安らかな瞳
病院のベッドに横たわる祖父ベッドの脇には親族が右にも左にも並んでいる。
祖父は、瞳を開いているが此処では無い何処かを見ている様な遠い瞳を天井に向けて
いた。
まるで祖父には見えない何かがみえる様に
天井のある一点を凝視し何かを悟った様に
ふっと口元を緩め瞳の中の光が一瞬だけ
煌めいて安心した様な安らかな瞳を天井に
向けた。
そうして祖父の瞳から急激に光が無くなって行く親族達がハンカチを目に当てて
泣き始めていた。
父は祖父の手を握り母は祖父に呼びかけていた。みんなが感情を剥き出しにして
祖父に最期の呼び掛けをしている。
祖父の意識の最期の最期まで呼び掛けを
止めない。
祖父の意識が途切れるまでたとえ言葉が理解出来なくても頭の奥の脳の信号に
届くと信じて....
そうして心電図が直線を描き祖父の瞳の
中の光が見えなく無った所で祖父は
旅だったのだと皆が理解した。
皆が泣き伏している中 私は唯一涙が
出なかった。
祖父の最期の満足した表情と安らかな瞳を
見たら何だか涙で送り出すのが失礼な
感じがしたからだ。
祖父は何の未練も無い顔を私達に見せて
安らかに逝ったのだった。....。
ずっと隣で
すー すーと 我が子が寝息を立てて寝て
居る
可愛らしい 天使の寝顔で 私達を
癒してくれる。
可愛くて 小さい手 ぷにぷにと柔らかい
ほっぺ きっとこんなに可愛いのも
今だけなんだろうなぁと思いながら
この子の成長した姿を胸に描き
ぷにぷに柔らかいほっぺを ちょんと
静かに 少し 突きながら
私は、穏やかな笑みを浮かべ
我が子の隣で目を閉じて....
いつか離れて行ってしまう我が子へ
今だけは、精一杯の愛情を注いで
ずっと隣に居る事は無理でも
今出来る私の精一杯で
いつか我が子の隣にずっと居てくれる
誰かに我が子が出会うまで・・・・
その時まで 私は 貴方の隣に
ずうっといるからね....
あいしているよ!!
私の天使!!
もっと知りたい
窓の外を頬杖を突いて ボーっと眺めて
いると ふと園芸の花壇の花達が
気になった。
みんなそれぞれの区画にネームプレートが
差してあり それぞれ個別の区画に
自分で自由に花を植えているらしい....
(確か園芸委員が率先してやってるんだっけ....)
色とりどりの 花々が咲き誇りとても綺麗だ。
俺は ふわあと欠伸を一つして
ある一画の花壇の区画を見る。
其処には、制服のスカートに気を付けながら しゃがんで 一心不乱に虫眼鏡を
掲げて 向こう側を覗き込んでいる
女の子の姿があった。
その女の子は、嬉しそうに口元を綻ばせながら 花壇の花の葉っぱを 虫眼鏡で
一枚 一枚 探る様に凝視していた。
放課後なので もしかしたら部活動の一環か 園芸委員の一人なのかもしれない
特に気にしなければ 只の 日常の風景と
して溶け込み スルーするのだが....
俺は 何の気なしにその花壇に行ってみた
すると女の子は、目を離した隙にどこから
持って来たのか 虫かごを小脇に抱え
ピンセットを取り出し 葉っぱに付いてた
虫をピンセットで摘まみ始めた。
それを ひょいと摘まみ虫かごの中に入れて行く
こちらから見る限り どうやらそれは芋虫みたいだ。
そうして俺は、もしかして 虫を取り除いているのではと思い始める。
俺は植物や草花に関して無知だが
何かの本で花の成長を妨げない様に
花を作っている所では 葉っぱに
付いた虫を取り除く作業をするのが
一般的だとか何とか 書いてあった様な
気が この行動は、それかもしれない
(この子は 園芸委員なのかなあ....)
