Mio

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1/22/2023, 12:54:15 PM

「乗ってく?」
「そんな、車じゃないんだから。『ちょっとドライブする?』みたいな軽いノリやめてよ」

友人は「ちぇー」と唇を尖らせると、不服そうにハンドルの上で頬杖をついた。タイムマシンのハンドルに。

「だっていつも言ってるじゃん。もう何年も叶わない片想いをして、時間を無駄にしたなーって」
「だからってタイムマシン開発しないでよ」
「前酔った時言ってたよね?『もしタイムマシンがあったら迷わず乗って、過去の私をぶん殴りに行くんだ』って」

確かに、言った。よく覚えてる。
私はもう何年も何年もずっと彼が好きで、ずっとずっと大好きで、でも彼は同じように別の誰かを想っていて。
先月、晴れて愛しい恋人との結婚式を挙げた彼の顔は、今まで見たことがないくらいに幸せでとろけていた。

「過去のあんたに言いなよ。その片想いは叶わない、時間を無駄にするだけだから今すぐやめなって」

友人の言葉に、私は笑って首を振る。

「それはぜひ言いたいね。でも、やっぱりやめとくよ」
「どうして?」
「たとえどれだけやめろって言われても、いくらぶん殴られても、そんなことされたところで、私の心から溢れる彼への"好き"は絶対に止められないから」

友人はため息を吐きながらも、でもどこかで嬉しそうな面持ちで、「ま、そんなことでやめられる程度の片想いなら何年もこじらせないわな」と茶化すと、あっけなくタイムマシンの電源を落とした。

1/21/2023, 12:46:54 PM

「本当によかったの?せっかくの誕生日なのに、こんな公園のベンチで外飲みなんてさ」

誕生日にぼっちなんていう可哀想な男友達のために、せめてケーキくらい奢ってあげたのに、と付け足して言うと、高虎は「でもそれ、コンビニのやつだろ?」と肩を揺らして笑う。つられて私も「正解」と歯を見せた。

「でもさ、やっぱ寒いね」
「そりゃ夜だからなぁ」
「まぁ……そうだね」

さすがに男友達とはいえ、彼がひとりで住む家に遊びに行くのははばかられる。
私は、彼女でもないし。

「……高虎もさ、早く彼女作りなよ」
「んー?なんで?」
「そしたら誕生日にこんな、女友達と公園で外飲みとかいう侘しい夜を過ごさなくてよくなるし」
「バカだなぁ」

高虎はそう言って笑うと、私が両手に持っていたチューハイの缶を取り上げた。
思わず彼の方に顔を向ける。いつの間にか一瞬で距離を詰められていて、唇に、彼の飲んでいるサワーのレモン味を感じた。

「特別な夜にするために、お前を呼んだんだよ」

1/20/2023, 12:56:31 PM

「ぷはっ!」

長い潜水時間を終えて、海面から勢いよくマイが姿を現した。
真昼の日光を燦々と浴びながらゼイゼイと肩で息をするマイに、私は呆れ顔を隠せない。

「もうやめたら?海の底に伝説のお宝が眠ってるなんて、そんなのおとぎ話でしょ」
「お、おとぎ話じゃないよっ!言い伝えだよ!?きちんと伝承されてるんですー!」
「……信憑性ゼロ。しかもシュノーケルとか持ってないんだから、そんなに深くまで潜れないでしょ」
「うう、でもでも!こう、潜ってればいつか見つけられる気がするんだよね。海底にピカピカーって、光る何かをさ!」

何かって。頭上に輝く太陽と同じくらいの煌めきを放つマイの瞳を前に、私は大きく息を吐いた。
確かに同年代の友達の中でもマイは幼い方だけど、まさかこんな「海の底には海賊が隠した伝説のお宝がある」なんて子供じみた"言い伝え"を本気で信じるとは思わなかった。

「ほらほら、ミツも休憩終わったでしょ?もいっちょひと潜りと行こうよ!」
「えー、いいよ私はもう……」
「そんなこと言わないでさ、ほら、いっくよー!」

せーの、とマイが大きく息を吸い込み、まだろくに準備もできていないあたしの手を引いて再び水中の深くへと身を投じる。

お宝なんて、そんなに欲しいもんかね。

コバルトブルーの海の中で、マイが声を出さずにあたしに笑いかける。いたずらっ子そのものの笑みだった。

あたしにとっては、あんたとこうしてふざけてる時間の方がよっぽど宝物なんだけどな。

1/20/2023, 6:48:26 AM

「あの子、さっきからずっとうちの校門の前を行ったり来たりしてるね」
「ね。あの学ラン、近くの中学生かな?」

とうとう噂され始めてしまった。
紺のブレザーに青と白のチェックのスカートを身にまとった女子高生たちが、チラチラと俺を見ながら囁き合っている。

耳が熱い。いたたまれない。
もう帰ろうかな。30分くらい経ってるような気がするし。

唇を尖らせて、必死に何でもない顔を作りつつ、俯きながら踵を返そうとしたその時。

「あれ?コウくん?」

爽やかな澄んだ声に、バッと振り返る。
俺の目線の先には、さっきの女子高生たちと同じ制服を着た、幼なじみのサキ姉ちゃんが立っていた。

「奇遇だねー!どうしたのこんなところで?」
「べ、別に。たまたま通りかかって……帰り道だし、ここ」
「そっか!よかったら一緒に帰らない?」

ニコニコと目尻を下げて笑うサキ姉ちゃん。
俺は赤い顔を見られまいと、無愛想に斜め下を向きながら、黙って頷いた。

「あ、あの子、サキを待ってたんだね」
「かわいいね〜。片思い中って感じかな?」

さっきの奴ら、まだいたのかよ。
俺はサキ姉ちゃんの耳に奴らの言葉が入らないように、少しだけ声を張りながら今日の出来事を話し始めた。