「もう…朝……。」
カーテンから漏れる朝の光を見て、落胆する。
オールは良くないのについやってしまう自分に。
ちらりとスマホの上端を見ると6時半だった。
こんなに自堕落な生活ばかりしていて大丈夫なんだろうか。
そう思いつつのっそりもったり起き上がる。
朝ごはんを食べようにもお腹は空いていないし…
さっきまでたっぷりスマホの光を浴びていたから
スマホもテレビも見る気になれない。
「シロの散歩にでも行くか〜。」
カチャカチャ。
ズッズッ。
シロのハーネスの金具の音と、私の足音。
秋が近いとはいえ、まだまだ夏。
日が昇るのが早いなあ。
6時半って結構早いのに明るさは昼間と大差ない。
オールしたせいか、というか絶対そうなのだが、
体が重く、ひどく息切れする。
こうなるとわかっているけど徹夜はやめられないのだ。
もはや中毒性さえあるのではないだろうか。
「あ、公園!シロ、ちょっと休もう。」
公園のベンチに座り、ふうっと息をつく。
こんな自堕落な生活ももうそろそろやめないと。
健康にも悪い。
タッタッタッタッッ。
軽快な足音が耳に入った。
音がする方を目で追いかけると、きれいなお姉さんがランニングをしていた。
「さまになってんなぁ。。。
いいなぁ、あんなに痩せてて、美人で。
私なんか、太ってるし、デブやし、
見た目も最悪やけど、中身まで腐ってる。」
だめだ、最近自分より綺麗な人を見たり、
(私よりブスな人なんてこの世にいないけど)
幸せそうな人を見ると自己嫌悪に陥ってしまう。
嫌だなぁ。
普通に生きてるだけなのに、自分の嫌な部分を
感じ続けなきゃいけなくて、苦しい。
「まずは自分を認めてあげられるように、
ダイエットしようかなって思ったことは
なんっかいもあるけど、いっつも失敗して、
また自信なくして、、、悪循環なんだよなぁ」
「別に自分磨きってダイエットだけじゃないやろ」
「え。」
知らぬ間に知らない女の人が立っていた。
さらさらの黒髪。真っ白なワンピースに身を包み、
麦わら帽子を被って、いかにも清楚な女の人。
私が混乱している間にも、女の人は喋り倒す。
「ダイエットだけやなくて、服とかに気使ったら
どう?あんたの服、あんたに似合わん服やから
余計太って見えるんよ。」
いかにも清楚な見た目なのに口調は強くてびっくりする。
「オシャレって奥深いんよぉ。
私も最近気付いた!
似合う服着るだけで痩せて見えるし、
わくわくするんよ!」
女の人は目をキラッキラさせながら私に向かって
オシャレの楽しさを熱弁する。
やっと我を取り戻した私は、尋ねた。
「あのー、ところで、どちら様ですか?」
「あー、そんなん今気にする?
さちとでも呼んでくれ!」
「えーっと……じゃあ、さちさん、なんで私に
話しかけて…?くれたんですか?」
「えー?だってあんた、オシャレの楽しさ気づいて
なさそうなんやもん。
教えたくなってしまったわ〜」
「そ、そうなんですか。」
まずい。
こんなに押しが強い人は初めてかもしれない。
気後れしすぎてむしろムーンウォーク。
人見知りすぎるのもあってこの場を少しでも早く撤退してしまいたい。
犬の散歩って心持ちで家を出たのに、初対面の人と
話すなんて無理無理無理!
ありがとうございました、とだけ言って、この場を大急ぎで去ろう。
「あ、あ、あり」
「そうやん!
