—小さな読者—
『厳正な選考の結果、残念ながら今回は掲載・採用は見送らせていただくこととなりました——』
何度目かわからない、漫画の落選通知。
『夢を追う勇気があれば、すべての夢は実現する』と、ある有名人はいった。
少なくとも、私には難しかったらしい。
「あっ……」
自室で自分が描いた原稿を読み返していると、窓を開けていたせいで、風に吹かれて飛ばされてしまった。
どうせ落ちた漫画なんだ、と思い気にしなかった。
「すごい!」
ふいに、窓から声が入ってきた。
顔を覗かせると、小学生くらいの男の子が私の漫画を手にして読んでいる。
「これ、お姉ちゃんが描いたの?」
私に気づいた男の子は、訊いてきた。
「うん……」
「すごくおもしろい!」
その一言で、目頭が熱くなった。
諦めようとしていた夢に、もう一度向かってみようと思った。
この世界には、意外と夢や希望が転がっているのかもしれない。
私は紙を取り出し、ペンを握った。
お題:この世界は
—朝の習慣—
朝、ホウキを持って公園に向かう。
小道の落ち葉をさっさっさと一ヶ所に集めて、ちりとりでゴミ袋に詰める。
公園掃除——それが、私の朝の習慣だ。
いい運動になるし、何よりも……。
「おじいさん、おはようございます!」
黄色い帽子を被った小学生たちが挨拶をしてくれた。
私はにこやかに挨拶を返す。
「園田さんいつもありがとうね」
「いえいえ、私が好きでやっていることですから」
通りかかった町の人々は声をかけてくれる。
どうして掃除をするのか。
それはこの町が大好きだから、だと私は思う。
お題:どうして
—スタートラインのそばで—
「将来の夢は、オリンピックに出場できるような陸上選手になることです」
小学生の頃、みんなの前でスピーチを読んだのを覚えている。
当時から俺は、誰にも負けない足を持っていた。毎日コツコツと練習を続けて、中学生の時は全中に出場できた。
このまま努力を続ければ夢が叶う、そう信じていた。
悲劇は、高校一年生の時におきた。
俺は、交通事故に遭った。
日常生活に支障はないが、全力で走ることはできなくなった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
それでも陸上部はやめなかった。
皆のタイムを測り、フォームを見る。
最初は胸が苦しかった。
でも、俺は気づいた。
誰かのタイムが少し速くなるたびに、悔しさよりも先に、嬉しい気持ちがやってくる。
俺はもう走ることができない。
だから夢を見てたい。
昔に描いた、大舞台で走る夢ではない。
陸上の中で生き続ける夢を。
お題:夢を見てたい
—変わらない日常に君がきた—
登校して授業を受けて、帰宅部の俺は速攻で帰宅する。帰ったら勉強して、ゲームして一日を終える。
友人はいなかったけれど、一人の時間が好きな俺にとっては、変わらないでいてほしい日常だった。
これまでは、そう思っていた。
「ねぇ、番号あるかな?」
「絶対あるよ!あんなに頑張ったんだから」
高校受験の合格発表日。
周りからは期待の声や、歓喜の声、嗚咽や悲鳴までが校舎の前で響いていた。
「よし、あった」
番号を確認した俺は、くるりと踵を返し、帰ろうとした。だが、ふと近くにいた一人の女子に目を奪われ、立ち止まった。
きれいな黒髪を、後ろで一つに結んだ女子だった。小さくガッツポーズをしながら見せた笑顔に俺は心を奪われた。
一目惚れだ。
俺は小走りで、家まで向かった。
心臓の鼓動がやけにうるさい。こんな感覚は初めてだった。
彼女の笑顔が頭から離れなかった。
お題:ずっとこのまま
——
(そして二ヶ月後、彼は彼女と同じクラスになる。——彼はまだそのことを知らない)
—カラフルなマフラー—
「お父さんにマフラー作ってみたんだ。大切に使ってね」
娘から渡されたマフラーはカラフルで、自分のようなおじさんが身につけるには、少し気が引けた。
「先輩、そのマフラーの色、珍しいですね」
「あぁ、娘がプレゼントしてくれたんだ」
「いいなぁ、羨ましい」
それでも通勤中も帰宅中もこのマフラーに顔を埋める。
寒さが身に染みるこんな日々だからこそ、余計に温かみを感じられるのだ。
お題:寒さが身に染みて