よいどれ侍

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噴き出す黒い煙がガスホルダーを掠めて、風に溶けていった。

湿気たタバコに火を灯し、鉄の骨の残響が深く沈み込む夜を、当てもなく彷徨っている。
コンクリートを踏みつけるたび、冷たい振動が全身を伝う。

タバコは、いい。
吸い込めば吸い込むほど、なんだか胸の奥に熱が滾る気がする。
肺に溜めこみ、漏れ出るようにして、そっと吐きだした。

もしかしたら、こんな気分でいられるのも、あの人が好んだこのタバコのおかげかもしれないな。

街灯が落とす影を追いかけては追い越し、また追いかけては追い越し。
そんなことを繰り返しているうちに、光も影もない場所にたどり着いた。

ぼんやりと空を見上げ、煙を夜へと返す―




タバコの先端が夜の一点を小さく滲ませている。
やがて、まぶたが静かに落ちるように

消えていった。




―冷えた光が油膜をなぞり、鈍く揺らめいていた。

10/31/2025, 1:35:26 PM