安らかな瞳
病院のベッドに横たわる祖父ベッドの脇には親族が右にも左にも並んでいる。
祖父は、瞳を開いているが此処では無い何処かを見ている様な遠い瞳を天井に向けて
いた。
まるで祖父には見えない何かがみえる様に
天井のある一点を凝視し何かを悟った様に
ふっと口元を緩め瞳の中の光が一瞬だけ
煌めいて安心した様な安らかな瞳を天井に
向けた。
そうして祖父の瞳から急激に光が無くなって行く親族達がハンカチを目に当てて
泣き始めていた。
父は祖父の手を握り母は祖父に呼びかけていた。みんなが感情を剥き出しにして
祖父に最期の呼び掛けをしている。
祖父の意識の最期の最期まで呼び掛けを
止めない。
祖父の意識が途切れるまでたとえ言葉が理解出来なくても頭の奥の脳の信号に
届くと信じて....
そうして心電図が直線を描き祖父の瞳の
中の光が見えなく無った所で祖父は
旅だったのだと皆が理解した。
皆が泣き伏している中 私は唯一涙が
出なかった。
祖父の最期の満足した表情と安らかな瞳を
見たら何だか涙で送り出すのが失礼な
感じがしたからだ。
祖父は何の未練も無い顔を私達に見せて
安らかに逝ったのだった。....。
3/15/2024, 1:07:14 AM