中宮雷火

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4/18/2025, 2:32:32 PM

新しい小説を書き始めた

4/11/2025, 1:05:56 PM

【君と僕とのしゅうまつ】

花火大会の日に、由良とデートができるなんて夢にも思っていなかった。
夏の暑さが最高潮に達した、8月最後の週末。
この日は花火大会なのだ。
せっかくさいごなのだから、好きな人と花火を見上げていたいじゃないか。
もちろん、(幼馴染とはいえ)由良に声を掛けるのは、かなりの勇気が必要だった。
しかし、
「新太。
えっと……、今度の花火大会、良かったら一緒に行かない?」
なんて、向こうから誘ってくれるとは思ってもいなかった。
「も、もちろん」
頬が火照るのを感じた。
気温30度にしては、やけに暑かったことを覚えている。

僕の隣で歩く由良は、それはそれは美しい浴衣を着ていた。
白地に色とりどりの朝顔がぱっと咲いていて、まるで太陽に照らされたドロップのようだ。
髪も綺麗に結っているし、さくらんぼのイヤリングが揺れる様も可愛らしい。
好きな人には「美しい」とか「可愛い」などの感情を、いとも簡単に抱いてしまうのだ。
僕は、それが何とも不思議で堪らない。

「あれ、思ったより人いないね」
神社に着いた僕達は、辺りを見回して落胆した。
屋台が端から端までずらっと並んでいるのだが、屋台の活気に反してお客は殆どいなかった。
なんだ、つまんないの。
僕は、偶然足元にあった石ころを蹴飛ばした。
石ころは、カラッコロッと虚しい音を立てて何処かへ行ってしまった。

僕達はりんご飴や綿菓子を口いっぱいに頬張った。
「綿菓子食べるのも、今日が最後か。」
「そんなこと言うなよ……」
ただただ無言で食べた。
いや、無言で食べるしか無かった。

しかし、こんな静寂はすぐに終わった。
花火が打ち上げられたからだ。
「うわーっ!綺麗!」
由良ははしゃぎながら、おもむろにスマホを取り出して写真を撮り始めた。
そんなことしても、意味ないんだけどなあ。
僕は打ちひしがれて、ただ膝を抱えて花火を見つめるだけだった。

「今言うことじゃ無いんだけどさ、」
僕はボソッと言った。
「前から、由良のこと好きだったんだよね」
僕は花火を眺めながら言った。
すると由良は次第に泣き始めてしまった。
「なんで、なんで今言うの……?
遅いよ……バカッ!」
「そうだよな……はは」
僕はただ、俯いて笑うことしかできなかった。
由良の顔を見るには、勇気が必要だった。
「今更すぎるって。
もう……隕石降ってくるよ」
僕は空を見上げた。
そこには花火ではなく、炎を纏った隕石があった。
僕達の終末は、後味の悪い恋愛だった。

4/3/2025, 1:10:13 PM

「もしもシンデレラが法律に詳しかったら」という小説を書いているのですが、興味ある人いますか?

(noteでも同じ投稿をしています)

3/28/2025, 10:43:22 AM

【猫休み】

子供が産まれてからというもの、生活は一段と賑やかになった。
大人2人、子供1人(由花という名前だ)、猫のミュウとピコ、そしてこの前産まれた猫の赤ちゃんが1匹。
「赤ちゃんの名前、リリが良いと思う!」
由花に「リリ」と名付けられた猫は、小さな布団の中でぐっすりと眠っていた。

3ヶ月後。
家にお客さんが来た。
「可愛らしいねえ」
お客さんはそう言って、リリ達の頭を撫でてくれた。
「由花ちゃんは猫好き?」
「うん、好き!」
「この子、この前の参観日に猫の作文書いたんですよ」
「あらぁ!是非読んでみたいわ」
そうして我が家のリビングでは、作文の発表会が行なわれた。