あんたが似合いそうな服、
私があげたらいいわ!」
「え?」
誰が初対面の、しかも大して愛想もない女に服をあげたがるのだろう。
私には理解不能だ。
「私、あんたがおしゃれに目覚めるきっかけに
なりたいんよ!そのためなら服も惜しまんわ!」
そう言ったかと思ったらさちさんは被っていた麦わら帽子をがばっと取り、帽子をくるっとひっくり返すと中にずぼっと手を突っ込んだ。
「えっえっえっ?」
一体何をやり始めたのかと思ってあたふたしていると、
信じられないことが起こったのだ。
なんと、麦わら帽子の中から、洋服がにゅにゅにゅんっと出てきたのだ。
思わず目を疑った。
ほっぺたもつねったがこれは夢じゃない。
「………え?」
今起こっていることが理解できない。
もう一度ほっぺたをつねる。
目を擦る。
それでも信じられなくてほっぺたをセルフビンタする。
夢じゃない。
現実だ。
こんなファンタジーなこと、あるんだ。
ドラえもんの道具みたいだ。
そんなことを思っていると、さちさんが麦わら帽子から出してきた服二着をどさっと私に持たせた。
「これ、あんたの骨格に合う服やから。
あんた、ブルベ冬やから黒のTシャツにしといて
あげたわ。骨格ストレートで体の厚みとか、
二の腕のボリュームとか気になるかもしれんか
ら、ジャストサイズの五分袖な。
スムースTやから肌触りもいいし、きれいめな
コーデにも合いやすいんよ。
あんた、顔タイプはソフトエレガントやな。
ぴったりや。いいやろ?」
「ほえ?」
話の9割は呪文に聞こえた。
どうやら、私に似合う服をくれたことだけはわかる。
「それと、ジーンズな。明るめのジーンズって
カジュアルみが強いから、Tシャツのきれいめ
な感じに合わせたらネイビーやな。
あんた、自分の体型気にしてるみたいやけど
安心せえ。そこまで太ってないから。
まあでも、一応、ぶかぶかすぎず、
ぴちぴちしすぎないやつ選んどいてあげたから。
ちょうど良い感じで痩せて見えるはずや。」
「ほ、ほうほう。ありがとうございます。」
今度のはなんとなくだけどわかったぞ。
さちさん、なかなか強引だけど、私のことよく考えて選んでくれたんだな。
「おしゃれを楽しむにはまず土台を作らんといか
ん。土台がしっかりしてないアレンジして個性出
してこ思ってもなかなか上手くいかんのよ。
初心者ならなおさらね。
だからまずはシンプルで、使い勝手良くて、
似合うやつ。
着てみたら分かるはずよ。」
「は、はい。分かりました……」
帰宅後。
「うおっ!!ほんとだ!さちさんの言った通り、
痩せて見える!!!しかも肌も明るく見える!
……もしかして、私って意外と太ってない
し、ブスでもないんじゃ…?」
こうして、私は、謎の麦わら帽子お姉さん、さちさんによって、おしゃれに目覚めたのであった………
途中です!
「上手くいかなくたっていい。」
不登校になった。
学校にいると苦しいから。
自動的に脳が他人にできて自分にはできないことをリストアップする。
それで、勝手に落ち込む。
ずっとずっとずっとずっと。
常にそんなことを考えていた。
考えたくもないのに。
他人を見るたびに、たとえ見なくても、会話が聞こえるたびに。
学校にいるだけで、生きているだけで、
自分の嫌な部分を見つけ続け、感じ続けなければならない。
それが苦しくてたまらなかった。
嫌でたまらなかった。
逃げ出したくてたまらなくって、逃げた。
それで、不登校になった。
何もしたくなかった。
何にも気力がわかなかった。
生きる気力さえわかなかった。
全部めんどくさくて、全部投げ出したかった。
もう生きたくない。
死にたいんじゃなくて、生きたくない。
生きてたら必ず辛いことがあるのに、なぜ生きるのだろう。
楽しいことだけあるんだったら生きていたいけど。
この先必ずと言っていいほど辛いことが待ち受けているのにそれでも進むという考えが私は信じられない。
それは、道の先は崖だと分かっていながら歩みを止めないのと一緒だ。
馬鹿なのか?世の中の人達は。
楽しいことのために辛いことを我慢するなんて
私には考えられない。
信じられない。
辛いことを我慢してやり過ごして生きていく。
そうやって生きることに一体何の価値があるのだろう?
