遠くの街へ
ビュンとエンジンを吹かし彼女を後ろに
乗せ遠くの街へとバイクを走らせる。
「ねぇどこに行くの?」彼女が後ろから
ヘルメット越しに聞いてくる。
俺は、格好を付けて「行ける所まで行く!」と答えると 彼女が怒った声で
「もう! いつも行き当たりばったり
なんだから!」と彼女が俺の背中越しで
頬を膨らませているのが気配で分かった
旅は道連れ世は情け
人との出会いは一期一会
俺は、バイクを走らせ自分の知らない遠くの街へ行く時 何も計画を立てず
ノープランで行く
彼女にはいつも怒られるが俺は
ノープランの旅が好きだ。
会う人 会う人の優しさに触れ
恩が出来て 縁が出来て 恩を返す為に
何かを助け また助けられ
そうして仲を深め また再会を約束して
連絡先を交換して繋がりが出来て
絆が紡がれる。
そう言う 行き当たりばったりの旅が俺は
大好きだ。
彼女には、呆れられているが
何だかんだ言って彼女も一緒に付いて来て
くれる。
後で聞いたら....
「だって一人だけ楽しんじゃってずるい
じゃん!!」と口を尖らせて言って居た。
彼女もこの旅の道連れとして楽しさが
分かって来たらしい....
よし じゃあ二人で未知の街へ繰り出そうぜ レッツゴーと俺はバイクのアクセルを
踏み出した。 .....。
現実逃避
レベル上げの為にモンスターと対峙し
攻撃し防御し魔法の杖で詠唱呪文を
唱えヒールを唱え仲間のパーティーの
HPを回復しモンスターを倒してコインを
集め コインが貯まったら 道具屋や
防具屋を回り新しい装備に切り替える。
それが終わったらまたレベル上げ
合間に町や村の人に話し掛けクエストを
頼まれそれを達成するとお礼にレアアイテム
を貰え また森や林 草原に行ってレベル上げ コインを貯めて 貯めて 貯めまくって ポーションや状態異常回復薬を
買い込み セーブポイントのある宿屋で
体を休め セーブをして いよいよ本番
上級のダンジョンに挑み
トラップの消える床や上下逆さまになる
部屋 壁があって進めず隠し扉を
探さなければいけない部屋
全てのトラップの謎を切り抜け
クリアしても 小ボス 中ボス 大ボスの
連続コンボ 復活の呪文を駆使して
踏みとどまって 何回死んだか....
やっと命からがら地獄のコンボを抜け出したと思ったらまた次の町に行き新しい
ダンジョンに向かわなければならない
二次元の何と過酷の事か それに比べたら
三次元なんて 軽い 軽い
さあ早く 溜まった夏休みの宿題
全部おわらせなきゃね!!
現実逃避 終わり
こうして私は、目の前の軽い現実に
立ち向かって行く
ボスの名前は、宿題
さあ行こう 大丈夫 絶対倒せる
何せ私は、勇者なのだから
宿題よ 待っておれ このペンと言うなの
剣で必ずお前を倒す いざ行かん
と私は、「馬鹿な事やってないでさっさと
終わらせなさい!」と言う仲間の厳しく
背筋が伸びる様な怒鳴り声 否 声援を
受けてペンを宿題に突き付ける
宿題に長い攻撃詠唱呪文をぶつける為
奴の体に呪文の文字を刻み付ける
数式と言う名の攻撃詠唱呪文を
ちなみに余談だがさっき声援をくれた
仲間の名前は、オカンと言う
よきパーティーの仲間を持って
私は、世界一の幸せ者である
おっと どうやら敵のボスは
仲間を呼んだ様だ
私は、また長い呪文の詠唱にはいらねばならぬ
今度は、漢字と言う呪文の詠唱に
なのでもうのんびりと話す時間は無いので
このへんで切り上げさせてもらう
さらばだ諸君 私は、必ずやこのボスを
倒し 皆に心の安寧を与えると約束しよう
その日までしばしのお別れだ さらばだ
こうして 勇者は 光の早さでペンと言う
名の剣を宿題に突き立て倒して行った。
勇者のおかげで世界の平和は守られたのだった。....。
君は今
スマホの写真画面を見る
そこには、君に内緒でこっそり撮った
君の寝顔写真が入っている。
涎を垂らして 気持ち良さそうに
熟睡している写真だ。
君に見つかったらこんな不細工な顔
撮らないでよと確実に怒られる写真だ。
でも僕は、この写真が好きだった。
いつも仕事で 空の上を飛び回っている
君が見せる 貴重な無防備な姿が
愛しくてたまらないから.....