じゃあ別段 気にする必要は
全然なかった訳だが 何となくで来て
しまった手前 踵を返そうにもぎこちなく
なってしまい 変な動きになってしまい
何となく背中に汗が流れて来て
不自然になるけど帰ろうかと思い始めて
いた時.... その女の子の声が聞こえた。
「じゃあ ジャン アレキサンダー
ピヨドル アン その他 エトセトラ
全員 居るね!」
女の子は、虫かごの中を覗くと
満足そうな笑みを浮かべて立ち上がった。
ん ? 俺は聞き慣れ無い 外国人っぽい
名前に 思わず 大きな音を立てて
振り返ってしまう....
その音に反応して女の子は、俺の方を見た
俺は気付かれてしまった事で動きが
止まった。
俺に気づいた女の子は、「こんにちわ!」と声を掛けて来た。
俺は、何となくどもりながら
一番女の子に聞きたかった事を
思わず聞いてしまう....
「あの....何やってるの?」と俺は
質問してしまう。
女の子は、にっこり笑って
「えーとねペットの散歩」
女の子は、あっけらかんと答える。
「ペ ペットってその芋虫!」
「うん!」と女の子は明るく答える。
それから俺はその女の子と沢山の話を
した。
話を聞くとまだ家にも たくさんのペットが居るらしい その 種類は、
ミミズ ムカデ ナメクジ ゲジゲジ
カタツムリ はたまたヘビなど
どうやらこの女の子は 手足が無い
または 這って地面を移動する生き物に
心惹かれる性分らしく そう言う種類の
生き物を家で沢山 飼っているらしい......
そしてたまにこうして芋虫達を葉っぱの
上で日光浴させるらしい
虫眼鏡で葉っぱを観察してたのは
芋虫達が誤って葉っぱを食べない様に
監視する為らしい....
行動の理由は分かったが俺から見て
この子はかなり変だった。
しかし俺は何だか笑いが込み上げて来て
同時にこの子何だか面白いと思ってしまった。
そしてこの子の事をもっと知りたいと欲も
出て来てしまい....
気付けば自分から....
「ねぇ良かったら俺と友達にならない?」と 口走っていた。....。
平穏な日常
窓際の一番後ろの自分の席で突っ伏して
惰眠を貪っていると .....
ふと意識が覚醒する 涎を垂らした口元を 制服の袖で拭く
窓の外のはっきりとした澄んだ青空に
ぼんやりと視線を向けた。
すーっと白い雲の筋が 筆で線を引く様に
青い空に薄く架かっていた。
教室に目を向けると 教師が黒板に
チョークで板書する音
カツンカツンとチョークが黒板にぶつかる
硬い音が後ろの席の俺の耳にも響く
教師が黒板に板書し終わり 要点を口頭で
説明して行く
その教師の話を 真面目に受け取り
ノートに筆記している者
教師の話そっちのけで 後ろの席や
横の席の者と お喋りに興じる者
俺の様に 惰眠を貪る者 と 十人十色
様々な光景が 俺の視界で繰り広げられて
いる。
この何気ない 些細な 人間の色々な
行動を脳天気に後ろの席で観察できるのも
平穏な日常の中に 自分自身が居られるから 得られる 特権なんだと思うと
何だか胸の中に 面白さや 可笑しみが
込み上げて来て ひっそりと 俺は
静かに笑って この風景をしみじみと心の
中に刻み込み 平穏な日常に静かに感謝した。 ....。
愛と平和
愛と平和を守る正義のヒーロー
そう お決まりの台詞を流す
某 ヒーロー物特撮アニメを見ながら
息子がテレビの前で変身ベルトを
腰に巻いて 「変~身」と 叫びながら
手を大きく広げて変身ポーズを取っている
その光景をみて この日常の風景の
一コマが すでに愛に溢れた
平和な一時だなあとしみじみと思いながら
妻と一緒にテレビに齧り付いて
ヒーローに夢中になっている息子を
暖かく見守っていた。