もし、これから先、辛いことが起こりそうになったらすぐに死のう。
いやでも、
今さきちゃんは、普通しない経験をしているんだ。
貴重な経験なんだよ。
今は辛いかもしれない。
けどさきちゃんなら絶対乗り越えられるから。
僕はそう信じてる。
そしてその辛い経験を乗り越えられたら、
今度はその経験を人のために使ってほしい。
途中です
①出会い
あさひは、ピアノ教室の帰りだった。
ピアノバッグが足の前に来るように持ち、
右足を踏み出すときは左足で、
左足を踏み出すときは右足でバッグを蹴る。
もしお母さんがここにいたら怒るだろうなと
考えながら家に帰っていると、
ちょうど公園に通りかかった。
いつも誰もいない公園。
滑り台も、ブランコもないから当たり前なのだが。
あるのは、トンネルくらい。
トンネルでさえ古びていて、いつもはあんまり近づきたくないと思うのだが……
「あれ?」
きらっとトンネルの奥の方で何か光ったような。
あさひはなんか気になっトンネルに近づいた。
トンネルを覗き込み、はっと息を呑む。
なんと、トンネルを抜けた先は、大きな大きな木と、ちっちゃくて可愛らしい白い花がたくさんさいている原っぱに見えたのだ。
慌ててトンネルの中からではなく外から反対側を
見ても、そこにはただの砂場が見えるだけ。
木も、花も、原っぱもない。
もう一度トンネルを覗く。
ほっぺたをつねる。
夢じゃない。
あさひは確信した。
トンネルの向こうは、別の世界だ!!!
そう思ったら、体は勝手に動いていた。
トンネルの中に入り、反対側へとハイハイで向かう。
向こう側へ出ると、あさひは思わず呟いた。
「…きれい……」
どこまでも広がる原っぱ。
草花はさわさわとそよ風に揺られている。
白の花たちの上をモンシロチョウやアゲハチョウが
舞い、大樹からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
思わず目を閉じ、耳を澄ませ、小鳥のさえずりに耳を傾ける。
思い切り深呼吸すると、草花のにおいが鼻に入ってくる。
「どうしたの?こんなところで。」
目を開けると、そこには一人の男の子が立っていた。
名前は、みなとで8歳だと優しい笑顔で教えてくれた。
自分はあさひで5歳だと言うと、みなとは
あさひって呼び捨てでもいい?と聞いた。
うん、と言うと、みなとはなんだかすごく嬉しそうった。
みなとは、痩せ気味で色白の男の子だった。
あさひは、ずっとみなとを見ながら、ガリガリだなぁ、と思っていた。
しばらく遊んでいるうちにすっかり打ち解け、
あさひも最初はみなとくん、と呼んでいたけれど、
最後の方はみなと、と呼び捨てにしていた。
少し疲れたので大樹の下で休んでいると、
みなとが少し強張った顔で言った。
「もし、良かったらなんだけどさ…
みなとお兄ちゃんって呼んでくれないかな?」
「わかった!じゃあさ、みなとお兄ちゃん、
明日も遊んでくれる?」
「うん、いいよ。でも晴れたらね。晴れたら、
今日と同じ時間に、ここで遊ぼう。」
みなとは嬉しそうに笑った。
②楽しい日々
次の日。
あさひは昨日と同じ時間、泣きながら公園に行き、トンネルをくぐった。
お母さんに怒られてしまったのだ。
毎日少しはピアノの練習をすると決めているのに
それをさぼったからだった。
「だってっっ、毎日同じことするとかつまんないんだもんっっ。」
「そんなに悲しそうな顔してどうしたの?」
優しい声がした。
気づけば、みなとが心配そうにあさひの顔を覗き込んでいる。
あさひは、お母さんに練習をさぼって怒られたことを伝えた。
みなとはうーんとしばらく考えたあと、
口を開いた。
「あさひはピアノ好き?」
「うん、練習は嫌いだけど。
いろんな音が出て、いろんな曲が弾けるとこが好
きなの。」
「」
③みなとが本当におにいちゃんであることが発覚
家に帰って玄関で靴を脱いでいると、
靴箱が目に止まった。
「え…なんでみなとお兄ちゃんの写真がここに?」
「え、なんでみなとのこと知ってるの?」
声がした方を見上げると、お母さんがいた。
なかなかあさひがリビングにやってこないので
様子見にしに来たのだ。
「え…」
あさひはお母さんがみなとを知っていることに
驚いた。
「あ、もしかしてばあばに聞いた?
みなとは、あさひのお兄ちゃんだってこと。」
「…え?そうなの?」
「あれ?ばあばに聞いたんじゃなかったの?」
「……」
あさひは驚きのあまり、言葉が出なかった。
「…で、でもさ、私、お兄ちゃんに会ったことないよ?」
「え、それもばあばに聞いたんじゃないの?
まあ、いいか。えーっと……。」
お母さんは、あさひにどういう伝え方をするか迷っているようだった。
しばらくの沈黙の後、お母さんはゆっくりと口を開く。
「…みなとはね、あさひがまだ赤ちゃんの頃に病気になっちゃったの。…それで、天国に行っちゃったのよ。」
「え…。」
みなとお兄ちゃんは、もう死んでる?
