中宮雷火

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2/25/2025, 12:42:58 PM

【悲報】
ごめんなさい、ネタ切れです。
その代わりに、有益(?)な情報でも書いておきます。

8月30日は「冒険家の日」だそうです。

2/24/2025, 10:52:39 AM

【香水達の喧嘩】※再掲

給食の後の5時間目、教室は異様な匂いに包まれていた。
一言でいうと、臭い。
気持ち悪い。
なぜならば、今日は参観日だ。
参観日ということは、親が来る。
母親とは不思議で 、これでもかというほど香水を着けたがる。
すると、教室は一気に香水臭くなってしまうのだ。
少しだけふわっと香るなら良いものの、
異なる匂いが混じり合えば喧嘩してキツイ臭いを放ってしまうのだ。

そして今日は、香水達の喧嘩が酷く激しかった。
「教室、臭くね?」
僕は、隣に座っている友達にこっそり言った。
「だよな、気持ち悪い」
やっぱりそうだ、間違いない。
香水達が喧嘩している。
僕はちらっと後ろを向いた。
母親達はヒソヒソと話し、笑っている。
きっと、本人達は自らの香水が放つ異臭に気がついていない。

幸いにも窓側の席なので、外から入り込む風が喧嘩を仲裁してくれている。
しかし、隣に座る友達は辛そうだ。
「大丈夫か?」
本当に心配になって、思わず声をかけた。
「うん、大丈夫。全然大丈夫だよ」
いや、全然大丈夫ではなさそうだ。
授業はあと30分。
このままでは、早ければ5分後にも彼のライフが0になってしまいそうだ。
どうしよう。
保健室に連れて行くべきだよな。

しかし、1つ問題があった。
保健室に行くならば、教室の後ろのドアから出なければならない。
これは担任が作ったルールなのだが、授業中に廊下に出るときは、後ろから出ることになっている。
前から出ると、黒板が見えづらくなって邪魔になるらしいのだ。
後ろを通るということは、母親達の前を通らなければならないということだ。
こんなの、自ら殴られに行くようなものではないか。

僕は隣を見た。
友達は顔を真っ青にして俯いている。
いよいよヤバいことになってきたな。
もう保健室に連れて行くしかない!
「先生!」
僕はピンと手を伸ばし、先生を呼んだ。
「どうした?」
「橋本さんが具合悪そうです!保健室に連れて行ってもいいですか?」
「橋本、大丈夫か?菅田、付き添ってあげてくれ。あ、橋本さんのお母さんもお願いします」
僕達は席を立った。
友達を支えて前から出ることにした。
絶対に先生から何か言われるだろうけど、もうそんなの知らない。
「良樹!大丈夫?」
友達のお母さんが駆け寄ってきた。
しかし友達は
「ちょっ…と、近づか、ないで…」
と、突っぱねてしまった。
「おい、後ろから出ろよー」
先生が言った。
しかし、僕達は無視して前から出た。
先生の前を通ったとき、友達が呟いた言葉が忘れられない。
「香水、気持ち悪っ…」

友達を保健室に連れて行った。
今日の保健室は人が多かった。
「良樹に付き添ってくれてありがとうね。もう戻っても大丈夫だよ」
本当はもう少しここにいたかったけど、早く戻らないと先生に怒られるだろう。
僕は教室に戻ることにした。

でも、本当は戻りたくない。
あの教室にいたくない。
授業は残り20分。
サボるのは難しそうだ。
せめてもの抵抗として、ゆっくりと廊下を歩いた。
外から流れ込む風がやけに心地よい。
無臭の風が、僕を撫でてくれるようだ。
 
教室に戻ると、またキツイ臭いを放つ香水に殴られた。
僕は香水に殴られつつも耐え、無事に参観日を終えることができた。

帰りに保健室に寄った。
友達の顔色はかなり良くなっていた。
安心した。
帰り道、お母さんに褒められた。
「すごいじゃん、友達を保健室に連れて行くなんて。
良い子だねぇ〜」
そういうお母さんも、香水の臭いがキツかった。

