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「北村!」

くたびれたスニーカーを履いて、昇降口を出て行こうとする彼の背中に声をかける。

「おう、吉本」
「そんなさっさと帰ろうとしないでよっ」

明日なんでしょ?引っ越し。
あたしがそう言うと、北村は軽く頷いた。

「そー。だから早く家帰って荷造りしねーと」
「まだ終わってないんだ」
「あはは。まーな」
「……北村。ほんとに、ありがとね。北村が協力してくれなかったらあたし、松木先輩とは付き合えなかっただろうし……」

普段はお調子者の北村だけど、意外に面倒見のいいところがあって、彼のそんなところにあたしは助けられた。
松木先輩に好みの女の子のタイプを聞いてもらったり、デートの機会を計らってもらったり、そんな風にして松木先輩との仲を取り持ってもらった。

「……ほんとに感謝してるの。引っ越しちゃってもさ、会えない距離じゃないし、放課後にスタバとか奢らせてよ」
「いーよ別に」

北村はカラカラと笑うと、そのままさっさと歩き出した。
お別れって、こんなあっけないものなんだな。
ずんずん進んで行く北村に、あたしはもう一度だけ声をかけた。

「北村もさ、彼女とかできたら教えてね!そしたらあたしたちと北村たちとで、ダブルデートしよ!」

***

北村が実は、あたしが松木先輩を好きになるずっと前から、あたしに片想いしていたということを聞いたのは、彼と最後に話した次の日だった。
「絶対言うなって言われてたけど、まぁもう転校しちゃったしいいよね」と、くすくす笑いながらクラスの女の子が教えてくれた。

北村に最後に言葉をかけた時、振り向いた彼がどんな表情をしていたのか。
夕日の影に邪魔されたせいで、あたしには一生分からない。

1/24/2023, 12:48:03 PM