生きてない?
じゃあ、私が遊んでるみなとお兄ちゃんは誰?
もしかして、幽霊?
考える前に体が動いていた。
「お母さん、ちょっとだけ散歩行ってくる!!」
突然あさひは家を飛び出した。
いつもの原っぱに行かなきゃ。
聞かなくちゃ。
早く行かないと、もう会えなくなる気がするから。
「あさひー!どこ行くのよ!!!」
後ろの方で、お母さんの声が聞こえる。
急に家を飛び出したのだから、当たり前だ。
でも今は、そんなこと気にしてる場合じゃない。
前だけ見て走る。
家を出てすぐ左に曲がり、まっすぐ進む。
突き当り右に曲がり、またしばらくまっすぐ進む。
下校中の小学生がちらほらいる。
のんびり談笑しながら帰る小学生達と、
必死に走るあさひは対照的だ。
息を切らしてもまだなお必死に走る5歳の女の子というのは珍しいので、目で追われる。
額にたれてきた汗をぐっと拭う。
あと少し。
「はぁ、はぁ。」
だいぶ息苦しくなってきた。
公園が見えてくると、息苦しいことを忘れ、自然とスピードを一段階上がった。
「はあっ、はあっ、おぅ、おぅぇっっ」
吐き気を気合で抑え込み、公園へ一直線。
公園には、誰もいなかった。
いつもいないけど。
トンネルへ走る。
中へ入って、反対側へ急いだ。
手や足の汗で滑ってこけかけたし、進みづらかった。
トンネルの向こうは、いつもと同じ、大きい大きい木と、原っぱと、原っぱに咲く小さな白い花々だった。
だけれど、少し違ったのは、世界が優しいオレンジで包まれていることだった。
あたたかい西日が、全てをやわらかく包みこんでいるようで心地よい。
それから、いつもなら木の前でにこにこしている
はずのみなとが、今は寂しそうに笑っていた。
「……みなと……お兄ちゃん……」
声がかすれる。
「気づいちゃった?僕の正体。」
みなとは優しく言った。
「みなとお兄ちゃんは、ほんとのお兄ちゃんなの?
幽霊なの?」
「そうだよ。今まで黙ってて、ごめんね。」
「…なんでわたしは幽霊が見えてるの?」
「それは、僕が神様にお願いしたからだよ。
僕、ずっとずっと遊びたかったんだ、
あさひと。」
「…わたしと遊びたかった…?」
「うん。僕はあさひが生まれてから、お母さんが
あさひのお世話ずっとしてたから、
嫌だったんだ。だから、あさひも嫌いだった。
だから、全然遊んであげなかった。
それを、死んでから後悔したんだ。」
「そうなの?」
「あさひがお母さんのお腹の中にいるって
知ったとき、僕、絶対にいいお兄ちゃんになる
って、決めてたんだ。だけど、生まれてからは
お母さんがあさひに取られちゃった気分で、
悲しくて、そんなことすっかり忘れてたんだ
よ。」
「……。」
「死んだあと、気づいたんだよ。
あさひのいいお兄ちゃんになるって決めたのに、
僕はそれが生きている間にできなかった。
それがすごく悔しかったから、もう一度だけ
チャンスをくださいって神様にお願いしたんだ
よ。」
「そう、なんだ。でも、そのチャンスってさ、
お母さんとかお父さんに会うのに使ったら
良かったんじゃない?」
「うーん。確かに会いたいんだけど。。。
死んだすぐ後は、
お母さんにお父さんにゆうたくんに
はやとくんにおばあちゃんにおじいちゃんに
いとこのはっちゃんに、もう会えないのがすごく
悲しかった。
けど、ある日お父さんが言ったんだ。
こんなに多くの人に悲しんでもらえて、
みなとは幸せだろうなって。」
「…悲しいのに幸せなの?」
「そうだよ。
悲しんでくれるってことはそれだけ僕のことを
大切に思ってくれてるからなんだよ。
それって幸せなことだと思うな。」
あさひが眉間にシワを寄せて考えていると、
みなとは笑った。
「ふふっ、難しいよね。
わからなくてもいいよ。
僕は、皆が僕のことを大切に思ってくれてた
ことを知れて嬉しかった。別にもう会えなくて
も、それだけでいいかもなって思ったんだ。」
「なんか難しいけど、みなとお兄ちゃんは嬉しそう
だから、きっと良いことなんだね。」
みなとは頷いた。
「うん。。。こうやってあさひとたくさん遊べて、
お世話できて、僕はすごく楽しかったけど、
いいお兄ちゃんになれたのかなぁ。。。」
「もちろん!みなとお兄ちゃんは
すごくいいお兄ちゃんに決まってるじゃん!!
