遠い日の記憶
目を閉じると浮かんで来るのは、
燃える炎が建物の木材を灰へと
変える風景
それをじっと見つめる二人
村々から慟哭の様な悲鳴があちこちで聞こえる。
二人は、何で立って居るんだろう。
何でその風景を眺めて居るんだろう?
彼らは、誰だろう?
目を開けるとぱっとその風景は視界から
消える。
そうして、気が付いたら瞳から涙の雫が
流れていた。
顔を腕で覆って涙を止める
だけど何かが迫り上がって来る
止められないこの気持ちは、何だろう?
「大丈夫?」ふと上から声が聞こえる
寝転がっていた自分の視界を覗き込む
逆さまな顔がある。
私は、身を起こし涙を拭いて立ち上がる。
「行こう!」そう言って私の手を握る
君の手の温もりが余計に私を切なくさせた。
君は、何も思い出せなくて良いんだよ
前世の遠い記憶もあの日の辛い過去も
罰さえも僕が全て引き受けるから
だから君はどうか現世で笑っていたら
嬉しいなあ
【前世】
「ねぇ私達極悪人になっちゃったね」
君が泣き笑いの表情を僕に向ける。
君は、優しいからどんな理由があっても
この状況に納得しないだろう
「君は、僕に巻き込まれただけ全部
僕がやったんだから!」
「でも私のせいで君は、こんな事を
やったんだよね」
「違う君が居ても居なくても僕はいずれ
この村を壊してた。」
こんな....山の神様なんて居るかどうかも
分からない神様に生贄を捧げる風習を
頑なに守って人を毎年殺してる村なんか
無くなって当然だ
君が居なくなる事に何の疑問も罪悪感も
抱かない村の人間なんか大嫌いだ!
【現世】
だから、どうか君は思い出さないで
あの日の遠い記憶は、全部僕が
持って行くから....
だから君は、どうか笑って居て
そして誰よりも幸せになっていて
僕はもう一度君の耳元に囁く
「大丈夫だよ!」
僕の言葉に安心したのか君は、控えめな
笑顔を浮かべる。
僕は、もう一度君の手をしっかりと
握った。
これまでずっと(番外編)⑨の続き
空を見上げて心に浮かんだこと
(番外編)⑩
●ふわふわした物
ぽかぽかとした陽光の中ハイネは
ふわあと欠伸をした。
そうして窓の外をぼーっと眺めていた。
そこには、大きな青い空とその空に
流れるふわふわな白い雲
ハイネは、何の気なしに考え
(あの雲何かに似てるなあ....)
ふわふわした何かを心の中で考えていると
ハイネの頭の中でふわふわした映像が
流れる。
ハイネは、はっとして、首を振って
その映像を頭の中から消す。
(余計な事考えた....)
ハイネは、溜息をついて心の中を
リセットする。
そうして心の中を無にしていると....
「シズク可愛いね!」と言うナイトの声が
聞こえた。
「ミーナが....やってくれたの....」
シズクが嬉しそうにナイトに見せる。
「シズクの髪長いからアレンジの
し甲斐があるわ!私も髪伸ばそうかしら?」
「そうしたら....髪 お揃いに....出来る...」
シズクとミーナが嬉しそうに盛り上がって
いた。
ハイネは、うるせーなぁと思いながら
皆に視線を向ける。
するとハイネは立ち上がり手を伸ばした。
そうして引っ張る。
「いっ....たい.... ハイネ 痛い...」
シズクのいつもの二つ結びに三つ編みの
編み込みが出来ていた。
ハイネは、そのシズクの三つ編みを
引っ張る。
「痛い....嫌....」シズク一生懸命ハイネに
抗議する。
「ハイネ止めなさいよ!」ミーナも
ハイネに文句を言う。
ハイネは、無言だったがしばらくすると
我に返った様にシズクの三つ編みから
手を離す。
そうしてまた座り込んだ
「ちょっとハイネ シズクに謝りなさいよ」ミーナが眉を吊り上げてハイネに
注意する。
ハイネがちらっとシズクの方を見るが....
「変な髪型....」とハイネはボソッと呟く
「ハイネ!」とミーナがハイネに怒るが
それっきりハイネは、黙ってしまう
(掴みやすいけど....いつもの結び方の
方が....フワフワしてるのに....)
それは、髪の毛がボワッと広がってしまうのがコンプレックスなシズクの為に
ミーナが気を利かせて髪の毛が広がらない
結び方をしたからなのだが....
