某所、街の真ん中で戦いを繰り広げる者たちがいた。
正義の味方のジャスティーズと、世界征服を企むワルダクミン。
ジャスティーズは、赤、青、ピンクのスーツを着た三人組。
ワルダクミンは、軍服を着た女が一人であった。
お互いの相容れない目的のため、両者は激突する。
しかし三対一の戦力差。
数の有利でジャスティーズに利があると思われたが、意外にもワルダクミン側である軍服の女性が圧倒していた。
それもそのはず、軍服を着た女はワルダクミンの幹部。
強さがステータスの組織で、五本の指に入る強者なのだ
他の雑魚怪人とは比べ物にならないほど強く、ジャスティーズの三人を歯牙にもかけなかった。
「バカな!
強すぎる!」
赤色のスーツ男――レッドが悔しさをにじませながら、軍服女を睨みつける。
そんなレッドを、軍服女は涼しい顔で見下す。
「こんなものですか、ジャスティーズ?
拍子抜けもいいとこですね」
「くっ」
「ではトドメを差しましょうか?」
「くっ!」
「――といいたい所ですが、今日は見逃してあげましょう」
「どういうつもりだ?」
「もう少し遊んであげたいところですが、時間ですので……
では皆さん、また会いましょう」
女性がそう告げると同時に、迷彩柄の高級車が横付けする。
ワルダクミン幹部専用の送迎者だ。
女幹部は、ジャスティーズを振り返ることなく車に乗り、その場を去ったのであった。
◇
20分後、電車にて。
スーツの三人は、座席に座っていた。
基地に戻るためだ。
しかし誰も口を開く事は無く、みな下を向いている。
女幹部との圧倒的差名を見せつけられ、三人は打ちのめされたのだ。
三人が乗ってから3つの駅を通過したとき、ようやくブルーが口を開く。
「なんなんだよ、あれ」
ブルーは、重く悲痛な感情を込めてつぶやく。
思い出すのは、女幹部の去る姿。
ブルーは悔しさで唇をかむ。
「……やめろ、ブルー」
だがレッドはたしなめる。
言葉にしたところで何も解決しないばかりか、余計に惨めになるからだ。
しかしレッドの言葉は、ブルーには届かない。
ブルーはさらなる怨嗟の言葉を吐く。
「俺たちは!
経費削減で電車に乗っているって言うのに!」
「やめろ」
「なんでアイツ送迎があるんだよ!
こっちは自腹だぞ!!」
「やめろと言ってるだろ!」
レッドがブルーにつかみかかる。
「分かってんだよ、そんなこと!
口に出すんじゃねえよ」
「お前悔しくないのかよ!
こっちは正義なのに、なんでこんなひもじい思いをしないといけないんだよ」
「うるせえよ!
金が欲しいなら銀行強盗でもすればいいだろ!」
「それ、正義の味方が言っていい言葉じゃねえぞ!
「喧嘩は止めて!」
レッドとブルーの言い争いに、ピンクが割って入った
「仲間でしょ?
仲良くしよう」
「「……」」
「私も同じ気持ちよ。
でも仲間割れしては、敵の思うつぼ。
こんなときこそ、力を合わせないとね」
ピンクの言葉に二人はハッとする。
ピンクの言葉通り、喧嘩している場合ではない。
それよりも、女幹部に勝つための作戦を考えないといけないのだ。
「……悪い。
頭に血が上っていた」
「……こっちこそ、怒鳴ったりして悪かったよ」
「うんうん、仲良しで行こうよ」
レッドとブルーは、仲直りの握手をする。
彼らの絆は、固く結ばれているのだ!
◇
ジャスティーズが固い握手を交わしている間、電車は駅に着いた。
開いたドアから客が乗ってくるが、その中にジャスティーズの知っている顔がある。
レッドはその顔を見て、思わず叫ぶ。
「貴様、ワルダクミンの幹部!
なぜこんなところに」
さっさ戦った女幹部が電車に乗って来たのである。
しかし今の彼女は軍服を着ておらず、オシャレな私服に着替えていた
「あら、誰かと思えばジャスティーズの皆さん。
ごきげんよう」
「余裕だな?」
「そうでもありませんよ。
あんなに優雅に去ったというのに、すぐに再会してしまいました。
とても気まずいです」
「ふん、よく嘘をつけるものだ
貴様何を企んでいる!」
「たくらみも何も、今から旅行に行くところです」
「旅行だと!
