中宮雷火

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3/14/2025, 1:23:45 PM

【赤い糸】

死の間際に君は言った。
「生まれ変わったら、私を迎えに来て……」
そう言って、君は冷たい雪の降る日に旅立った。

時が経ち、僕にもお迎えがやって来た。
僕は一度たりとも「あの約束」を忘れたりしなかった。
生まれ変わったら、絶対に君を迎えに行く。
そう胸に誓って、僕も旅立った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
生まれ変わった僕は、21世紀の日本にいた。
愛する人はどこにいるのか分からない。
違う国、違う大陸にいるかもしれない。
だけど、それでも僕は構わなかった。

恋人は赤い糸で結ばれていて 、惹かれ合うらしい。
つまり、赤い糸が愛する人の居場所を教えてくれるということだ。
だけど、あまりに距離が離れすぎていると赤い糸が見えない。
だから、僕自身が動き回らなければいけなかった。

まずは日本を探すことにした。
東京から始まり、北は北海道、南は沖縄まで、日本中を探し回った。
赤い糸は全く見えなかった。

愛する人は外国にいるのかもしれないと考え、世界を一周することにした。
北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、多くの時間とお金をかけて、愛する人を探すことにした。

そうして、僕は40歳になった。
体力的にしんどい。
愛する人に会えず、心もしんどい。
もう、今世では会えないかもしれない。
そう覚悟した時だった。
ふと手元を見ると、左手の薬指に赤い糸が結んであった。
まさか。
僕は前を見た。
目の前に一人の女性が立っていた。
僕と同じく、左手の薬指に赤い糸を結んでいた。
心が震えていた。
いつの間にか涙が頬を伝っていた。

涙でぐしゃぐしゃな顔に、僕は笑顔を浮かべて言った。
「迎えに来たよ」

3/11/2025, 1:11:10 PM

【星座の見つけ方】※再掲

子供の頃、田舎に住んでいた。
田舎は人間関係が陰湿で、噂話なんかすぐ広まっていた。
両親が喧嘩をすれば翌日には
「薫ちゃん、昨日お父さんとお母さん喧嘩してたでしょぉ〜」
と、近所のおばちゃん達から言われるくらい。
バス停もほとんどなく、あっても3時間に1本程度なので、自転車と車、バイク、鍛え抜かれた足などが必須だった。
当然、そこら中にお店があるわけでもなく、
小学校や中学校も歩いて結構かかるのだ。

だけど、悪いことばかりでは無かった。
何と言っても、自然が美しいのだ。
空気がおいしい。
水が綺麗(しかも美味しい)。
花が至る所に咲いている。
私のお気に入りは星だった。
夜になると、黒色の空一面にスパンコールが敷き詰められるのだ。
芝生に寝っ転がって星を眺めるのが好きだった。
冬は辺りが暗くなるのが早いので、学校からの帰り道で星を眺められた。

大学に合格した私は上京した。
初めに思ったのは、「星がない」ということだった。
建物や街灯がいっぱいあって、星なんか見つけられやしないのだ。
月明かりなんか役に立たない。
至る所に整備された花壇があって、道路なんかちゃんとコンクリートで舗装されているのだ。
暫くして大学内で友達が出来たり、バイトを始めたりして人付き合いが盛んになった。
みんな標準語だからか、次第に私も標準語になっていった。

少し秋の気配がする夜の街を歩き、駅へと向かった。
今年の正月、帰ろうかな。
地元の人達は陰湿であまり良く思っていないけれど。
やっぱり自然の美しさが好きだな、と思う。
地元に帰れば、
訛った言葉遣いではないことに驚かれて、
虫に怯えるようになって、
近くに何も無いことが不思議に思えて、
夜の暗さに目が慣れなくて、
月明かりがやけに眩しくて、
星座の見つけ方なんて忘れてしまっているのだろうな。

3/10/2025, 1:14:24 PM

【理想的な遺書】

「我は数十年に渡りてこの世の行ひをこころばみき。
この世には憂きこともすはたが、そはさながら神様が我に与へたまひし試練と思ふことにせり。
憂きことも多き反面、思ふ人に囲まれげに楽しき世にもありき。
さるほどに、我はそろそろ次の世に行くべし。
これより生まるるならむわらはどもが健やかに暮らすべかるべく、我は彼らを見守ることにす。
あな、この天下はさても麗しきことか。

