「やばい遅れる…!!」
「歩くんじゃねぇぞ走れ走れ!!!」
「前髪……なんて気にしていられないわ!笑」
「間に合えっ」
キーンコーンカーンコーン…と、
流石に聞き飽きたチャイムが鳴り、挨拶を終えた瞬間、
私達は、全力疾走で廊下、階段を駆け抜ける。
歩いている暇なんてありゃしない。
皆必死だ。
我が校の授業間の休み時間はたったの「5分」。
まぁ大体の学校がそうかもしれないけど。
移動教室がある時は、走らないと間に合わない。
だから、こうして私達は走っている。
ドタバタと音を立て、
大人数で走る様は、少し不気味かもしれない。
階段を2段飛ばしで駆け上がる。
そして、いつも思う。
なんで、この学校は4階もあるの!?……と。
1階から3階まで登らなければならない。
しかも、前の先生の授業が長引いたから、結構やばい。
もうあの先生嫌い。
5分しかないんだよ!?
いっその事全部10分にしてよ。
3階にある教室が見えてきた。
廊下を駆け抜ける。
教室のドアを潜ろうとしたその時、
チャイムが鳴った。
椅子に着くまでが、勝負。
色んな机にぶつかりながら、席へ進む。
よし、座れた!
そう思った時にチャイムは鳴り終わった。
「…余韻はセーフで!!笑」
「いやぁ疲れた〜」
お互い称えあったあと、窓を全開にして、
まだ少しの熱気を残したまま、授業が始まった。
指を掛けた引き金に、力を込めた。
腕の震えが止まらない。
目標を捉えられない。
止まってよ、お願い。
撃たなきゃ。
なんで、引き金を引くだけなのに。
………いや、
やっぱ、だめだ。
”撃てない”。
銃口の先には、幸せそうに笑っている君がいるから。
君がふと私の方を向いた。
視線で気づいたのかもしれない。
目が合った。
私は、はっと我に返った瞬間、
力が入らなくなって、地面にへたりこんだ。
あぁ、やっぱり撃てなかった、。
ごめんなさい。
ごめん、こんな事してごめん。
ずっと親友のフリしててごめん。
謝りたいことがたくさんあった。
それが絡まって頭の中でぐるぐるしている。
君は、一緒に居た友達と離れて私のもとに走ってきた。
なんで、
こっち来ないでよ、こんな私見せたくない。
そして、君は私の手に握られている拳銃に目を落として、
それに気づかないフリをして笑った。
「大丈夫?」
そんな優しさに、
自分が情けなくなって、後悔とか、罪悪感とかでいっぱいになって涙がぽろぽろと流れた。
「ごめん、ごめんね…ごめんなさい」
ただひたすら謝る私に何を思ったのか、目の前に君の手のひらがあった。
微笑んでる君。
恐る恐る、震える手で君の手を握った。
手を引いて立ち上がらせてくれたあと、
君はなんて事ないように、いつもの笑顔で言った。
「アイス買って帰ろっか」
「でも、…」
命令に逆らったから、君の身も危ないんだよ。
そう口を開こうとする前に、
君は突然駆け出した。
見慣れた、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
色んなことを飲み込んで、静かに頷いた。
責任は全部私が負えばいい。
そう思って、
繋いだ手に力を込めた。
何よりも本気でやった部活とか、
友達と歩いた帰り道とか、
頭を悩ませたテスト期間とか、
胸が高鳴った初恋とか、
そんな何気ない毎日が青春だった、
あの頃がたまらなく恋しい。
上司に厳しく怒られ、俯いていた電車の中で、
あの頃を思い出した。
戻りたい。
あの日々に。
思わず涙が零れそうになるのを堪えて、
なんとか家の玄関を開けた。
わかっていたつもりではいた。
でも、あまりにも夢見た理想とかけ離れていた。
甘く見ていたんだ。
だから、縋る思いであの頃が詰まっている箱を開けた。
中学、高校の卒アルに、体育祭の時のハチマキ。
修学旅行のときノリで買った変なマスコットキャラのぬいぐるみ。
お揃いのキーホルダー。
卒業証書。
後輩から貰った寄せ書き。
1つ1つ見ていくと、思わず笑ってしまうものが多かった。
あぁ、こんな事やったな。
懐かしいな。
写真の中で、生き生きと輝いている自分達。
こんな大人になってしまってごめん。
友達と書きあった寄せ書きを見ていると、
1つの言葉が目に留まった。
『俺達は、此処にいる!!!!』
思わず目を見開いた。
多分、忘れかけていた何かを忘れていた事に気づいたから。
写真の中の笑っている自分と目が合った。
そして、無意識に笑っていた。
久しぶりに、声を出して笑った。
よく、「過去は振り返るな」「前だけ見て進め」
なんて言葉を聞くけど、
思い出して、また戻りたいと思う日が来れば、
戻ればいい。
別に止まっている訳では無いのだから。
また過去の自分達に救われる日が来るだろう。
「夏の大三角ってどれだっけ?」
「え、あれっぽくない?」
空に指さして笑う君。
懐かしいね、とかそんなことを話しているといつの間にか花火は始まった。
きらきらと輝く瞳。
花火よりも眩しい笑顔。
揺れる綺麗な髪。
人混みに押されて触れる肩。
夏らしい水色の浴衣。
歩く度に聞こえる下駄の音。
全部に惹かれて、つい見とれていた。
不意に肩を叩かれて後ろを振り返ると、
「お待たせ~。花火始まったな」
屋台へ買い物に行ってくれていた親友が戻ってきた。
「えー、ありがとっ!」「何買ってきてくれたの〜?」
俺から離れ、親友に駆け寄ってく君。
つい嫉妬してしまう。
「……好きなんだけどな」
2人は会話してるのと、花火の音が鳴り響いていることで今の呟きは虚空に儚く消えただけだった。
なんとなく2人の距離が近い気がして、目を逸らした。
見ていられなかった。
邪魔をしないように1人花火を見る自分に嫌気がさしてきた頃、スマホの通知がピコンっと鳴った。
それはさっき交換した君からの連絡で。
「私、親友くんのことが好きだから、」
「2人きりにしてくれないかな?」
「お願い!」
という内容のもの。
可愛いスタンプとともに送られてきたメッセージに俺は静かに息をついた。
…まじか。
まだ話し込んでいる2人を一瞥して何も言わずにその場をあとにした。
「わかった」
そう君に送って会場から出たときに、丁度花火は終わった。
花火は恋みたいに儚く消えるなんて、
上手く言ったもんだな、と笑えてくる。
あの2人が結ばれませんように、なんて最低なお願いを心の中でしながら、ふと空を見上げると星が輝いていた。
「夏の三角形かよ」
ため息をついて苦笑した。