君は今どの辺りの空に居るのだろう....
僕に出来る事は 君の無事な帰りを待つ事だけ....
今日も君は、機内で笑顔を振りまいて
お客様に 快適で安全な空の旅を
提供している事だろう....
仕事と言う 枠組みから外れ ふっと
気が緩む姿を 僕にだけ見せてくれる
そして その時間を 今か 今かと
待ち望んでいる僕が居る。
君が居る空を窓の外から確かめて
君からの 帰ると言う電話を聞いたら
君が帰って来る前に 君の好きな
物を食卓に並べよう
君の「ただいま!」と言う声と
緩んだ笑顔が何よりも嬉しい僕への
お土産なのだから....。
枯葉の続き
物憂げな空
どんよりと今にも雨が降りだしそうな雲が
空に掛かっている。
泣き出しそうなのも もうすぐだ。
シズクは、小柄な体で足を速める。
そうして荷物を抱えて 建物の扉を
潜った。
「シズクちゃん おかえり」
「た....だ....いま.....」と小さな声で
シズクは、挨拶する。
自分のこの話し方に時々申し訳なさを
感じてしまうが 不思議と皆に聞き返される事は、ない。
此処は、バインダー局の台所だ
普段は、お茶を入れるだけで余り使わない
のだけど 今日は、お願いして台所を
使わせて貰う事になっていた。
「じゃあシズクちゃん頑張ろうか
私も手伝うから安心して!!」
私に優しく声を掛けてくれる
バインダー局の職員のマリアさん
今日は、私の我が儘に付き合わせて
申し訳なさを感じてしまうが
嫌な顔一つせず請け負ってくれる。
窓の外を見る まだ雨は降ってはいない
物憂げな空が雨雲を溜めている。
そうして私はエプロンをして
マリアさんと一緒にスープ作りに取り掛かった。
野菜を切る時 最初は、恐々だったけど
マリアさんに教えて貰いながら
何とか出来た。
野菜を煮込む時も最初は、火が怖くて
マリアさんの背中に隠れてしまった。
情けない自分を叱咤して勇気を振り絞って
鍋を搔き回す。
調味料を入れて 味を整え何とか出来上がる。
気が付くと ざーーっと雨の音が耳朶を
打った。
同時に扉が開く音も....
皆が帰って来た。
私は、スープをカップによそって
マリアさんと一緒に皆の所に行く
魂狩りを終えた皆の所に....
皆の所に行くと濡れた体をタオルで
拭いている所だった。
「いやあ~ひどい雨だねぇ降られちゃったよ」ナイトが肩を竦めながら言う
「本当 ずぶ濡れよ最悪」ミーナが
うんざりと言う顔で呟く
私は、此処で一瞬 躊躇する。
(皆 ずぶ濡れだし....着替えが終わってから渡した方が良いかなあ....)
そんな私の迷いを後押しする様に
マリアさんが「皆 お疲れ様 これ飲んで
温まって!!」とマリアさんが
自然にスープを振る舞う。
「わぁ~ありがとうございます
頂きます!!」
「すごく 温かいです!!」
ミーナとナイトがマリアさんにお礼を言う
マリアさんが「実はこれシズクちゃんが
作ったのよ 皆の為に作りたいって
提案されてね!!」
マリアさんがさり気なく私の名前を出して
くれて 何だかすごく恥ずかしくなって
「う...ん...」と小さく頷く事しか
出来なかった。
ミーナとナイトが「シズクありがとう」と
お礼を言ってくれた。
その言葉が聞けて 私は、凄く嬉しくなり
「....う....ん」とまた小さく頷く
局長の椅子に腰掛けていた
ハロルド局長も「シズクくんが作ったのかい私も飲みたいなあ...」と笑顔を浮かべた
私は、ハロルド局長にスープを持って行った。
皆 凄く 喜んでくれた だけどカップが
一つ余っていた。
私は、キョロキョロと辺りを見回す。
(ハイネ... どこだろう....?)
