G14(3日に一度更新)

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12/22/2024, 1:47:37 PM

 ここはヘイワヤネン。
 500年前に建国されて以来、目立った紛争も戦争もない平和な国。
 気候は穏やかで、災害もほとんどない。
 まさに理想的な国であった。

 その国の人々は、自分たちの境遇に奢ることはなく、平和に感謝し、誰も陥れることなく、慎ましく暮らしていた。
 王族たちもそんな国民を愛し、国をより発展させるよう尽力する。
 人々は明日も平和だと疑わず、未来への希望を抱きながら暮らしていた。

 しかし、突如その平和が破られた。
 封印されていた魔王が復活したのである。

 ◇

 ある冬の晴れた日、突如空に魔王のビジョンが映し出される。
 誰もが空を見上げ、大空に映る魔王の姿を呆然と眺めていた。

「クハハハハ。
 我は魔王ハカイヤー。
 貴様たち人間に、絶望を与える存在だ。
 人間どもよ、恐れおののけ!」

 魔王、ハカイヤー。
 500年前、この地に突然あらわれ、恐怖をもたらした魔王である。
 しかし、魔王の支配をよしとしない人々が集まり、解放軍を結成。
 激戦の末、甚大な被害を出しつつ魔王ハカイヤーは封印されたのだ。
 これが、この国に伝わる勇者伝説。
 そして、その時の解放軍が建国したのが、このヘイワヤネンである。

 しかしあれから500年、もう勇者たちはいない。
 この国にいるのは、戦う力を持たない善良な人々ばかり……
 彼らに抵抗できる力はなく、魔王に蹂躙される未来しかなかった
 その事実に愕然とする人々に、魔王は語り続ける。

「だが安心するといい。
 お前たちにチャンスをやろう。
 もし我に忠誠を誓うのであれば、大空の様に広い心で貴様たちを許してやろう。
 だが――」

 魔王は、一拍置いて宣言する。
「反抗するというのなら容赦はしない。
 とはいえ、考える時間も必要だろう。
 一か月やる。
 その間に身の振り方を考えるのだな」

 魔王の提案に、人々の心が揺れる。
 かつての勇者たちですら苦戦した相手。
 反抗しても歯が立たないだろう……
 かといって忠誠を誓っても、碌な扱いをされないのは目に見えていた。
 名誉ある死か、屈辱の生か……
 彼らに究極の選択が迫られた。

「一か月後を楽しみにしているぞ。
 わーはっはっは!」

 話は終わりとばかりに高笑いする魔王。
 人々は、これから訪れる闇の時代に人々の表情は絶望に染まる――



 ――たのも束の間、その顔は次第に戸惑いに変わる。
 それもそのはず、話は終わったというのに、魔王のビジョンが消える気配が無いからである。

「こんなものか」
 誰に聞かせるわけでもなく、魔王は独り言をつぶやく。

「ふう、人間どもめ。
 我に忠誠を誓わないとか、不遜にもほどがある」
 先ほどまでの、恐怖を抱かせるような物言いではない。
 だたただ、思っている事をそのまま口に出しているようだった。

 それを見た人々は首を傾げる。
 魔王の要求はさっきのやり取りで伝えたはず。
 にもかかわらず、なぜこんなものを見せるのか。

「あ、爪伸びてる。
 500年だったからなあ……
 切っておかないと」
 魔王の独り言は止まる気配がなかった。

 これを見た人々は一つの疑念が湧く。
 『この魔王、まだ映っている事に気づいていない?』
 この世界では馴染みのない、そして現代日本において稀によくある『配信切り忘れ』であった

「それにしても面倒なことよ。
 魔王である我がこんなことをせねばならんとはな」
 魔王は、まさか見られていると思わず、独り言を続ける

「だが仕方あるまい。
 封印から解放されたばかりで力が戻ってないからな。
 今の我はスライムにも負けるであろう」
 衝撃の事実を告げる魔王。
 それを聞いた人々は驚きのあまり声も出ない。
 
「今攻め込まれては危険だが、一か月後には力を取り戻せるはず。
 これで時間が稼げるはずだ。
 それまではせいぜい悩むといいさ」

 ◇

 翌日、魔王は討伐された。
 結局討伐されるまで、魔王は配信の切り忘れに気づかなかった。

 そして討伐後、試行錯誤の末に配信は切られた
 今はもう、空には何も映っていない。
 そこには雲一つない大空があるだけ。

 人々は以前の様に、未来に希望を抱く元の生活に戻るのであった

12/21/2024, 3:38:07 PM

 シャンシャンシャーン♪
 シャンシャンシャーン♪

 クリスマスイブの夜。
 ベルの音が、街中に鳴り響く
 今日は、子供たちが一年の中でもっとも待ち望んでいる一日。
 どんなに手がかかる子供も、今日だけは良い子になって眠りにつく。

