内藤晴人

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『ありがとう』と口にするのが苦手だった。
 理由は、こんな私のために手を煩わせてしまって申し訳ない、という気持ちが先にたつからだ。
 だから何かをしてもらったときは、『ありがとう』ではなくて『ごめんなさい』とか『すみません』と言っていた。
 有り難い、という気持ちよりも申し訳ないという気持ちのほうを強く感じているからだ。

 そんな私に違和感を持つ人がいた。
 どうして謝ってばかりいるの? とその人は言った。
 謝っているつもりではない。正直な自分の気持ちだったのに。

 恐る恐る、『ありがとう』を口にするようになったのは、それからだった。
 以来もうかなり長いこと年は流れたが、未だに『ありがとう』と口にするとどこかこそばゆい。

2/14/2025, 4:13:01 PM