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枯葉の続き

物憂げな空

どんよりと今にも雨が降りだしそうな雲が
空に掛かっている。
泣き出しそうなのも もうすぐだ。

シズクは、小柄な体で足を速める。

そうして荷物を抱えて 建物の扉を
潜った。

「シズクちゃん おかえり」
「た....だ....いま.....」と小さな声で
シズクは、挨拶する。

自分のこの話し方に時々申し訳なさを
感じてしまうが 不思議と皆に聞き返される事は、ない。

此処は、バインダー局の台所だ
普段は、お茶を入れるだけで余り使わない
のだけど 今日は、お願いして台所を
使わせて貰う事になっていた。

「じゃあシズクちゃん頑張ろうか
私も手伝うから安心して!!」

私に優しく声を掛けてくれる
バインダー局の職員のマリアさん
今日は、私の我が儘に付き合わせて
申し訳なさを感じてしまうが
嫌な顔一つせず請け負ってくれる。


窓の外を見る まだ雨は降ってはいない
物憂げな空が雨雲を溜めている。 

そうして私はエプロンをして
マリアさんと一緒にスープ作りに取り掛かった。

野菜を切る時 最初は、恐々だったけど
マリアさんに教えて貰いながら
何とか出来た。

野菜を煮込む時も最初は、火が怖くて
マリアさんの背中に隠れてしまった。
情けない自分を叱咤して勇気を振り絞って
鍋を搔き回す。

調味料を入れて 味を整え何とか出来上がる。

気が付くと ざーーっと雨の音が耳朶を
打った。
同時に扉が開く音も....

皆が帰って来た。
私は、スープをカップによそって
マリアさんと一緒に皆の所に行く

魂狩りを終えた皆の所に....

皆の所に行くと濡れた体をタオルで
拭いている所だった。

「いやあ~ひどい雨だねぇ降られちゃったよ」ナイトが肩を竦めながら言う

「本当 ずぶ濡れよ最悪」ミーナが
うんざりと言う顔で呟く

私は、此処で一瞬 躊躇する。
(皆 ずぶ濡れだし....着替えが終わってから渡した方が良いかなあ....)

そんな私の迷いを後押しする様に
マリアさんが「皆 お疲れ様 これ飲んで
温まって!!」とマリアさんが
自然にスープを振る舞う。

「わぁ~ありがとうございます
頂きます!!」

「すごく 温かいです!!」
ミーナとナイトがマリアさんにお礼を言う
マリアさんが「実はこれシズクちゃんが
作ったのよ 皆の為に作りたいって
提案されてね!!」

マリアさんがさり気なく私の名前を出して
くれて 何だかすごく恥ずかしくなって
「う...ん...」と小さく頷く事しか
出来なかった。

ミーナとナイトが「シズクありがとう」と
お礼を言ってくれた。

その言葉が聞けて 私は、凄く嬉しくなり
「....う....ん」とまた小さく頷く

局長の椅子に腰掛けていた
ハロルド局長も「シズクくんが作ったのかい私も飲みたいなあ...」と笑顔を浮かべた

私は、ハロルド局長にスープを持って行った。

皆 凄く 喜んでくれた だけどカップが
一つ余っていた。

私は、キョロキョロと辺りを見回す。
(ハイネ... どこだろう....?)


キョロキョロと見回したら 机の下に
隠れて 浄化した魂を食べていた。
ハイネは、食べるのに夢中でこちらの
状況に気づいていない。

私は、ハイネの隣にそっと近づき
「....ハ....イネ...」と小さな声で呼びかける
ハイネは、私の声に気付くと目を丸くする
そうして すぐ気まずそうに視線を逸らす。

「....何だよ...」何となく不機嫌そうな
声色でハイネが言う
私は「こ....れ...」とハイネにスープの
カップを差し出す。

ハイネは怪訝そうな顔で最初スープのカップを見て居たが...

私がじっと待っているとカップに手を伸ばし 口をゆっくりと付けた。

最初は、静かにゆっくりと口を付けて居たが その内 ゴクン ゴクンと喉を鳴らし
全部飲み干した。

私は、熱くて火傷をしてしまうのでは
無いかと心配になったがハイネは
何でも無い様にカップを私に返して来た。

でも顔が赤かったのでやっぱり少しは
熱かったのかなあと思う

ハイネは飲み終わるとそのまま無言を
貫き何も言わない

私は美味しかったのかどうか気になったが
ハイネが無言を貫くので何となく
話し掛けるのを躊躇う

(全部飲んでくれたし 美味しかったのかなあ.... それとも 不味くても我慢して
飲んでくれたのかなあ....)

私がおどおどしてハイネの側から離れずに
居ると視線を感じたのか
ハイネが横目で私を見て来た。
私はその視線にビクッと体を震わせてしまう

「何だよ」とハイネが鋭い視線で私を睨む
「あ....え...とぉ...」

(これ以上 おどおどした 態度を見せていたら ハイネを怒らせてしまうかも
しれない.... 言いたい事があるなら
はっきり言わないと....)

「あ....の.... スープ....美味し....かった....
?」

私は、心配しすぎて 上目遣いで
ハイネを見てしまう....

ハイネはチラッと私を見て また視線を
逸らす。

「まあ.... 不味くはなかった....それなりには....美味かった....」

ぶっきらぼうなその言い方の中に
美味しいと言う言葉を聞けて
シズクの心の中に暖かさが灯る。

「あ...り....がとう....」シズクは、
ハイネに珍しく褒められた事が嬉しくて
花の様な笑顔をハイネに向けていたのだが

照れ臭くて 顔に熱が上がっていたハイネは、シズクから視線を逸らして横を向いて
いた為 せっかく自分に向けられた
シズクの笑顔を見逃してしまう....

シズクの心が暖かく晴れ晴れとしたと
同時に いつの間にか窓の外の
物憂げな空も晴れ間が差していた。....。

2/26/2024, 6:05:42 AM