—今夜は二人だけの世界—
「やっぱりここはいいよね。静かで落ち着くから」と彼女は言った。
都会から離れて、久々に地元に帰ってきた。ドがつくほどのこの田舎では、夜に出歩く人はほとんどいない。
静寂に包まれ、夜のうちは何処にいても二人っきりの空間になる。
「でも、僕たちって東京に憧れて引っ越したんだっけ」
僕は思わず笑ってしまう。テレビで見る東京の姿はキラキラしていて、羨ましいと思っていた。実際に生活してみると、便利で楽しい時間を過ごせる反面で、落ち着かないのだ。
「ないものねだりってやつだね」
歩いている道から見える空には、満天の星空が広がっている。心臓の鼓動だけがドクンドクンと聞こえる。
僕は何処に居ても、彼女と一緒なら幸せな日々を過ごせると思う。
こんな恥ずかしい台詞は言えないけれど、そう思う。
「明日さ、久しぶりに山村定食屋に行かない?」
「いいね行きたい!山村さん、私たちの事覚えてるかな……?」
静寂の中心で、改めて僕は彼女が好きなんだと感じた。
お題:静寂の中心で
10/8/2025, 7:30:21 AM