ハッ、騙されんぞ」
「いえいえ、本当ですよ。
現場から直帰で家に戻りましてね。
着替えてきたんですよ」
「おいおい、まるで仕事が終わったかのようじゃないか。
まだまだ戦いはこれからだろう?」
「いえ、ありません。
勤務時間外、定時ですので」
「「「て、定時だと!?」」」
レッドは――いやジャスティーズの三人は、驚愕の表情で女幹部を見る。
ジャスティーズは正義の味方、助けを求められればいつでも駆けつけなければならない。
そのため、定時越えどの残業はどころか、休日返上もあたりまえ。
そしてこれから基地に帰っても、報告書を書くためにサービス残業をしなければいけない。
そんな勤務実態なので、ジャスティーズの三人は、女幹部に嫉妬し始めた
「ふ、ふん。
それは良かったな
俺たちは仕事だ。
お前のいない間、街を平和にしてやろう」
「がんばってください」
「他人事だな。
しかし、分かっているぞ。
お前は旅行先でも悪事を働くつもりだろう?
どこに行くつもりだ!
言え!」
「草津です
リラックス休暇で、一週間ほど温泉を楽しむ予定です」
「「「くさつ、りらっくすきゅうか、おんせん?」」」
聞きなれない言葉に、三人はオウム返しをする。
女幹部から出てくる数々の新事実に、彼らは打ちのめされる。
そして、戦いで負けた時よりも、心に深い傷を負った。
『次は、ツギノマチ、ツギノマチーー』
「すいません、次の駅で乗り換えなので失礼しますね」
「あ、ああ」
レッドはもう食いかかったりしなかった。
戦いでもプライベートでも、殺到的な差を見せつけられた彼に、そんな気力は残っていないのだ。
そして電車は駅に着き、ドアが開く。
「では一週間後、また会いましょう」
女幹部はペコリと頭を下げ、電車を降りていく。
その様子を三人は、ただ黙って見つめるしかなかった
◇
ついに暴かれた女幹部の秘密。
圧倒的な強さに、三人は打ちのめされてしまう。
でも大丈夫。
三人ならきっと乗り越えられるはず。
次回、ジャスティーズ
『辞表』
来週また会いま――え、辞表って何?
打ち切り!?
聞いてないよ!
まって話を―――
<お知らせ>
この番組は打ち切りになりました。
次回からは、ワルダクミンが始まります。
第一話『草津温泉日記』
お楽しみに
探偵とは、イメージと裏腹に地味な仕事である。
アニメや漫画のような、密室殺人を解決したり、巨大な陰謀に巻き込まれたりはしない。
ほとんどは浮気などの素行調査で、次点が家でしたペットの捕獲くらいだ。
派手さはまったくなく、忍耐が要求される仕事。
それが探偵である。
とはいえ、探偵も人間だ。
毎日代り映えしない仕事では退屈するし、人間の闇を見ることも多いので病みやすい。
適度に気晴らしをしないといけないと、すぐに病気になってしまう。
そういうわけで、俺は機会があれば積極的にスリルのある仕事を取るようにしている。
という事で今回のお仕事は――
◇
「騙された―!!」
そう叫んでいるのは、ウチの探偵事務所で雇っている助手である。
先日、浮気調査の報告書をつくりながら『パーッとしてえ』と言っていたので、
気晴らしにスリルある仕事に誘ったのだが不満らしい。
到着する前はあれほど浮かれていたというのに……
何が気に入らないのだろうか?
「先生言いましたよね。
『今回はスリル満点な仕事』だって!」
「言ったぞ。
実際スリル満点だろ?」
「ええ、スリルだけはありますね。
スリルだけは!
だけど!」
助手は大きく息を吸って一拍置き、大声で叫ぶ。
「こ ん な ぼ ろ っ ち い 橋 の 上 で 仕 事 な ん て 聞 い て な い ! ! !」
助手は叫びながら、目の前の橋を指さす。
そこにあるのは、何時作られたのか分からないくらいボロボロの吊橋だ。
たまに使う人がいるとかで壊したりはせず、一応補強や修理が入っているらしい
けれどそれを知ってても渡るのをためらう位には、ぼろい橋である。
「なんだよ、不満なのか?