ハイネにはそれが気に入らないのだった。
ハイネが雲を見て最初に心に浮かんだ
フワフワな物が今日此処にない事が
ハイネには、ちょっと不満だった。
三つ編みの髪型が嫌な訳では、
決して無いのだが....
シズクにとってのコンプレックスが
ハイネにとってはお気に入りである事を
シズク本人は、知らない....
そうしてハイネ自身もそれを決して
言えないのだった。....
二人の気持ちのすれ違いは、
今日も続くのだった....。
終わりにしよう
(終わりにしよう)僕は、そう心の中で
唱え ガラスケースの棺の中の君を見つめる。
(ごめんね、僕は、何も変えられなかった)
君の死を無駄にしてしまった。
あんなにこの国の為に声を凛と張り上げて
戦ってくれた君 最期の最期まで
この国の行く末を憂いていた君
病弱な体に鞭打って方々を駆け回ってくれた君
結果的に体を壊して、死期を早めたけれど
最期まで、恨み言の一つも言わず旅だって
行ったね
だけど この国は、もうすぐ終わる
あんなに争う事は、愚かだと声を
上げたけど誰も頷かなかった。
他国への被害より自国の利益を優先した
僕達の国....
そんな国に、僕は、疲弊を感じていた。
僕は、君みたいに強く無いから
君の居ない世界で、頑張って来たけど
もう限界みたいだ....
だから.... 一足先に終わりにしても
良いよね.... 君は、向こうで僕を怒る
かもしれない 詰るかもしれない
それこそ、初めて恨み言の一つも言うかも
しれない.... それを全部覚悟した上で
僕は、自分を終わりにする。
僕は、ポケットから小さな小瓶を
取り出す そうしてそこに入っている
琥珀色の液体をゆっくりと自分の口元に
持って行きこくんと喉を上下させてその
液体を飲み干した。
僕は、静かに目を閉じて 君が眠る
棺のガラスケースに背中を凭れさせ
君が待つであろう世界を夢見て
君の元へ旅だった。....
この道の先にの続き
手を取り合って
ミーナ ナイトは、ハイネが連れて来た
魂に目を丸くする。
「ハイネ....これは、一体....」
『やあやあ初めましてだね 美男美女君
良かったらお名前を教えてくれるかい?』
しかしミーナとナイトには、魂の声は
聞こえ無いらしく固まったままだった。
仕方なく、ハイネが通訳する。
「名前を教えろってさ!」
「この魂喋るの!」ナイトが更に目を丸くする。
二人は、魂をまじまじと見て
自己紹介する。
「ナイトジェッツです!」
「ミーナリースです!」
『ナイト少年にミーナ少女だね!
よろしく頼む 僕の事はハイネ少年に
賜ったタマと呼んでくれ』
ハイネは、タマの言葉をそのまま二人に
伝える。
二人に「タマは、ちょっと安直すぎない」
とか「もうちょっと考えれば良いのに」
とか言われたが ハイネにとって名前なんて呼びやすければどうでも良いのだった。
タマ本人も気にして無いのでとりあえず
お互いの自己紹介を終え
ハロルド局長とマリアにもタマを紹介する
為に局長室に向かう。
二人はタマの姿を見ても驚いた様子も無く
そうして合点が行ったと言う感じで
頷き 深刻な顔で三人に話し出した。
「丁度 三人を呼び出そうと思っていたんだ 今バインダー局は、慌ただしくてね
大勢のバインダーの人達が魂狩りに
駆り出されているんだ。」
「そう言われるといつもより人の出入りが
激しかったような...」ナイトが建物内の
様子を振り返る。
「魂の穢れがあちこちで、発見されて
いるんだ こんなに魂達が一斉に穢れる
のは、かつて無かった事だ。」
「調べた結果 偶発的な物では無く
誰かが意図的に魂達を魂の道から外れさせている可能性が高いの!」
そうしてマリアが一枚の資料を皆に
見せる。
その資料には、フードを被った怪しい男が
映っていた。
「穢れが発生した現場の監視カメラを
調べたらこのフードを被った男が悉く
映っていた。
この男の足取りを調べた所 ある建物に
辿り着いた。」
マリアがもう一枚の資料を皆に見せる。
そこには、豪奢な洋館の写真が載って
いた。
「その建物と土地の所有者を調べた所
ある名前が浮上した
ゼノファーラム」その名前に三人は
目を丸くする。
「ファーラムって....」ミーナが呟く
ハロルド局長が机に肘を突き
両手の指を組んで答える。
「シズク君のおじい様の名前だよ!」
「これがその建物の住所です」
マリアがそれぞれの端末に座標を表示する
シズクと言う言葉にハイネは、
居ても立っても要られずバインダー局を
飛び出した。
『ハイネ少年 待ちたまえ』
自分を呼ぶ声にハイネは、足を止める。
『僕も其処に連れて行ってくれないか!