(私は数十年に渡ってこの世での修行を頑張った。
この世では辛いこともあったが、それは全て神様が私に与えてくださった試練と思うことにした。
辛いことも多い反面、愛する人に囲まれて実に楽しい人生でもあった。
さて、私はそろそろ次の世に行かなければならない。
これから生まれるであろう子供たちが健やかに暮らせるように、私は彼らを見守ることにする。
ああ、この世界は何と美しいことか。)」

こんな遺書を書きたかった。
囚人は天井を見つめ、そんな後悔を頭の中に浮かべていた。
囚人である為、遺書に書くことはただ一つだ。
懺悔。
自分が犯した罪を懺悔するのだ。
こんな遺書になるなんて思っていなかった。
もっと、人生への感謝とか次世代の子供たちへの想いとか、そういうものを書きたかった。

囚人は鉛筆を握りしめ、何時間も、何日も遺言を書き続けた。
やがて鉛筆は短くなり、先も丸くなってしまった。

そうして何日も経ったある日。
囚人は、牢獄の中でその生涯を終えた。
囚人が書いた遺書には、自分が犯した罪への懺悔と、理想的な遺書を書けなかった後悔が記されていた。

3/9/2025, 10:45:21 AM

【表八句】

我は数十年に渡りてこの世の行ひをこころばみき。
この世には憂きこともすはたが、そはさながら神様が我に与へたまひし試練と思ふことにせり。
憂きことも多き反面、思ふ人に囲まれげに楽しき世にもありき。
さるほどに、我はそろそろ次の世に行くべし。
これより生まるるならむわらはどもが健やかに暮らすべかるべく、我は彼らを見守ることにす。
あな、この天下はさても麗しきことか。















私は数十年に渡ってこの世での修行を頑張った。
この世では辛いこともあったが、それは全て神様が私に与えてくださった試練と思うことにした。
辛いことも多い反面、愛する人に囲まれて実に楽しい人生でもあった。
さて、私はそろそろ次の世に行かなければならない。
これから生まれるであろう子供たちが健やかに暮らせるように、私は彼らを見守ることにする。
ああ、この世界は何と美しいことか。

3/5/2025, 1:17:12 PM

今日もネタ切れなので、代わりに雑学?を書いておきます。

哲学には「問答法」と呼ばれるものがあります。
これは哲学者ソクラテスが用いた方法で、Wikipediaによると「対話によって相手の矛盾・無知を自覚させつつ、より高次の認識、真理へと導いていく手法」だそうです。

分かりにくいですね。
例を用いて説明します。
例えば、A子さんがこんなことを言っているとします。
「私は幸せになりた〜い!!」
それに対して、B太郎さんがこう問います。
「じゃあ、一体『幸せ』って何?」
それに対して、A子さんはこう答えます。
「ストレスが無くて、精神的に満たされた状態のことかな」
再びB太郎さんが問います。
「ストレスが無くて精神的に満たされた状態とは、一体どのような状態なのかな?」
それに対してA子さんがこう答えます。
「病気にかかっていなくて、不安を抱えていない状態だと思う」
A子さんの言葉を聞いて、B太郎さんはこう言いました。
「つまり、病気にかかっている人は幸せでないということ?」
A子さんは、B太郎さんの主張を否定しました。
「それは違うと思う……」
B太郎さんは再び口を開きました。
「A子さんの言っていることは矛盾しているよ。病気にかかることは幸せでは無いけど、病人は幸せになれると言っているんだから」

……お分かりいただけましたか?
この一連の会話を通して、B太郎さんはA子さんの意見に「矛盾」を見出しました。
「B太郎さんが問い、A子さんがそれに答える」という会話を繰り返していくうちに、A子さんの主張は矛盾したものになっていきました。
これが問答法です。
ひたすら質問攻めすることで、相手の主張に潜む矛盾を暴き、より賢い認識に辿り着くというものなのです。
「ロジカルシンキング」とか「クリティカルシンキング」に近い考え方ですね。

結局、何が言いたかったのかというと、
「ソクラテスってすごい」ってことです。

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