『私の家には、3匹の猫がいます。
ミュウ、ピコ、リリという名前です。
ミュウがお母さん、ピコはお父さん、リリはミュウとピコの子供です。
ミュウはとても優しくて、リリの面倒を付きっきりでみています。
ピコはとても落ち着いていて、大人っぽいです。
リリはこの前産まれたばかりの猫です。
とても甘えん坊です。
私はミュウもピコもリリも大好きです。
3匹は私にとって「飼い猫」ではなく「家族」です。
一緒にいられて、とても幸せです!』

由花のスピーチで、不覚にもなきそうになった。
僕も参観日に行きたかった。
「ミュウ」
ミュウが鳴いた。
ミュウはいつも「ミュウ」と鳴くから、ミュウなのだ。
「小さな幸せって、こういう事を言うのねぇ」
「違うよ」
由花はお客さんに言った。
「大きな幸せだよ」

小さな幸せ、か。
お客さんはそう言ったけど、由花は「大きな幸せ」と言った。
幸せが大きくても小さくても、別に良いんだけどね。
でも、僕達はあと10年しか一緒にいられないから、小さな幸せなのかもしれない。
いや、短い幸せというべきか。
まあ、どっちでもいい。
「ニャア〜」
僕は鳴いた。

3/27/2025, 11:18:00 AM

【春になったら掘り起こすもの】

春めく公園は、桜の花びらに満ちていた。
今年も、桜が降る季節がやって来たのだ。

桜が咲いて真っ先にすることは、桜の花びらを拾い集めることだ。
何枚も何枚も、満足するまで拾う。
やがて満足したら、今度は公園の土を掘り起こして小さな穴を作るのだ。
そして穴が掘れたら、その中に桜の花びらを埋めるのだ。
これを私は「桜のタイムカプセル」と呼んでいる。
1年後、また桜が降る季節になったら掘り起こすのだ。

しかし、私はいつも桜を埋めた場所を忘れてしまうのだ。
毎年、「あれ、どこに埋めたっけ?」と探し続けるのだが、桜を掘り起こすことに成功したことは無い。

その日も、私は桜を拾い集めていた。
地面にしゃがみ込んで、丁寧に一枚ずつ拾い上げていた。

公園の一角には、小さな東屋ががあった。
屋根のあるベンチみたいなものだ。
そこには色んな人(大抵はお爺さんやお婆さん)が座るのだが、この日は杖をついたお爺さんが座っていた。

「お嬢ちゃん、桜が好きなのかい?」
私はお爺さんに話しかけられた。
人見知りな私は、黙ってコクっと頷いた。
「そうか」
お爺さんはそう言うと、よっこらしょと立ち上がり、桜の木に手を伸ばした。
そして、お爺さんは桜の枝をポキっと折って、私に手渡した。
「ほら、」
お爺さんの手に握られた桜の枝は、それはそれは可愛らしかった。
「ありがとう」
人見知りな私は、小さな声で感謝をした。

家に帰ってから、お母さんに桜の枝を見せた。
お母さんは喜んで、桜をリビングの花瓶に生けてくれた。
水の入った花瓶に生けられた桜は、心なしか喜んでいるように感じられた。

その夜、私はパソコンで「さくらのえだ 折る」と調べた。
「さくら折るばかうめ切らぬばか」「きぶつそんかいざい」「ばっきん」など、やたらと恐ろしいワードを目にしてしまった。
あ、桜を折るのってだめだったんだ。
そう理解した私は、パソコンをそっと閉じた。

翌年の春。
案の定、埋めた桜は見つからなかった。
桜の枝をくれたお爺さんに会うことも無かった。
花瓶に挿した桜の枝は、1週間後にはリビングから姿を消していた。

私は例年と同じように桜を拾い集めては土に埋めた。
桜を拾いながら、お爺さんが折って手渡してくれた桜の枝のことを思い出していた。
もちろん、このことは他の人には言えない。

春になったら掘り起こすものが、増えたみたいだ。

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