 しかし深夜になっても布団に入らず、机に向かって勉強している少年がいた。
 彼の名前はツトム。
 中学受験を来年に控えた小学六年生である。

「チッ……」
 しかしツトムは家の外から聞こえるベルの音に、憎々し気に舌打ちをする。
 なぜならば彼にとってサンタクロースのプレゼントは害でしかないからだ
 ツトムは自分の意思が弱いことを自覚している。
 だからゲームなんてもらった日には勉強そっちのけで遊ぶと思っていた。

 しかもツトムには、自分のとこにサンタがやって来る確信があった。
 なぜなら自分は客観的に見て『いい子』だと思っていたからだ

 ツトムは勉強もさることながらボランティアにも精を出していた。
 ボランティアに参加することで、内申点を良くしようという魂胆である。
 それ以外にゴミ拾いや困った人を助けるなど、色々な活動を行い周囲を行った。
 そのおかげで評価は上々、あとはテストでいい点を取るだけであった。

 下心があるとはいえ、どこに出しても恥ずかしくない『いい子』のツトム。
 サンタが来るのは必然であった

 そのためツトムは、対策を練ることにした。
 しかしサンタに来てほしくない子供が少ないためか、調べてもサンタを遠ざける方法は分からなかった。
 だからいつ来てもいいよう、机の横に金属バットをたてかけていた。
 これでサンタを追い払うのだ。

 と、部屋のドアの向こうに、誰かが来た気配がした。
 ツトムは、『サンタかもしれない』と思い、バットに手を伸ばす。

「ツトム、入っていいか?」
 声をかけてきたのはツトムの父だった。
 ツトムは安心して、答える

「入ってきていいよ」
 そう言うと、ツトムの父は湯気のたったカップを持って入って来る。

「ココアを入れた。
 これを飲んで休みなさい」
 ツトムはココアを受け取ると、おいしそうに飲み始めた。

「ツトム、そろそろ寝たらどうだ?
 いつもはもう寝ている時間だろ。
 寝不足は勉強の大敵、合格するためにも今は寝なさい」
「分かってる。
 寝ている間にサンタが着たら大変なんだ
 起きてないと……」
「前から言ってたサンタを追い払うって話か……
 お父さんが子供の頃は、毎日来て欲しいくらいだったのに」
「今は令和だからね」
「令和は関係ないな」
 ツトムの父は少し笑うと、すぐに何かを考えるように腕を組む

「しかし、やはり遅くまで起きているのは感心しないな」
「でもサンタが!」
「そこでだ。
 お前の代わりにお父さんが見張っておく。
 ツトムは寝なさい」
「それだとお父さんが寝れないじゃんか!
 お仕事で疲れてるでしょ?」
「お父さんは大人だから、少し寝なくても問題ないんだ」

 父の提案を聞いて、思い悩むツトム。
 しばし考えた後、顔を上げて父親を見る。

「分かった。
 ボクは寝るから、見張りはお願いします」
「よし来た。
 じゃあ、ツトムは歯磨きしてきなさい」

 ツトムは頷くと、そのまま部屋を出て行った。
 父親は、これで安心だとばかりに息を吐く。
「まったく、サンタを困らせるなんて悪い子だなあ……」

 そして歯磨きから戻って来たツトムは布団に入る。
 その間、ツトムの父はサンタが入ってこないよう監視をするのであった。

 しかし父の頑張りも虚しく、サンタのプレゼントは届けられる。
 自分の父親の不甲斐なさに憤怒するツトム。
 しかしプレゼントの中身が文房具セットだと知ると、ツトムは飛び跳ねるように喜び、ウキウキしながら勉強を始めるのであった

12/20/2024, 3:33:30 PM

「はあー、寂しい……
 彼氏欲しい」
 友達の沙都子の部屋でゲームをしていると、心の声が漏れてしまう。
 いつもはアクションゲームをしていたのだけど、飽きたからと趣向を変えて乙女ゲーをしたのが悪かったかもしれない。
 寒い冬なのもあって、妙に人肌が恋しい

「相変わらず急ね、百合子……」
 私の独り言に、呆れたように返す沙都子
 普段は私の独り言を無視する癖に、今日は律義に反応する。
 ひょっとして、沙都子も寂しいのかな?

「急じゃないよ。
 クリスマスまで一週間。
 世間様のカップルはクリスマスを待ち遠しく思っているって言うのに、私には恋人どころか仲のいい異性すらいない!
 女子高生としてあるまじき事態!
 あゝ、独り身は寂しい」

 私は熱弁する
 けれど、私の熱量とは対照的に、沙都子は意外そうに私を見ていた。
 え、私変なこと言った?

「何か言いたい事でも?」
「誤魔化すような物じゃないからハッキリ言うわね。
 正直百合子が彼氏欲しいって言うとは思わなかったわ。
 てっきりゲーム以外には興味ないかと……」
「そんなことないよ!
 コイバナ大好きだよ!」
「ゲームと彼氏、選ぶとしたら?」
「ゲーム」

 私の返答に、再び呆れたような顔をする沙都子。
 私、なにかやっちゃいました?

