コンッコンッ
おや、誰か来たようだ、扉がなっておる。
こんな時間におれを訪ねてくるとは、いい度胸していやがるじゃないか。
どれ、いっちょ、どなりちらかしにでも…
コンコンコンッ
…いや、待て。
今は、a.m 4:00。
へべれけに酔い狂ったこのおれに、用のある奴などおるわけがないだろう。
毎日遅くまで飲むとはいえ、騒音をたててまで周りに迷惑かけるのんべぇは、おれはでぇきらいなんだ。いつもしっぽりとやってるおれに、さすがにクレームなんてねぇだろ。
コンコンッコンコンッ
あ…?でも、よく考えると、おれ、今来たやつを、これからどなりちらかしにいこうとして…
よくねぇよくねぇ!こんな時間に…それはまったく、おれのポリシーに反する行動だ。ほんと、それだけはよくねぇってこった。
ここは、スマートに対応するのが紳士ってもんよ。大人の常識…おれにだって、多少の教養はある。
コンコンコンコンコンコンコン
息を整え、おれは扉を開けた。
「おらぁっ!!貴様こんな時間になぁぁんの用があって、こんなとこまできてんだよぉー?!!ここいらの酒全部ぶちまけてやろうか、おぉうら!?」
「もう、お店閉めますよ。何時間もトイレにいて、何してんですか。」――
――気づけばおれは全力の土下座を決めていた。
おでこが極限まで擦り減る程、その場に平伏し謝り散らかした。
その後はちょっぴり多めの金を支払い、
颯爽と(店主からは逃げるように見えたかもしれんが、誰が言おうと決してそんなつもりはないのである。品性漂うイケオジのような、そんなスマートさや風格のイメージをもって)店を後にした。
嗚呼、朝混じりの夜風がなんだか心地良い。
誰か、おれに慰めの一杯でも恵んでくれやしないだろうか。
苛立ちに先んじて、おれは得も知れぬ不安に襲われていた。
おれがまくし立てたであろう言葉の端々がじめじめとした薄暗闇にボトボトと落石していく。
寸刻前の光景がパチ、パチ、と視界の片隅で小さく弾けながら、ねっちょりとしたミックスソフトの境目が溶け出してぬらぬらと互いを侵食していくように、風景はねじまいていく。
あら。
と気づけば、おれのからだもいつの間にやらそれに巻き込まれているようだった。
指先で風呂の温度でも確かめるような気楽さで遊んでいたのに、どうやらもう後には引けないらしい。
あ、あ、ぁ、あ、あ゛あ!
音や光や重力が、勝手気ままにとびまわる。
ルールや約束事が意気揚々と世界から逸脱していく。
砂埃が寒い。星が喉を搔く。天ぷらの窓。虹。虻。
もーういいかい?だーまだよん
貴方は、どこにいるのだろう。
毎日のように、顔をだしては
酒瓶を手に、おれはここから
宇宙へと旅、飛び立っている。
花畑と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、祖母の家の庭先にあった色彩豊かな花壇であった。
やんちゃしてたちんちくりんのガキの時代に、毎年のように訪れていた祖母の家がおれは大好きだった。
花のことはなーんにも知らないはなったれのおれだったけれども(なんなら今も全然知らんしはなったれてもいるかもしれない…)、隅々まで手の行き届いた、品性を感じさせるような花壇であったことはなんとなくだが憶えている。
当時のおれたちは色とりどりに並べられた花たちと背比べをしたり、花びらに顔を寄せてはその数を一枚ずつ数えたり、蜜の匂いに誘われてやってきた虫たちと戯れきゃっきゃと無邪気に声をあげては大人たちを心配させたりと、そんなことをしながら退屈とは程遠い日々を毎年のように過ごしていた。
庭先の一画に作られた六畳一間程度の、花畑と呼ぶにはなんともスケールの小さいものではあったけれども、花畑という2文字の言葉を目にすると、時折在りし日の無垢なる記憶が、ひらひらと胸の内に舞い戻ってくるように感ぜられる……
……こうして度々、頭の中の端々に極彩色の花を咲かせながら、浸るや溺れるノスタルジィ。おれは懲りずに、酒を飲む。今日も今日とて、浴びるように、酒を飲む。
「花畑」
うぃ〜、ヒック。
よぉ。元気か?
…ありゃま、そっか、こりゃいけねぇな。
そういや、アンタ、飲めるんだっけか?
んまぁ、別に、無理するこたぁねえけどよ。
そんなことより昨日の雨、酷かったみてぇだな。
アンタは、大丈夫だったか?
そか、んなら、よかったよ。
…空が泣いてるみたい、だなんて。
アンタ、洒落たこというんだな。へへ。
そろそろ今日は、お開きすっか!
久方ぶりに、楽しかったわ。
うー、外は寒くて、いけねぇな…
風邪引かないよに、気を付けてくれな。
またそのうち、どこかでご一緒しようや。
おやま?なにやら、今夜は星が
空をせらせら、流れておるな。
へへへ、アンタの言葉を借りて言うなら、
まるで、空が泣いてるみてぇだ。
こんな綺麗な泣き顔は、うまれて初めてみたんだけども。
へへっ、アンタと駄弁れて、今日はほんとによかったよ。
そんじゃあまた、温かくして、おやすみな。
「空が泣く」
さぁーて、LINEの確認でもすっか。
「通知:0」
さ、さぁーて、仕方ね、もう寝るとすっかな゙…
(ささ、寂しくなんてねぇぞ…最近始めたばっがりだから、まんだ友だちがすくねぇだげだがんな…)
♯君からのLINE