しばらくして、学校からあるプリントが配られた。
参観日に関するプリントだ。
そこにはこう書かれていた。
「香料による体調不良が増えていますので、参観日に香水をつける際は適量の使用に留めていただけると幸いです。」

2/20/2025, 11:01:57 AM

【祝福のブルース】

夜が深くなってきたわね。
怖い話でもしないかって?
知ってるでしょ、私が怖い話嫌いなこと。
……ええ〜、眠れないの?
仕方ないわね。
それじゃ、素敵なお話をしてあげるわ。
私、実は昔は海に住んでいたの。
信じてくれないでしょうけど、人魚だったのよ。
海も陸もどちらも楽しいけれどね、生涯でいちばん美しい経験をしたのは、海にいたときよ。
このお話したら、寝てくれるかしら?

―――――――――――――――――――――
私は16歳の頃に、初めて恋をしたの。
陸に住んでいる人間だったわ。
その日は空が真っ青で、波が穏やかだったわ。
砂浜でのんびり歌を歌っていたら、彼がやってきたの。
ビックリしちゃって、慌てて隠れちゃったけど、岩陰から彼を見ると、それはそれはとても素敵な容姿をしていたの。
「人魚姫」っていう童話があるでしょう?
まさに、あれと同じだったわ。
やっと人魚姫の気持ちが分かった気がしたの。
一目惚れだったわ。
あの日から、彼のことが頭から離れなくなったの。
毎日毎日、彼のことばかり考えていたの。
彼とお話してみたい、とか、彼と手を繋いで歩いてみたい、とか。
毎日そんなことばかり考えていたわ。

それから、毎日のように海岸の近くへ出向いたわ。
いつか、また彼が来るんじゃないかって。
人魚と人間の恋って難しいけれど、私ならきっと出来るって思ってたの。
だって、1回しか見たことのない人のことをいつまでも覚えてるのよ?
それって運命の恋じゃない?

だけどね、彼は全く来てくれなかった。
次第に悲しくなったわ。
「運命じゃ無かったんだ」って思ってしまって。
彼と出会って1年が経った頃には、もう海岸には出向かなくなってしまったの。

そうして2年の月日が経って、私は久し振りに海岸に出向いたの。
あの日と同じように、空が真っ青で波が穏やかだった日のことよ。
私は砂浜に座って、のんびりと歌を歌っていたの。
そしたら、何が起こったと思う?
驚いたことに、彼がやってきたの。
ビックリしたわ。
まさか、また会えるとは思ってもいなかったんですもの。
でもね、彼は1人じゃなかったの。
隣に、彼と同じくらいの歳の女の子がいたの。
女の子は艷やかな髪を風に靡かせていて、彼は女の子の横でやけにソワソワしていたわ。
私、直感的に悟ったの。
「ああ、これから彼はプロポーズするんだ」って。
やっぱり、あれは運命の恋じゃなかったみたい。

しばらく、岩陰に隠れて様子を見ていたんだけど、一向に彼がプロポーズしないから、こっちまでドキドキしちゃったわ。
早くプロポーズしちゃいなさいよ、と思ってしまったわ。
でも、突然彼は覚悟を決めたみたい。
真剣な顔つきになって、女の子にこう言ったの。
「貴方は、僕のことが好きですか」
しばらく間が空いて、女の子はこう答えたの。
「……はい」って。
「あの、良ければ……その……僕と一緒に、ずっと一緒にいてくれませんか?」
これが、彼が言ったプロポーズの言葉だったわ。
女の子は何て答えたと思う?
「……よろしくお願いします」って答えたわ。
彼の恋は、見事に叶ったの。
私は、彼らの前に出てきて祝福することは出来なかったけれど、とても気分が良かったから、こっそりと歌を歌ってあげたわ。
「あれ、どこからか歌声が聞こえる」
「きっと、誰かが私達の恋を祝ってくれてるのかもね」
2人はお互いを見つめて、幸せそうに微笑んでいたわ。

