澄んだ瞳。
君の目は澄んでいるねって言われたことはないが、
心のなかで街ですれ違う人と目が合うときに口に出しそうになることがある。
基本的に人と至近距離で関わることが苦手な僕は自分から話しかけに行くことができない。
怖いのだ。
普通の人たちの輪に入るのも、
自分が普通になってしまうのも。
でも魅力を感じた人のそばに行きたいと思うし、
話したいと思う。
だがそれはいつだって周りの人と少し違うなと思う人だった。
髪色でも、
目の色でも。
中でも目というのは僕の大好物だった。
キラキラした目。
緑色の目。
ハイライトの入らない黒い目。
ずっと見つめていたくなる。
だから僕は僕が好きだ。
特に僕は僕の目が好きだ。
僕の目にはハイライトが入らない。
写真なんかはいつも暗く映る。
でも近くで見れば栗色のきれいな目だ。
きっとこれを知っているのは僕と、
これを読んでしまった貴方だけだ。
僕らだけの秘密ですよ?
神様が舞い降りてきて、こう言った。
「 」
僕の耳はそれを拾えなかった。
僕の世界はずっと無音だ。
僕はそれが嫌じゃない。
哀れみも慈悲も僕には必要ない。
もちろん神様だって必要ない。
あぁ~、、、
眠たい。
寝よ。
おやすみ神様。
神様が舞い降りてこない明日が来ますように。
誰かのためになるならば僕は何でもするのかと聞かれた。
まず僕は誰かのためにというのがなんのことを指すのかわからなかった。
例えば僕が誰か特定の人のために行動すれば、
それはその人のためになったことになる。
それを踏まえて誰かのためとはなんだろう。
僕が無意識に行ったことが
僕の生身の体温すら知らない誰かのためになることを指すのだろうか。
じゃあもしも、
僕がペーパーナイフをたまたま購入して
たまたま僕にひったくり犯が襲いかかってきて
たまたま持っていたペーパーナイフで抵抗しようとして
たまたまひったくり犯がそれを奪うことができて
たまたまそれが僕の目にのめり込んで
たまたまひったくり犯が逃走することができたら
それは彼のためになるのだろうか。
だとしたら僕は彼に貢献したことになるというわけか。
でも彼はそれに対して、
たまたま彼のポッケに入っていたカッターで
たまたまそれに手が届いた僕に
たまたま逃走経路に先回りしていた僕に
たまたま胸にカッターを押し込まれて
たまたまそれが胸に入ってしまった彼は
たまたま膝を地につけるしかなくなったのだからそれはつまり、、、、
彼は僕に貢献した。
ということはお互いの生身の姿を知らない僕らは誰かのために行動したと。
そういうことになるのか。
それが誰かのためにということか。
何だ簡単。
僕ってば天災。
完全に理解したわ。
鳥かごがある。
いや、あるのだろう。
右手の感覚を頼りに真っ暗な世界の輪郭をたどる。
ひんやりとしたものが指に触れる。
上へ指をすべらせる。
真っ直ぐだった輪郭が曲線を描き出す。
左手でも触れてみる。
両手を下から上へすべらせる。
曲線を描き終わったところで右手と左手がぶつかった。
やはりこれは鳥かごだろうか。
鳥のさえずりなど聞こえはしなかったが。
だとしたらこれはただのかごだなぁ。
残念。
つまらないことに時間を使ってしまったな〜。
かごを抱いて水浸しの地面に倒れ込み、触れてみる。
冷たくはない。
生ぬるい。
かごに絡みついていた腕を解く。
かごを押しのけて体を起こす。
瞼を上げ、かごの方を見る。
そっちは毒々しい闇が広がっているだけだった。
鳥は入っていたのかなぁ。
仕方がない、確かめに行くか。
あのかごに扉なんかなかったように思えた。
もし入っていたとして
それはもう腐り、骨になり、隙間からこぼれ落ちているだろうが。
少し前まで昨日よりも明るいところを求めていたのに
今の僕にはどちらへ行けば明るいのかもわからない。
だから今日も好奇心に身をゆだねる。
友情が沈んでゆく。
折りたたんでいる指を開けばまだ届く。
腕を伸ばせばまだ届く。
肩の関節を外せばまだ届く。
ふと考えた。
友情というのは肩の関節を外してまで掴みたいか?
むしろ面倒なだけではないか?
右手から友情がまた一つこぼれた。
こぼれるほどあるのだ。
左手にはまだ友情が4つほど残っている。
うん、4つもあれば十分だろう。
むしろ1つで十分な気もするが。
ストックしておいて損はないだろうし。
右手の友情を右手ごと沈めた。
奇麗な奇麗な泡があがった。