初心者太郎

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—恋の音は唐突に—

恋をしたい。秋になるとそう思うのは何故だろうか。

「はぁ、彼氏欲しいー」

撮り溜めしていた恋愛ドラマを見終わり、思わず口にした。
ピピピと電子音が脇から鳴る。それを見ると三十八度の数値が出ていた。

「まだ下がらないかー」

今日は熱が出たので学校を休んだ。久しぶりに体調を崩したけれど、そこまで苦しくはない。むしろ、ランニングが出来そうなくらいに好調だ。

『ごめんね、帰るの夕方くらいになっちゃうかも』

お母さんからメッセージが届いた。テキトウにウサギのスタンプを返して、スマホを伏せた。
両親は共働きで、家には私一人。恋をしたいと思うのは、寂しいからというのもあると思う。

時計は午後三時を回っていた。

「何しようかな」

寝る気にもならないし、勉強する気も起きない。何か面白いテレビやっていないかな、とリモコンをいじる。

その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。モニターで確認する。

「はーい」
『山口です。今日鈴鹿さん休んでたから、プリント持って来ました』
「ごめん、ちょっと待ってね」

急いで服を着替えて、鏡で髪型を整える。
心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。

「ごめん、お待たせ。ありがとう!」
「あ、元気そうで良かった。はい、プリントと……、これ良かったら食べて」

プリントと一緒に、レジ袋を手渡された。中には、ゼリーとスポーツドリンクが入っている。

「え、いいの?ありがとう……!」
「うん。お大事に!」

彼はそう言って、行ってしまった。

身体が熱い。もうしばらく、熱は下がらなくていいと思ってしまった。

お題:秋恋

10/9/2025, 3:02:55 PM