いつも、寄り道をする。毎日行く場所がある。
「ずっと親友だよ。」と言って、友人が秘密基地と言って紹介してくれた場所。太陽に照らされた彼の笑顔は、いつになっても忘れない。その笑顔を壊したのは、新学期に入ってすぐ頃の春。入学式を迎え、帰り道だった。友人とは同じ学校に進学。この先は明るい未来が待っていると信じていた。たとえ何があろうと、支え合えると。
でも、、その理想は真っ赤な血で汚れた。
友人と自分は、居眠り運転の車に撥ねられた。
自分は、一年ほどで日常生活に支障がないほどに回復したが、一方友人は、もう三年も植物状態。友人との秘密の場所に、勧誘者は来なくなった。いつか来るかと願いながら、流れる静寂を見つめる。そして自分の静寂を破った声は、聞き覚えのある声。
「秘密の場所。覚えてくれてたんだ」
「三年ぶりだね。」
口笛を吹いた。ラララーと。彼女に向けて歌う歌は、いつも歌詞にラララが付く。彼女は、ラララという言葉が子守唄に聞こえると言うのだ。
やがて結婚した二人は子供を授かったが、彼女はお腹を擦りながらラララと歌う。
それがいずれ、子供にどんな好印象を与えるのかは分からないが、彼女のお腹から出てくる子が、元気に産まれてきてくれたらいいなと思うばかりだ。
自分は、三年前に娘を亡くした。
妻は出産と同時に、体の負担に耐えられず亡くなり、娘は、一歳を迎えた頃に白血病で亡くなった。最期に、私の耳元で弱々しい声で口を開いてくれた娘の言葉は、忘れられない。
当時、シングルファーザーの自分は、娘のための出費でカツカツ。投薬も手術も行い、何度も仕事を休み娘に寄り添った。そして自分はご飯を抜いてまで出費し、痩せ細っていたのを覚えている。
そしてその一年後、寄り添ってくれた女性と結ばれた。そして産まれた息子は、あまりに娘と似ている。そして一歳になった息子が口にしたことは、奇跡と呼べることなのだろうか。
「僕の、お姉ちゃん白血病だったんだね」
私は一度も娘の話をしていない。なぜ息子の口から娘の話題が出てきたのかは分からないが、きっと風の運んでくれた奇跡だと思っている。
質問させてください。とアナウンサーは口を開いた。テレンという音の直後、「question」そう流れる機械音と共に、私の身体は大量の証明により、真正面から照らされた。クイズ王として生きて早五年。いつまで、この生活だろう。
プライバシーに触れる質問をされるのは。
「では、私からも質問です」
「質問の変更をお願い出来ますでしょうか?」
病院で入院している彼。最近は呼吸すらままならず人工呼吸器を装着させられてしまい、彼は意識を戻すことは少なくなっていった。顔色の悪い彼の顔を見ると、胸がきゅっと締め付けられる。ずっと苦しそうに呼吸をしているのか、すぅー、すぅー、と呼吸器の音と共に彼の呼吸音が流れる。そんな彼の小指に、自分の小指を当てて握った。私は彼を置いて、仕事で海外に行ってしまうのだ。つまり約一ヶ月、病院に来られなくなる。
「どうか死なないで。私が戻るまで」
「約束だからね」
そう言い、彼の病室を後にした。その一ヶ月後、彼は人工呼吸器をつけてはいたが、意識を取り戻していた。座るようにベッドに身体を預け、顔はこちらを向いている。その瞳は、私の姿を捉えて離さない。
「俺は死なないよ。約束なんでしょ?」
その瞬間、彼の前で初めて泣いた。