—過去と未来をつなぐ一輪の花—
私が子供の時、ある男の子が一輪のコスモスをプレゼントしてくれた。
コスモスの花言葉は、『愛情』
私は純粋に嬉しくて、それを受け取った。自分の部屋で大切に育てたのを、今でも覚えている。
けれどコスモスは寿命が短い。美しい花びらを咲かせても、一週間ほどで萎れてしまう。
それと同じように、彼と長くは一緒に居られなかった。
彼は病気でこの世を去ったのだ。
胸が苦しくて、彼がいなくなってしまった事が悲しくて、何日も泣いた。
それから私は大人になり、教師になった。
「先生ー、今日もちゃんとお水あげました!」
「佐藤くん、ありがとうございます」
教員用の机に、コスモスが咲いている。コスモスの花言葉には、もう一つ意味がある。
それは『調和』
様々な個性を持つ皆が、互いを認め合い、調和して欲しい。そんな思いがあって置いている。
時々空を見上げて思う。
彼は見てくれているのだろうか。
このコスモスが目印になるように、どうか、空の向こうから見つけてほしい。
お題:一輪のコスモス
—恋の音は唐突に—
恋をしたい。秋になるとそう思うのは何故だろうか。
「はぁ、彼氏欲しいー」
撮り溜めしていた恋愛ドラマを見終わり、思わず口にした。
ピピピと電子音が脇から鳴る。それを見ると三十八度の数値が出ていた。
「まだ下がらないかー」
今日は熱が出たので学校を休んだ。久しぶりに体調を崩したけれど、そこまで苦しくはない。むしろ、ランニングが出来そうなくらいに好調だ。
『ごめんね、帰るの夕方くらいになっちゃうかも』
お母さんからメッセージが届いた。テキトウにウサギのスタンプを返して、スマホを伏せた。
両親は共働きで、家には私一人。恋をしたいと思うのは、寂しいからというのもあると思う。
時計は午後三時を回っていた。
「何しようかな」
寝る気にもならないし、勉強する気も起きない。何か面白いテレビやっていないかな、とリモコンをいじる。
その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。モニターで確認する。
「はーい」
『山口です。今日鈴鹿さん休んでたから、プリント持って来ました』
「ごめん、ちょっと待ってね」
急いで服を着替えて、鏡で髪型を整える。
心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
「ごめん、お待たせ。ありがとう!」
「あ、元気そうで良かった。はい、プリントと……、これ良かったら食べて」
プリントと一緒に、レジ袋を手渡された。中には、ゼリーとスポーツドリンクが入っている。
「え、いいの?ありがとう……!」
「うん。お大事に!」
彼はそう言って、行ってしまった。
身体が熱い。もうしばらく、熱は下がらなくていいと思ってしまった。
お題:秋恋
—愛 love you—
「お願いだから、もう私に付き纏わないで」
冷たく鋭い彼女の言葉。それが僕の心に深く刺さった。でも僕には分かるんだ。それは彼女が本心で言っているわけではないという事を。
きっと、彼女は素直になれないだけ。僕はそう思う。
そんな事を言われた翌日も僕は、彼女を追いかけた。朝、彼女が家に出る時から、夕方、家に帰るまで、どんな時も目を離さない。
だって僕は彼女を愛しているから。
何で別れを切り出されたのか、未だに分からない。何か理由があるに違いない。
「だから、やめてって言ったよね。警察呼ぶよ」
またバレてしまった。次はもっと上手くやらなくちゃ。そう考えていた瞬間、後頭部に強い衝撃を感じた。
僕はそのまま地面に倒れ込んだ。彼女の顔が青くなっているのが見える。
「ストーカーってのはこいつか?」
後ろから若くてガタイのいい男が、金属バットを持ってやって来た。バットは血がベットリと付いている。僕の血だ。背後からそれで殴られたみたいだ。
その後、彼女は彼と何か話していたようだけれど、聞き取れなかった。そのまま僕の意識は暗闇の中に沈んだ。
僕は彼女を愛している。それ故にこんな最期は悪くない、なんて僕は思う。
お題:愛する、それ故に
—今夜は二人だけの世界—
「やっぱりここはいいよね。静かで落ち着くから」と彼女は言った。
都会から離れて、久々に地元に帰ってきた。ドがつくほどのこの田舎では、夜に出歩く人はほとんどいない。
静寂に包まれ、夜のうちは何処にいても二人っきりの空間になる。
「でも、僕たちって東京に憧れて引っ越したんだっけ」
僕は思わず笑ってしまう。テレビで見る東京の姿はキラキラしていて、羨ましいと思っていた。実際に生活してみると、便利で楽しい時間を過ごせる反面で、落ち着かないのだ。
「ないものねだりってやつだね」
歩いている道から見える空には、満天の星空が広がっている。心臓の鼓動だけがドクンドクンと聞こえる。
僕は何処に居ても、彼女と一緒なら幸せな日々を過ごせると思う。
こんな恥ずかしい台詞は言えないけれど、そう思う。
「明日さ、久しぶりに山村定食屋に行かない?」
「いいね行きたい!山村さん、私たちの事覚えてるかな……?」
静寂の中心で、改めて僕は彼女が好きなんだと感じた。
お題:静寂の中心で
—最期の決別—
車のドアを開けて外に出ると、秋の夜気がひやりと頬を撫でる。枯れ葉を踏む音と虫の鳴き声が響く、山の中に着いた。
「よし……」
ここ数年は、生きる事に嫌気がさしていた。だから逃げる事に決めたのだ。家から三時間かかるこの山には、誰もいないし私の事を見ている人もいない。
ここで終わりにしようと思う。
助手席で、旦那は眠っている。
ドアを開けて、身体を引き摺り出す。枯れ葉の上に放り投げ、周りの枯れ葉を彼の上に被せた。
「さようなら」
ポケットに入れていた、ライターで火をつけた。急いで車に戻り、アクセルを踏む。バックミラーの中で、夜の闇に立ち上がる炎が揺れている。
これでお仕舞いだ。
私の口角は、自然と釣り上がっていた。
お題:燃える葉