春風とともに
今日は娘の入学式。
春風とともに、桜の下で写真を撮る。
綺麗な娘の姿に、
父親である自分は涙を流す他ない。
本当なら、涙を流すのは二回目のはずだった。
妻との間に授かった、長女は先に死んだのだ。
次女は、長女が亡くなった後に産まれているため、何も知らない。
それでもやがて知ることになる。
春風とともに、
お空に飛んで行ったお姉ちゃんのことを。
涙
「妊娠、したの」
ラブホテルで一緒していた女に突然言われた。
女とは、身体の関係を持ち、許可をもらってはゴムを付けずに性行為をしたものだ。
危険日じゃないから。その口実は何度も聞いた。
何度も、ゴムを着けようと告げた。
決して、彼女に迷惑はかけられない。
彼女を置いて、逃げたりはしたくなかった。
しかし、彼女は自分の心配を他所に、生が好きだと耳元で囁いた。
お互い学生だと言うのに。
自分は、彼女を強く睨んでこう告げた。
「妊娠させてすまない」
「責任取る。子供を堕ろせ」
彼女から流れる涙は、まるで産みたいと告げているよう。彼女が見つめた光は、綺麗な真っ二つに割れた。
それでもその光は、僕と彼女を縛る
「子育てなんて無理だろう!!」
彼女の妊娠は、螺旋階段が繋がっただけだ。
彼女の涙は、棒の中に入っている、真ん中に線の入った丸の中に沈んだ。
しかし、
彼女の産みたいという気持ちとは、裏腹に。
後日。彼女が涙を流して、親に赤ちゃんを堕ろされたと教えてくれた。
あぁ。堕ろせと言うなんて。
僕はなんて最低なんだろう。
彼女が流した涙は、罪悪感。
自分が流した涙は、自分への嫌悪だった。
小さな幸せ
『「幸せは偉大なことだ」100万部突破!!』
そんなニュースを耳にした。その本の中には、
「幸せは、大きいことだ。」
「小さなことでは得られない!」
「毎日の日常は、当たり前」
「その上に進むものが幸せを掴みとる!」
と書かれている。
まさに、自分を傷つけるようなその言い方。
私は、父子家庭で育ち、幼い頃からも家に父親は毎日おらず、家事も何もかもこなしてきた。
月に一度やってくる休みは、必ずどこかに連れて行ってくれて、たらふく食べさせてくれる。
それなのに、私は子供心のままか、豪華なものを父に求めた。
当時の私は、父親が低い給料でやりくりしていたことを知らなかったからだ。
そして、
これが小さなことでも、父は、ずっと一緒に居られる時間が幸せに感じていてくれたことも。
幸せは、大きな成功をしなくては得られない?
世間は、小さな幸せでも、認めてはくれない?
父との時間は幸せだった。
父の墓の前で、ふと考えた。
春爛漫
もう春なのだと、実感させられる。
木漏れ日の中、桜を綺麗に彩った花が咲き乱れている。その花を見ると、いつも思うことがある。
娘が、桜を見るのが好きだったなと。
娘は、春爛漫の季節に、
桜を見ては、綺麗だと言った。
私の手を掴み、近場の桜並木を見に行った。
しかし、娘は小学校に上がってすぐに、小児がんを発症し、桜を見ることが出来なかった。
「今日は、桜、ゴホッ見に行かないのぉ、?」
「ごめんね、具合が安定してからにしよう、」
そう言って、娘と桜を見に行かない理由を、何度も濁した。そして春爛漫の季節が訪れ、娘は、静かに息を引き取った。
だから私は、春爛漫の季節になると、
娘を思い出す。
娘同様、がんだと診断された私も、
この苦しみを、苦痛を終わりにして。
娘と同じように。春爛漫の日に。
そっと、静かに。
死ねるのかな。
七色
みんなそれぞれ、カラーを持つ。
私の所属する劇場は、一人一人カラーを持つ。
そして七色が集まった時、全てが光り輝く。
一人は、とても素敵な快晴。
一人は、綺麗に彩った晴れ。
一人は、中立な立場の曇り。
一人は、心の闇を抱える雨。
一人は、爆発寸前を見た雷。
一人は、崩壊した建物雷雨。
一人は、冷たく生きてる雪。
この七人ではないと、パフォーマンスは完璧では無い。皆が、袋を被り、自らを隠すように。
自分一人では輝くことは許されない。
しかし、一人一人が、自分という表を隠す鎖に縛られれば縛られるほど、変わってゆく。
心の闇を浄化するような、視線を奪う七色に。
どこまでも、光り輝く虹と呼べる何かに。
ラッキーセブンと言うだろう。まさに、劇場はそれを表している。この、七人で。