―――――――――――――――――――――
ところで、人魚には素敵な力があるって知ってた?
人魚の歌声には、願いを叶える為の魔法が込められているの。
私は、こんな願いを込めながら歌ったわ。
2人が、いつまでも一緒に幸せにいられますように、って。

2/19/2025, 12:34:05 PM

【顔面偏差値判定鏡】※再掲

「あなたはブサイクです」
顔面偏差値判定鏡にストレートに言われた。
「いや、そんなストレートに言わなくても…」
「これが私の仕事なので。」
鏡はツンとした声色で答えた。
嫌な鏡を貰ったものだ。
友達から誕生日プレゼントとして貰ったのだが、相性は最悪だ。
美人な友達も、私がブサイクであるのは見て分かるのにこんな鏡をプレゼントするなんて、
本当に性格が悪い。
友達の誕生日には、性格偏差値判定鏡を贈りたいものだ。
 
本当は直ぐにでも捨ててしまいたいのだけど、鏡が無くなるのも嫌だ。
全身をちゃんと確認できるものがいい。
「あなたは本当にブサイクです。
そんな格好で人前を歩くなんて。」
分かってる、そんなの。言われなくたって…
「鼻と唇の距離が遠い、乾燥肌、唇も乾燥気味。フェイスラインがスッキリしていない、
ファッションセンスが 皆無、……」
次々と私のブサイク要素を挙げていく鏡に対して、私は苛立ちと惨めさを感じていた。
しかもこの鏡、具体的にどこを直せばいいのか教えてくれない。
不良品にも程がある。
「分かってる、そんなの……」
ブサイクな私は大学へと向かった。

大学帰りにプチプラコスメを買って帰った。
家に帰って早速試してみる。
「あらあら、メイクの練習なんて珍しい。
そんなの、自分を良く見せるための仮面みたいなものですよ。」
うるさい。
私は無視して練習した。
「そんなに頑張っても、元の素材が変わるわけ無いのに。」
「じゃあ、整形しろって言うの?」
さすがに頭にきて、言い返した。
「……」
「いい加減口閉じてよ。」
私は再びメイクの練習を始めた。

今日は休日。
友達と服を買いに行った。
こちらの友達は心優しくて、あの毒舌鏡を送りつけた性格の悪い友達とは真逆の聖人だ。
「うーん、イエベならこっちのほうが血色良くなりそうだけどなぁ…」
「えっと、イエベとブルベって何?
私、全然詳しくなくて。」
「肌が黄色よりなのはイエベ、青寄りはブルベ。
まあ、ちゃんと診断してみないと分からないけどね。
血色良く見せるためには、こういうパーソナルカラーに合わせると良いみたいだよ。」
そう言って友達が選んでくれたのは、秋らしい低彩度な赤色だった。

2カ月後のこと。
美容院で髪を切ってもらった。
ふんわりしたボブ。
結構気に入っている。
最近は割と肌の調子がいい。
乾燥気味だった肌は、新しい化粧水のお陰か、もっちりしている。
最近は、少しだけ毒舌鏡が柔らかくなったような気がする。
「アホ毛が立っている、唇が乾燥気味、ネイルが下手、メイクが下手。
まあこれくらいですかね。」

月日がかなり経って、2年後。
「まあ、良いんじゃないですか」
遂に毒舌鏡から褒めてもらえた。
「え、えっ、悪いとこは?無いの?」
「強いていえば、爪がやや長いです。」
やった、遂にやった。
見たか?私を馬鹿にしてきた奴。
今までに無い多幸感が私を埋め尽くしていた。
「それじゃ、」
「え?」
私は養生テープを用意し、鏡に直接貼り付けた。
「な、何をするんですか?」
「今から貴方のことを捨てるの。」
鏡に貼り終え、私は床に新聞紙を敷いてからハンマーを取り出した。
「ま、まさかそれで…」
「こうすればゴミが小さくなって、捨てやすくなるからね。」
「やめて」
私は無視してハンマーを振り下ろした。
パリンッと音を立てて、豪快に割れた。
ハンマーを振り下ろす度、私は心が軽くなるのを感じた。
かわいいとかかわいくないとか、どうでもいいじゃないか。
ブサイクとか美人とか、どうでもいいんだって。
割れた鏡には、見た目以上に美しいものを持つ私の姿が反射している。

