中宮雷火

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【春になったら掘り起こすもの】

春めく公園は、桜の花びらに満ちていた。
今年も、桜が降る季節がやって来たのだ。

桜が咲いて真っ先にすることは、桜の花びらを拾い集めることだ。
何枚も何枚も、満足するまで拾う。
やがて満足したら、今度は公園の土を掘り起こして小さな穴を作るのだ。
そして穴が掘れたら、その中に桜の花びらを埋めるのだ。
これを私は「桜のタイムカプセル」と呼んでいる。
1年後、また桜が降る季節になったら掘り起こすのだ。

しかし、私はいつも桜を埋めた場所を忘れてしまうのだ。
毎年、「あれ、どこに埋めたっけ?」と探し続けるのだが、桜を掘り起こすことに成功したことは無い。

その日も、私は桜を拾い集めていた。
地面にしゃがみ込んで、丁寧に一枚ずつ拾い上げていた。

公園の一角には、小さな東屋ががあった。
屋根のあるベンチみたいなものだ。
そこには色んな人(大抵はお爺さんやお婆さん)が座るのだが、この日は杖をついたお爺さんが座っていた。

「お嬢ちゃん、桜が好きなのかい?」
私はお爺さんに話しかけられた。
人見知りな私は、黙ってコクっと頷いた。
「そうか」
お爺さんはそう言うと、よっこらしょと立ち上がり、桜の木に手を伸ばした。
そして、お爺さんは桜の枝をポキっと折って、私に手渡した。
「ほら、」
お爺さんの手に握られた桜の枝は、それはそれは可愛らしかった。
「ありがとう」
人見知りな私は、小さな声で感謝をした。

家に帰ってから、お母さんに桜の枝を見せた。
お母さんは喜んで、桜をリビングの花瓶に生けてくれた。
水の入った花瓶に生けられた桜は、心なしか喜んでいるように感じられた。

その夜、私はパソコンで「さくらのえだ 折る」と調べた。
「さくら折るばかうめ切らぬばか」「きぶつそんかいざい」「ばっきん」など、やたらと恐ろしいワードを目にしてしまった。
あ、桜を折るのってだめだったんだ。
そう理解した私は、パソコンをそっと閉じた。

翌年の春。
案の定、埋めた桜は見つからなかった。
桜の枝をくれたお爺さんに会うことも無かった。
花瓶に挿した桜の枝は、1週間後にはリビングから姿を消していた。

私は例年と同じように桜を拾い集めては土に埋めた。
桜を拾いながら、お爺さんが折って手渡してくれた桜の枝のことを思い出していた。
もちろん、このことは他の人には言えない。

春になったら掘り起こすものが、増えたみたいだ。

3/27/2025, 11:18:00 AM