「久しぶり」
昔と変わらない涼しげな笑みを唇に浮かべる彼が覗き込んできて、私は思わず目を見張った。次いで、慌てて耳に嵌めていたワイヤレスイヤホンを外す。
「葵くん……だよね?」
「そうだよ。忘れちゃってた?」
「そんなわけないよ!だって私は……」
ずっと、あなたに会いたかったんだから。
感極まって言葉の出ない私を尻目に、彼は軽やかな動作で私の隣に腰掛けた。
車両はガラガラで、車窓から差し込む夕日で温かな橙色に染まる電車の中には、私と彼の二人しかいない。
「いろいろさ、話したいことあるんじゃないの?会うの、すごく久々だし」
「うん……うん」
「あは、泣いてんじゃん」
「うん……ごめん」
「いいよ。……あ。手、繋ごうか」
膝の上で固く結んでいた私の拳に、彼がふわっと手のひらを重ねる。
その手は信じられないほどに優しくて、温かくて、愛おしさに溢れていて、私の涙はますます勢いを増した。
「……っあり、がとう。会いに来てくれて……」
嗚咽混じりに精一杯言葉を絞り出すと、彼は猫のような目を細めて微笑んだ。
「約束したじゃん。夢の中でも会いに行くって」
「うん……」
電車はずっと緩やかに走り続けていて、私の涙はやっぱり止まらなくて、彼の手のひらはいつまでも慈しみに満ちていて────。
ああ。
お願いだから、夢、覚めないで。
1/23/2023, 12:52:30 PM