Mio

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1/27/2023, 12:49:57 PM

「そういえばミナ、新しい彼氏できたんだよね?どう?」「もうね、超最高!元彼よりめっっっちゃ優しいの!」
「え、でも元彼さんも優しかったよね?」
「優しくないよー!だってあたしがちょっとクレカ使い過ぎただけでめっちゃ怒るし!」
「あー……。でもあれはミナが本当に限度額ギリギリまで使い込んでたから……」
「それにあたしがちょっと調子悪いかもーって言うとすぐ病院行けとか薬飲めとかマジレスしてくるし!あたしはただ心配してほしいだけなのにさ!」
「うん……」
「散らかってるから部屋片付けろとか男友達はいていいけど人は選べとかほんといちいちうるさかったし!マジお前はあたしのママかっての!」
「んー……」
「それに比べると今彼はもう超神だよ〜!あたしがお金使っても口うるさく怒ってこないし、体調悪いって言ったら優しく大丈夫?って気遣ってくれるし、部屋散らかってても何も言わないし!」
「…………」
「やっぱ男は優しいに限るよね〜!ほんと元彼捨ててよかった♡」

ミナの話を聞いて私は、優しさって何だろうなぁって遠い目をしちゃったよね。

1/26/2023, 12:40:29 PM

玄関のドアを開けるなり、俺はそのままバタンと倒れ込んだ。
疲れた。とにかく疲れた。
冷たい床に頬をつけたまま放心していると、奥の方からパタパタと足音が聞こえてくる。

「おかえりー」
「……お前、また勝手に入ってたのかよ」
「合鍵持たしてくれてんだからいーじゃん」

まぁ、そうだけど。こんな頻繁に、つーかもうもはやほぼ毎日上がり込んでくるとは思わなかったよ。
社畜の俺と違って、気ままなニート生活を満喫しているハルトはいつものんびりしていてマイペースだ。激務に追われて1日があっという間に終わる俺とは大違い。

「……ま、別に羨ましくなんかないけどな」
「何ひとりごと言ってんの?早くご飯食べなよ。今日はチーズオムレツとシーザーサラダ、あとミルクスープも作っといたよ」
「マジか」

途端にむくりと起き上がる俺。言われてみれば、確かにダイニングの方からめちゃくちゃおいしそうな匂いが漂ってきている。

「……つーか、ほんとなんでお前、毎日俺ん家来て飯作ってくれるんだ?」
「んー?だってケンタ忙しくて大変そうだから」
「や、それはそうだけど……。こういうのって普通、彼女がやってくれるもんじゃないのかね……」
「まーまー、そう固いこと言うなって。ケンタだって、俺が作るご飯楽しみでしょ?」
「……」

否定はできない。
押し黙った俺を見て、ハルトが「ほら、早くご飯食べよ」とくしゃりと笑う。

こうして今日も、男2人の真夜中の晩餐が始まる。

1/25/2023, 12:35:10 PM

「ねえ、私のこと好き?」
「好きだよ。もう、今日だけで何回言わせるの?」

彼はそう言って困ったように笑うと、膝の上に乗せた私の額に優しく口付けた。
そのくすぐったい感触があたたかくて愛しくて、私もうっとりと目を細める。

ああ、なんて幸せなんだろう。
でも、この幸せが長くは続かないことも、私は知っている。

人の気持ちは移ろいやすくて、すぐに変わる。
「楽しい」から「寂しい」に。
「嬉しい」から「悲しい」に。
「好き」から「嫌い」に。

私が安心できるのは、彼に愛情表現をしてもらう時だけ。
その安心も、時間が経てばすぐに薄れる。

だって、人の心は変わるものだから。

今「好き」でも、1週間後には、1日後には、1時間後には、1分後には、もう「嫌い」になってるかもしれないから。
安心はすぐ不安に塗りつぶされて、だから私は確認することをやめられない。

「ねえ、私のこと好き?」

たぶん、私が安心することは一生ないんだろうな。

1/24/2023, 12:48:03 PM

「北村!」

くたびれたスニーカーを履いて、昇降口を出て行こうとする彼の背中に声をかける。

「おう、吉本」
「そんなさっさと帰ろうとしないでよっ」

明日なんでしょ?引っ越し。
あたしがそう言うと、北村は軽く頷いた。

「そー。だから早く家帰って荷造りしねーと」
「まだ終わってないんだ」
「あはは。まーな」
「……北村。ほんとに、ありがとね。北村が協力してくれなかったらあたし、松木先輩とは付き合えなかっただろうし……」

普段はお調子者の北村だけど、意外に面倒見のいいところがあって、彼のそんなところにあたしは助けられた。
松木先輩に好みの女の子のタイプを聞いてもらったり、デートの機会を計らってもらったり、そんな風にして松木先輩との仲を取り持ってもらった。

「……ほんとに感謝してるの。引っ越しちゃってもさ、会えない距離じゃないし、放課後にスタバとか奢らせてよ」
「いーよ別に」

北村はカラカラと笑うと、そのままさっさと歩き出した。
お別れって、こんなあっけないものなんだな。
ずんずん進んで行く北村に、あたしはもう一度だけ声をかけた。

「北村もさ、彼女とかできたら教えてね!そしたらあたしたちと北村たちとで、ダブルデートしよ!」

***

北村が実は、あたしが松木先輩を好きになるずっと前から、あたしに片想いしていたということを聞いたのは、彼と最後に話した次の日だった。
「絶対言うなって言われてたけど、まぁもう転校しちゃったしいいよね」と、くすくす笑いながらクラスの女の子が教えてくれた。

北村に最後に言葉をかけた時、振り向いた彼がどんな表情をしていたのか。
夕日の影に邪魔されたせいで、あたしには一生分からない。

1/23/2023, 12:52:30 PM

「久しぶり」

昔と変わらない涼しげな笑みを唇に浮かべる彼が覗き込んできて、私は思わず目を見張った。次いで、慌てて耳に嵌めていたワイヤレスイヤホンを外す。

「葵くん……だよね?」
「そうだよ。忘れちゃってた?」
「そんなわけないよ!だって私は……」

ずっと、あなたに会いたかったんだから。
感極まって言葉の出ない私を尻目に、彼は軽やかな動作で私の隣に腰掛けた。
車両はガラガラで、車窓から差し込む夕日で温かな橙色に染まる電車の中には、私と彼の二人しかいない。

「いろいろさ、話したいことあるんじゃないの?会うの、すごく久々だし」
「うん……うん」
「あは、泣いてんじゃん」
「うん……ごめん」
「いいよ。……あ。手、繋ごうか」

膝の上で固く結んでいた私の拳に、彼がふわっと手のひらを重ねる。
その手は信じられないほどに優しくて、温かくて、愛おしさに溢れていて、私の涙はますます勢いを増した。

「……っあり、がとう。会いに来てくれて……」

嗚咽混じりに精一杯言葉を絞り出すと、彼は猫のような目を細めて微笑んだ。

「約束したじゃん。夢の中でも会いに行くって」
「うん……」

電車はずっと緩やかに走り続けていて、私の涙はやっぱり止まらなくて、彼の手のひらはいつまでも慈しみに満ちていて────。

ああ。
お願いだから、夢、覚めないで。

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