いっぱい遊んでくれるし、
優しくしてくれるし、かっこいいし、
あと、あと……」
あさひは放っておいたらみなとのいいお兄ちゃんポイントを永遠とあげていきそうだった。
みなとは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら
初めてあさひの話をさえぎる。
「ちょっちょっ、ちょっとまってあさひ。」
「え?なんで?まだあるよ。足もすごく速いし…
ぎゅーってしてほしいって言ったらしてくれる
し…」
「いや、いい!もういいから!わかったわかった!
あさひが僕のこといいお兄ちゃんだと思ってくれ
てるのはすごくわかったから!!!」
「…そう?」
「うん、うん!すごくわかった!ありがとう。」
すごく恥ずかしかったけど、あさひが本当にみなとをいいお兄ちゃんだと思ってくれてるのが分かって
すごく嬉しかった。
「良かった……いいお兄ちゃんになれた……」
思わず呟くと、すかさずあさひが言った。
「そうだよ!!みなとお兄ちゃんは、すごく
いいお兄ちゃんだよ!」
みなとは嬉しそうに、そして、満足気に笑った。
と同時に、みなとの周りに小さなキラキラが現れる。
だんだんキラキラは、みなとの体を優しく包み込むようにして増えていく。
「え…?何これ?」
あさひが不思議そうに言うと、みなとが答えた。
「もう、あさひとバイバイしないと。」
「わかった!明日も晴れたら今日と同じ時間に
ここだよね?」
みなとはゆっくり首を振った。
「え?違うの?あ!もしかして、雨が降っても遊んでくれるの?嬉しい!」
みなとはあさひの前向きさでもっと悲しくなった。
「違うんだ…違うんだよ、あさひ。」
「違う…?どういうこと?」
「もう、僕はあさひとは会えなくなるんだ。
ずっとバイバイってことだよ。」
あさひは一瞬驚きで固まった。
その後すぐ、たくさんの大粒の涙があさひの顔をポロポロと流れる。
「うわーーーーんうわーーーーーん
なんでっ…?なんで?みなとお兄ちゃんはっ、
ずっとっ、あさひのっ、そばにっ、
いてくれるんっじゃないのっ?」
嗚咽を混じりらせながら一生懸命に訴えるあさひを見てみなとも胸が痛くなる。
みなとはあさひをぎゅっと抱きしめ、背中をさすってあげた。
それからしばらくはずっと、世界はあさひの鳴き声で満たされていた。
あさひが泣き止むまでの間、みなとはずっと
あさひを抱きしめ、優しい言葉をかけ続けた。
あさひが少し落ち着いてきたとき、みなとは言った。
「どうしてもあさひに会いたいって神様にわがまま
言って願いを叶えてもらったんだ。
その代わり、僕があさひのいいお兄ちゃんになれ
たって分かったらすぐ戻るって約束したんだ。
少ししか一緒にいられなかったけど、
すごく楽しかった。ありがとう。」
あさひは、みなとの方に埋めていた顔を上げ、
みなとの顔を見た。
「……わたしもっ、楽しかったっ」
「…良かった…」
キラキラがより一層濃くなる。
幼いあさひでも分かった、もうお別れの時間だと。
もうみなとがあと何秒ここにいるかわからないと
自覚する。
あさひは思わず口を開いた。
「…お兄ちゃん、大好き。」
もっともっとキラキラは濃くなり、だんだんみなとが見えなくなっていく。
みなとは顔をほころばせて、言葉を返した。
「ありがとう。。。僕もあさひのことが大好きだよ。。。」
そして、、、ついにみなとは見えなくなった。
気づくと、あさひは公園のトンネルの前で
空を見上げていた。
もう、オレンジ色の空ではなく、赤紫の空へと変化している。
雲一つない綺麗な夕焼け空を見上げながら、
あさひは思った。
みなとと晴れの日しか遊べなかったのは、
きっと、雲があったら雲が邪魔で、空から降りてこられなかったからだ。
だからみなとはいつも言っていたのだ。
「明日晴れたら、遊ぼうね。」
と。
だから、一人でいたい。
ざわざわした教室。
入り混ざり合うそれぞれのしゃべり声。
たくさんの物音。
ざわざわ、ざわざわ。
がやがや、がやがや。
耳に圧がかかる感じがする。
苦手だ。
静かな場所に行きたいけど、学校に静かな場所なんてない。
どこにいても、何をしていても、人の声や物音は聞こえる。
だから、学校は嫌いだ。
「ねぇ、一緒体育館行こうよ。」
誘われたのは、私じゃない。
私の隣の子、だ。
そうか、次は体育か。
私も体操服セットを手に取り、教室を出る。
皆、誰かしらと一緒に歩いている。
急に根拠もなく不安になる。
誰でもいいから誰かと一緒にいないと。
一人は駄目だ。
でもすぐに思い直す。
なぜ一人が駄目なんだ?
