『言葉にできない』
今日は、雪村さんの家でお家デート。
「ふふっ、、、」
つい声に出してしまった、、、。
公開時に話題だった映画がwebで公開されたので見ることにした。
ソファーに座った僕に背中を預けて座って映画を見ていた雪村さんだったけど、いつの間にか寝てしまったようだ。
しょうがない。
先週から忙しかった。
疲れがたまっていたかも。
背後から腕を回して、雪村さんをギュッと抱きしめる。
緩めの襟ぐりから続く、雪村さんの白い首筋、、、に顔を埋める。
あー幸せ。
『1つだけ』
「うーん、、、買いたいけど、1本は量が多いな」
コンビニのドリンクコーナーの前で真剣に悩む夏目。
ちなみに、夏目は悩む時に人さし指でアゴを触る。
今もそれをやっている。
さらに、口をタコのように少し尖らせている。
その横顔をじっと見ていると。
「あ、そうだ!雪村さん」
突然、コチラ側を見る。
「1本買って、半分ずつシェアしませんか?」
別に断る理由はない。
だから。
「ん、いいよ。
それなら緑茶系な」
「リョーカイ」
夏目は返事をしてから、全国でメジャーな緑茶のペットボトルを取った。
「お茶、1本しかないから、間接キスになりますね」
耳元を掠めた低音に、心臓が跳ねた。
『大切なもの』
向かいの席で左手をテーブルの上にのせている雪村さん。
その左手薬指にはまるシルバーのリング。
休みの日だけつけてくれている。
カフェのテラス席は、春の日差しで暖かい。
僕は、片手をのばして、その左手の指先をつかむ。
少し肩をビクッとさせて、雪村さんがコチラを見る。
指輪のはまっている薬指の指先をゆるくさする。
手を引こうとした雪村さんを逃すまいと、指先を握った。
『My Heart』
「あ、おはよう。
悠人さん」
キッチンに立っていた夏目が振り返った。
「、、、う、うん、おはよ、、、」
「もうすぐ朝ごはんできるよ。
顔洗っておいでよ」
2人だけの完全なプライベートな時のみの、タメ口と名前呼び。
スーツ姿の時は着痩せして見える、今はTシャツのみの、意外に鍛えられてるのがわかる背中。
「悠人さん?
どうしたの?」
返事をしたのに動かない俺に、もう一度振り返る夏目。
「あ、いや、、、」
「じゃあ、なに?
、、、、もしかして、朝ごはん準備してる僕の後ろ姿に惚れ直しちゃった、、、?」
「、、、」
「図星?」
言いながら、近づいてくる夏目の口元に浮かぶ笑みに、俺の喉が「ゴクリ」と息を飲んだ。
『ないものねだり』
映画デートの待ち合わせ。
約束の時間の10分前。
ショッピングモール内の映画館入口の隅に立つ雪村さんを見つけた。
雪村さんをチラチラと見る人達が少なくない。
惚れた欲目じゃなくても、雪村さん、美人だから!
あわてて小走りで向かう。
「雪村さん!」
雪村さんがスマホから顔をあげて、少し笑ってコッチを見る。
こっちに笑顔を向けた時に、少し首を傾げたから、色素の薄いサラサラヘアが動いて、真逆の少しクセ強で真っ黒な自分の髪の毛とのギャップを強く感じた。
そう思ってたんだけど。
「あーやっぱり夏目の髪の毛うらやましいな、、、。
クセがパーマみたいでいいな、、、」
そう言いながら、雪村さんが僕の髪の毛に手を伸ばしてきて、一筋髪の毛を指にクルクルっと巻いた。
「雪村さんっ、、、!!」