2/18/2025, 11:09:18 AM

【過去の自分へ、お手紙書きませんか?】

「過去の自分へ、お手紙書きませんか?」
これが、私が働いている会社のキャッチコピーだ。

株式会社Dear。
ここでは、過去の自分に手紙を届けるサービス、その名も「過去への手紙プロジェクト」を提供している。
15年の準備期間を経て、最近やっと正式にリリースされたばかりだ。

「あの、すみません」
「はい?」
「ここって、『過去への手紙プロジェクト』の窓口ですか?」
過去への手紙プロジェクトは、Web上に加えて、会社内の窓口でも行なわれている。
ダントツでWebが人気で、窓口はいつも暇だ。
「はい、そうですよ」
「ああ、良かった。過去の自分へ手紙を書きたくて、手続きをお願いしたいんです。」
珍しくやってきたお客様は、30代の男性だった。

このプロジェクトは、幾つか気をつけないといけないことがある。
1つ目は「未来に手紙を送ることができないということ」だ。
過去というのは既に存在しているが、未来は不確定だからだ。
誰かの言動や選択で、未来は幾つにも分岐する。
その為、未来に手紙を送ることが難しいのだ。

2つ目は「お客様が書いた手紙の内容は、個人情報として守られること」だ。
これはどういうことかというと、私達スタッフが手紙の内容を確認したり、外部に漏らしてはいけないということだ。
客の中には、特殊な事情を持った人もいる。
なので、プライバシーへの配慮が不可欠なのだ。

お客様の個人情報を登録した後、別室に誘導した。
「こちらで、ご自由に手紙を書いていただけます。
何かありましたら、こちらのインターホンからお申し付けください」
「ありがとうございます」
私は、部屋にお客様を一人残して離れた。

お客様に手紙の内容を質問することはタブーである為、お客様がどのようなことを書いているのか、さっぱり分からない。
こういうのって、もっとドラマ性があって面白いはずなんだけどなあ……。
そう考えながら窓口で頬杖をついていると、
「お疲れ様」と言う声が聞こえた。
振り向くと、声の主は先輩だった。
プロジェクト発足当初から働いている、古株の先輩だ。
「久しぶりの接客だから、疲れたよね。
はい、コーヒー。これおいしいのよ」
「え、ありがとうございます……!」
先輩はいつも私を気に掛けてくれる。
とても頼り甲斐があって、何でも話せる先輩だ。
「先輩」
「どうしたの?」
「私、いっつも思うんですけど、お客様がどんな手紙を書いているか知ることができないって、ドラマ性が無いと思うんです」
「仕方ないよ、ルールだから。」
「ですよねぇ……」
私は再び頬杖をついた。
駄目なことは分かっているけれど、干渉できないというのはやはり寂しいというか、楽しくないというか。
「でもね、私、思うんだけどさ、」
先輩が口を開いた。
「お客様、行きと帰りで顔が違うんだよね」
「どういうことですか?」
「行きは、何だか思い詰めた表情をしている人もいるんだけど、帰りには嘘みたいに晴れてるの。モヤモヤが晴れたって顔してるのよ。
それも、十分ドラマ性があると思わない?」
先輩がこの会社でずっと働いているのは、その光景に働き甲斐を見出してるからなのかもしれない。

「すみません」
「はい」
「手紙、書けました。手続きをお願いできますか?」
先ほど案内したお客様は、確かに笑顔が増えていた。

お客様を見送った後、私はその背中をずっと見つめていた。
「過去への手紙プロジェクト」の目的は、過去の自分に手紙を書くだけではなく、お客様に笑顔になってもらうことだ。
お客様の笑顔には、ドラマ性がある。
この仕事に就いて良かったと、私は心の底から思った。

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