別にいいじゃないか。
誰にも迷惑かけてないし、自分が誰かといるより一人でいるほうが好きなんだったら
何の問題もないだろう。
突然。
「あっっ」
ガチャッッッとドスッッッが混ざったような音がした。
声を出したときにはもう落ちていた。
筆箱が。
私のじゃないけど。
私より前にいた子が屈んで拾った。
「はい。」
「ありがとー。」
明るいけど、心のこもってないありがとう。
そういう人が多い気がする。
私もなかなかできないけど、
心から感謝の気持ちを伝えられる人って、どのくらいいるのだろう。
大抵の人は、感謝する場面だから、
"とりあえず"言っている感がある。
相手の目をしっかり見て、笑顔で、心から感謝してくれる。
そういう人のためなら筆箱拾ってあげたくなる。。。
いや、やっぱ違う。
私は、私という人間は、人のために何か消費するのが大嫌いだ。
たとえそれがどんなに良い人だろうと。
消費するものは時間でも、体力でも、ペンのインクでも、気力でも全部全部嫌。
他人のために労力を使って、しかも無償で。
私に何の得があるのか。
デメリットしかないことをなぜ自らやらなければならないのか。
自分が落としたなら自分が拾えばいいだけの話だ。
似たようなことを人と話すときも思う。
誰でも、多かれ少なかれ、相手の好きそうな話題、リアクションを探しながら人と話す。
相手に合わせようとする。
合わせなければならないと思ってしまう。
合わせなければ、相手から合わないやつだと思われてしまう気がして。
だから、私は、他人のために自分の気力が削がれることは嫌いなはずなのに
相手にぴったり合わせようとしてしまう。
すると、すごく疲れる。
似た価値観の人だったら、きっと楽。きっと楽しい。
だけど、私の価値観は独特だから
価値観が合わない場合の方が多い。
だから結局人と合わせることが多くなる。
嫌だ。
人と合わせるのって、疲れる。
だったら最初から一人のほうが楽。
でも、一人は楽だけど、ときに辛い。
痛くて苦しくてどうしようもないとき、誰も助けてくれない。
一人で全部の痛みを背負わなければならない。
それでも私は一人がいい。
結局のところ、人に助けを求めても、
自分の求めている助け方でなければ不満に感じてしまう。
ただでさえ今の状況でも余裕がないのに、さらにマイナスの感情を入れたくない。
「だから、一人で居たい(痛い)んだ。」
澄んだ瞳
人間の瞳って本当に綺麗だ。
陽の光が入る窓辺で、鏡の中の自分を覗いたとき、
気づいた。
普段瞳に注目してじっくり観察するなんてこと
ないんだけど、その日はパーソナルカラー診断をしていたから、瞳の色の判別をするために観察していた。
瞳をよーく見てみると、真ん中は真っ黒だけど、その周りは茶色だった。
茶色の部分には黒いところを中心として、
花火が飛び散るときのように焦げ茶の模様がたくさんあった。
点というには長くて、線と言うには短い模様がたくさんあった。
人間の瞳ってガラス玉みたいだけど、ガラス玉とはまた違う。
でも、透き通っていて、綺麗なのは変わらない。
日の光が瞳を透き通らせている。
本当に綺麗だ。
人間の瞳って、本当に綺麗だ。
透き通っていて、思わず吸い込まれるような、
不思議な魅力がある。
普通に生活してて自分の瞳をじっくり見てみることなんてほとんどないだろうから、
皆一度自分の瞳を覗いてみてほしい。
きっとすごく綺麗だから。