「いつも通りのあなたで安心したわ。
 あ、邪魔して悪かったわね。
 ゲーム、再開してもいいわよ」
「なんだか含みがある言い方だなあ……」
 なんとなく、
 さてどうしたものか……

「そういう沙都子はどうなのさ?
 そっちも浮いた話無いでしょ?」
「失礼ね。
 毎日告白されて大変なのよ」
「へえー、そうなんだ。
 まあ、男子共は沙都子の黒いところ知らないからなあ……」
「ゲームみたいにぶっ飛ばされたいの?」
「……じ、冗談じゃんか。
 本気にしないでよ」

 私は殺気に身がすくむ。
 沙都子は気が短すぎる。
 この事を男子が知れば、きっと付き合おうだなんて思うまい。

「それはともかく!
 私はクリスマスまでに彼氏を作る!
 そしてクリスマスデート!
 その時に悔しがっても知らないんだから!」
「別に、彼氏作るなまでは言ってないわよ……

 あ!
 これは確認なんだけど、百合子のクリスマスの予定は埋まってるという認識でいいのよね?」
「そう言ってる」
「そう、残念ね。
 我が家主催のクリスマスパーティ、百合子は不参加と伝えておくわ……
 百合子のリクエスト通り、凄いケーキを用意する予定だったのに……
 本当に残念だわ」
「すいません、調子に乗りました。
 クリスマスは暇です」
「あなた、本当にブレないわねえ……」

 今日何度目か分からない、沙都子の呆れた顔。
 でも気にしない。
 腹の膨れない彼氏よりも、美味しいケーキ!
 どんぬ寂しい思いをしようとも、ゲームとケーキさえあれば何もいらない!
 私はクリスマスに予定を入れないことを、心に固く誓うのであった。


「で、『彼氏を作って一緒にパーティに参加』とは思いつかないわけね」
「あ」

 ちゃんちゃん。

12/19/2024, 1:41:53 PM

 猫は自分が快適に過ごすことが出来る場所を探すのが得意である。
 夏は涼しい場所へ、冬は暖かい場所へ。
 常に探求を怠らない。
 自分が快適に過ごすためだが、それ以上に重要な理由がある。

 猫は体温調節が苦手なのだ。
 特に寒さには敏感で、暖かい場所を探すことは死活問題でもある。
 自分の体温を最適に保つために、今日も最高の場所を探す。

 しかし快適な場所というのは、季節や時間、日の当たり具合や風向など、様々な要因で変化する……
 先ほどまでは快適だった場所も、すぐに凍えてしまうことがある。

 そういった意味で、家に飼われている猫は幸運である。
 人間が快適に過ごすための道具は、全てでないにしても猫にとっては有用だ。
 コタツは童謡でも歌われているように丸くなるし、エアコンは言わずもがな。

 だが一点、家で飼われている場合特有の問題がある。
 その問題を説明するために、実際のケースを説明するとしよう
 これは、とある家で飼われているタマの話である。

 ◇

 タマは窓辺で日向ぼっこをしていた。
 冬にもかかわらず、部屋の中は春のように暖かい。
 至福の中でうたた寝している時、彼の主人が帰って来る。

「タマァァァ、タダイマァァァ!」
 ……奇声を上げながら。

 猫は大きな声が苦手だ。
 彼は条件反射的に飛び起きて逃げ出そうとする。
 しかし寝起きのために反応が遅れ、すぐに捕まり抱きかかえられる。
 
「カワイイィ、アタタカイィ」
 彼の主人は長い間外にいたのか、手は冷たくタマの体から熱を奪っていく。
 タマは不快になり、もがいて脱出しようとするも、彼の主人は手放さない。

「暴れちゃだめだよう」
 そう言いながら、彼の主人は座る。
 タマをがっちり捉えながら……

 ◇

 こうして時折、人間に至福の時間を邪魔されるのが、家で飼われる猫の問題である。
 猫によっては非常にストレスフルな出来事だが、悪い事ばかりでもない。

 人間は気の済むまで猫を抱いた後、膝に乗せるのだ。
 この膝の上というのが、意外と穴場である。

 暖かく、寝心地がいい。
 信頼している存在の匂いに包まれるのもポイントが高い
 なにより一番いいのは、一度奇声を上げた人間はしばらくは奇声を上げないということ。

 この場所にあって、初めて心の底から安心して寝ることが出来るのだ。

 『冬は一緒に人間といること』
 それが、猫にとって快適に過ごす秘訣である。

12/18/2024, 2:44:55 PM

 今日の短編はお休みです

 理由は、仕事で久しぶりに

    大☆残☆業

 したからです(^_-)-☆(ヤケクソ)






 残業なんて嫌いだ

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