キョロキョロと見回したら 机の下に
隠れて 浄化した魂を食べていた。
ハイネは、食べるのに夢中でこちらの
状況に気づいていない。
私は、ハイネの隣にそっと近づき
「....ハ....イネ...」と小さな声で呼びかける
ハイネは、私の声に気付くと目を丸くする
そうして すぐ気まずそうに視線を逸らす。
「....何だよ...」何となく不機嫌そうな
声色でハイネが言う
私は「こ....れ...」とハイネにスープの
カップを差し出す。
ハイネは怪訝そうな顔で最初スープのカップを見て居たが...
私がじっと待っているとカップに手を伸ばし 口をゆっくりと付けた。
最初は、静かにゆっくりと口を付けて居たが その内 ゴクン ゴクンと喉を鳴らし
全部飲み干した。
私は、熱くて火傷をしてしまうのでは
無いかと心配になったがハイネは
何でも無い様にカップを私に返して来た。
でも顔が赤かったのでやっぱり少しは
熱かったのかなあと思う
ハイネは飲み終わるとそのまま無言を
貫き何も言わない
私は美味しかったのかどうか気になったが
ハイネが無言を貫くので何となく
話し掛けるのを躊躇う
(全部飲んでくれたし 美味しかったのかなあ.... それとも 不味くても我慢して
飲んでくれたのかなあ....)
私がおどおどしてハイネの側から離れずに
居ると視線を感じたのか
ハイネが横目で私を見て来た。
私はその視線にビクッと体を震わせてしまう
「何だよ」とハイネが鋭い視線で私を睨む
「あ....え...とぉ...」
(これ以上 おどおどした 態度を見せていたら ハイネを怒らせてしまうかも
しれない.... 言いたい事があるなら
はっきり言わないと....)
「あ....の.... スープ....美味し....かった....
?」
私は、心配しすぎて 上目遣いで
ハイネを見てしまう....
ハイネはチラッと私を見て また視線を
逸らす。
「まあ.... 不味くはなかった....それなりには....美味かった....」
ぶっきらぼうなその言い方の中に
美味しいと言う言葉を聞けて
シズクの心の中に暖かさが灯る。
「あ...り....がとう....」シズクは、
ハイネに珍しく褒められた事が嬉しくて
花の様な笑顔をハイネに向けていたのだが
照れ臭くて 顔に熱が上がっていたハイネは、シズクから視線を逸らして横を向いて
いた為 せっかく自分に向けられた
シズクの笑顔を見逃してしまう....
シズクの心が暖かく晴れ晴れとしたと
同時に いつの間にか窓の外の
物憂げな空も晴れ間が差していた。....。
小さな命
「ミャア~」ダンボール箱に小さな子猫が
うずくまって鳴いていた。
微かに震えている。
私はタオルで子猫を包み何も考えずに
連れて帰った。
しかし家は、ペット不可のマンションだった。
両親に見つかり「元の場所に帰して来なさい!」と言われて 私は泣きながら
子猫を抱き抱えて家を出た。
私は、元のダンボール箱に子猫を戻した。
せめてもと私はダンボール箱にタオルを
敷き小皿にミルクを入れて置いた。
冷たい風や雨が降った時に当たらない様に
ダンボール箱の蓋をそっと閉じた。
私は後ろ髪を引かれる様にその場を
離れた。
あれから15年私は、大人になった。
当時の私は、知らなかったが
捨て猫などを保護する団体などが今の世の中には、たくさんあるらしい....
あの時私がそう言う団体を知っていれば
両親に進言する事が出来ていただろうか....
幼かった私は、唯 可愛い 可哀相と言う
気持ちだけで子猫を安易に自宅に
連れ帰った。
両親に見つかり 「戻して来なさい」と
言われ 駄々をこねて反抗しても
抗う事も出来ず
両親の言う通りにしか出来なかった私は
小さな命を弄んだと言えるのだろうか....
あの子猫が結局どうなったのか私は
知らない。
誰か優しい人に拾われて幸せになっている
事を願うが....
私の行動は結局は自己満足にしか
ならなかったのだろうか.....
大人になった今もあの時の事が深く棘の様に胸に刺さったまま残り続けて居る。