予感がするんだ 僕の片割れは間違い無く
其処に居る』タマがふわふわと浮きながら
ハイネを呼び止める。
ハイネは、無言で頷き今度こそ歩き出そうとした時.... 「「ハイネ!!」」
今度はミーナとナイトの揃った声がした。
「一人で突っ走らないでよ!」ナイトが息を吐きながらハイネに言う
「そうよ!一人で格好つけてずるいわよ
私達だって シズクの事が心配なのに...」
ミーナが泣きながらハイネに訴える。
「それに僕達は、チームでしょう!」
ナイトがポンとハイネの肩を叩く
ハイネはナイトの言葉に目を丸くし
すいっと視線を横にずらし
ぶっきらぼうに言う
「二人とも遅れたら置いてくからな
足手まといは、いらねェ」
「誰に言ってんのよ!」ミーナが怒った
様に眉を吊り上げ
ナイトがハハッと笑いながら....
「じゃあ行きますか 僕達のお姫様を
救いに....」と最後にナイトがハイネに
そう悪戯っぽく笑って、
三人は、駆け出した。
こうして三人の手に手を取り合っての
お姫様(シズク)救出作戦が始まった。
届かぬ想いの続き
優越感、劣等感
僕は、優越感の塊で劣等感の塊だ。
僕は、勉強も運動も人より特出して
出来るけれど 僕は、唯の凡人だ。
人より予習 復習して テストの出題範囲を予想して 運動テストも平均記録を
少し超えるか超えないかをキープして
あまり目立たずけれど凡人よりは少し上を
何とか装おっているだけの張りぼてだ。
本当の僕は地味で根暗で コミュ障で
人と関わるのが苦手で 集団行動が出来なくて 一人が楽と思っている
冷たい人間だ なのに....
「また 負けた~」と僕の隣で項垂れる
僕の友達
彼は、眉目秀麗この言葉をそのまま体現
した様な美少年で勉強も出来て
運動も出来る そして誰もが彼に憧れて
いて仲良くなりたいと羨望の眼差しと
期待をいつも向けられて居る。
そんな彼が 何故僕なんかに拘るのか
永遠の謎である。
彼はいつも僕と比べたがるけれど
一位と二位の差なんてほんの僅差だ
それに彼は真面目にいつも勉強しているけど 僕は、テスト前位しか勉強していない
こんな不真面目な僕に勝ったからって
何だって言うんだ。
君は、いつも真っ直ぐで優しくて
本当は、人気者になれるのに
僕なんかと一緒に居なければ....
「おい!聞いてるのか!」
僕は、はっと我に返り
「あっごめん何?」
彼は、僕が上の空なのが気に食わないのか
不機嫌になる。
「間違った所見直してるのに....
お前全然聞いて無いだろう」
「いや 聞いてたけど....
君のは間違いと言うか言葉が足りなかっただけで 構成は僕より全然良いじゃない
それに点数の差だって僕のはプラス
加点されただけで君の答えは間違いでは
無いんだし....」しかもほぼ ほぼ
先生の問題の作り方の文章の違和感を
指摘しただけだ。
半ば 脅しと近いかもしれない
百点満点のテストに無理矢理プラスして
105点にして貰ったこじつけの点数だと
言うのに....
僕は、唯ひねくれているだけ
君の様に純粋に問題と向きあえてたら
また違うんだろうな....
「それでも、負けは、負けだ!」
君は、ぷくっと頬を膨らませて
口をへの字にする。
その顔を見て僕は、苦笑する。
僕は、自分の事が嫌いだ だから常に
劣等感の塊で.... でも君が僕を
追いかけて来てくれるから
いつでも優越感の塊も僕の中に燻っている。
僕の何がそんなに良いのか....
僕自身には、さっぱりだけど
君が僕を手放さ無い限り僕は君の友達で
あり続け様と思うんだ。
ありがとう 僕の友達と
僕は、君を宥めながらそんな事を
思っていた。