてAIが映像を動かしていたのだ。
「あぁ、いいんだよ。あいつ、ちょっと前に才能ないからって諦めようとしてただろ」
「うん」
「十年とちょっとしか生きてないあいつが、そんな理由で諦めちゃいけないんだよ」
博士自身も、内心ではいい手だと思っていない。
だが、博士は信じていた。彼がその未来を現実にしてくれると。
博士には、そんな勝手な未来が見えていた。
お題:タイムマシーン
—給料日—
財布の紐が思わず緩んでしまう給料日。
「チキンか……、いいな」
仕事帰り、香ばしい香りに引き寄せられ、ファストフード店に足を踏み入れた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
メニューの写真を眺める。とりあえず、いっぱい入っているやつを選んだ。
「チキンバレル、一つください」
大きな袋を片手に、再び家路に着いた。
思わず途中で食べたくなるほど、匂いが鼻を刺激する。
なんとか欲望を堪えて、家まで辿り着いた。
「ただいま」
玄関を開けると、家族みんなが「おかえり」と出迎えてくれた。
「チキン⁈ よっしゃー!」
長男と次男が盛り上がった。
手を洗い、みんなで食卓を囲む。
腹がはち切れそうになるくらいまで、チキンに食らいついた。
幸せな時間が、ゆっくりと流れていった。
お題:特別な夜
—海底の子守唄—
海の底には、文明がある。
数々の魚やタコ、イカ、さらには人魚もそこに住処をつくり、暮らしている。
「まさか、海底に文明があったなんて……」
深海生物の研究中、ある男が石でつまれた階段と、規則正しく並ぶ貝の灯りを見つけた。
近くから、美しい歌声が聴こえる。男はその方へ潜っていった。
「人魚⁈」
歌声の持ち主は、人魚だった。
「あら、ここに人が来るなんて珍しいわね」
「……どうも」
人魚は驚いた様子もなく、にっこりと微笑んだ。
「ゆっくりしていってくださいね」
その後も人魚は歌い続けた。研究に来ていた男は、目的を忘れて聞き続けた。
彼女の歌声は、まるで子守唄のように、優しく安心するものだった。
「そろそろ、戻らなくちゃな。素敵な歌をありがとう」男が言った。
人魚は何も言わず、ただ歌い続ける。
男が上へ上がろうとした時、体が動かないことに気がついた。
タコとイカの足が、男の両足を掴んでいたのだ。
「離せ、離せ!」
男は必死に振り解こうとするも、びくとも動かない。
しばらく時間が経ち、男は息ができなくなって抵抗をやめた。体が沈んでいく。
歌が、ふっと止んだ。
人魚は合図を上げた。
影に隠れていた数々の魚は姿を現し、歓声を上げた。
その時、海の底は震えるほど盛り上がった。
そして、また人魚は歌い出す。
新たな客を迎えるために——。
お題:海の底