何気なく夜空を見上げる。
東京の空はネオンや照明で明るいものの、冬になるとそれなりに星が光っているのが見える。
まばらな星々の輝きは、かえって宇宙の深淵を感じさせるような気がしないでもない。
そういえば、今見えている星の光は何万年も前のものだと聞いたことがある。
もしかしたら、もうあの場所には無いのかもしれないと聞いたことがある。
もう一度、夜空を見上げる。
宝石箱とは言い難いけれど、いにしえの輝きを眺めながら、遠い過去に思いを馳せた。
『時間よ止まれ』、そう強く念じた。
頼むから時間よ止まれ。
この瞬間が永遠に続いてくれれば。
そう願い、固く目を閉じる。
けれど、願いは叶うことはなかった。
けたたましく響く、目覚まし時計のアラーム。
刹那の微睡みは、こうして終わりを告げた。
君の声がする。
もう聞こえるはずのない君の声が、かすかに、でも確かに聞こえてくる。
進め、進め。
歩みを止めるな、と。
志半ばにして倒れてしまった君。
君のそばで、君のすることをわけもわからずただ見ていた自分。
どうして君は、そんな自分を選んだんだろう。
どうして自分だったんだろう。
自分には皆目わからない。
けれど、君の想いを無駄にしたくはない。
だから、自分は立ち上がる。
君の声を胸に。
『ありがとう』と口にするのが苦手だった。
理由は、こんな私のために手を煩わせてしまって申し訳ない、という気持ちが先にたつからだ。
だから何かをしてもらったときは、『ありがとう』ではなくて『ごめんなさい』とか『すみません』と言っていた。
有り難い、という気持ちよりも申し訳ないという気持ちのほうを強く感じているからだ。
そんな私に違和感を持つ人がいた。
どうして謝ってばかりいるの? とその人は言った。
謝っているつもりではない。正直な自分の気持ちだったのに。
恐る恐る、『ありがとう』を口にするようになったのは、それからだった。
以来もうかなり長いこと年は流れたが、未だに『ありがとう』と口にするとどこかこそばゆい。
あなたにそっと伝えたい
とても頑張っていますね
でも、時々肩の力を抜いて
ふっと息をつくことも大事だよ
ダメ人間の私からそんなことを言われても
ちっとも役には立たないかもしれないけれど