もしかしてお前、高所恐怖症か?」
「そうです。
高い所ダメなんです!」
「なら断れば良かったのに」
「こんなの聞いてないからです」
「お前が聞いてなかっただけだ。
報酬に目が眩んだだけだろ?」
「それは……」
「『今回は危険な場所だから、日当は倍』を聞いて、勝手に舞い上がったお前が悪い」
「でもでも……」
助手は往生際悪く、駄々をこねる。
とはいえ怖いものは仕方がない。
恐怖というものは、制御不能ななもの。
気合だけでどうにかなる場合は少ない。
とはいえ、このまま言い争いをしても仕方がない。
どうしたものかと考えあぐねていると、助手が突然真顔で俺を見る。
「ねえ、先生?」
「なんだ」
「吊橋効果って知ってます?」
「男女で吊橋を渡ると、仲が深まるってやつか?」
「はい。
でも知ってました?
一緒に吊橋を落とすと、さらに仲が深まるんですよ」
「待て!
それ犯罪で結びついただけじゃんか!
しっかりしろ!」
あのクールな助手がおかしくなってる!
『適度なスリルはクスリになるが、度を過ぎれば毒』というのを、体現したかのようなパニックぶり。
これ以上はいけない。
助手は下がらせよう。
「分かったよ。
作業は俺一人でやるから、そこで座ってろ。
倍は無しだが、今日の分の給料は払ってやる」
「い、いえ!
働きます。
お金がいるんです!」
「お前いつもそうだよな……
投げ銭だったか、ほどほどにしとけよな……
はあ、座ってていいから日当を倍に払って――」
「いえ、四倍にしてください。
そしたら働きます」
「……お前いい性格してんな。
もう面倒だから払ってやるよ」
「よっしゃあああ!」
助手は奇声を上げたかと思うと、「怖くない、怖くない!」と言いながら吊橋を渡っていった。
すげえ!
金の力で恐怖を克服したぞ、あいつ。
ちょっと様子おかしいけど、吊橋を見事渡り切って見せる助手。
あれなら仕事は出来るはずだ、多分。
ホッと一安心していると、助手が不思議そうな顔をしながらこっちに戻って来た。
「先生、この吊橋で何をすればいいんですか?」
「……この吊橋をイルミネーションで飾り付けるんだよ。
ほら端っこを持て。
一緒につけるぞ」
◇
後日談。
どうにかこうにかして、無事に吊橋をイルミネーションで飾り付けた俺たち。
張り切る助手が若干怖かったが、綺麗に飾り付けることが出来た。
依頼人からも満足してもらえたのだが――
「あれ?
依頼料が振り込まれてない!?」
依頼側のミスで振り込まれていないお金。
先方に連絡すると、謝罪と共にすぐに振り込まれたものの、記帳されるまで刺激的でドキドキの時間を過ごしたのであった
お金にまでスリルを求めてないんだよ!
ここは鳥の国。
ここでは、様々な鳥が暮らしていました
食べ物が豊富にあり、天敵はおらず、気候条件も穏やかと、まさに理想郷でした。
優雅に飛ぶ鳥は尊敬され、一番優雅に飛ぶ鳥が王様になって国を治めていました。
ですが鳥には空を飛べない物も多くいました。
そして飛べない鳥たちは、飛べる鳥に馬鹿にされていたのです
その中でも特に気弱なニワトリは、格好の的でした。
「やーい、鳥のくせに飛べない鳥!
悔しかったら飛んでみろ!」
「……」
カラスたちがニワトリに向かって、悪口をいってました。
ですがニワトリは言い返しません。
言い返してもカラスは面白がるだけだからです。
「やーい、チキン野郎!」
「!
……」
「なんだよ、何も言い返さないでやんの……
つまんないから、かーえろ」
そう言ってカラスは飛んでいってしまいました
ニワトリは、カラスの飛んでいった方をじっと見ます。
言い返さなったとはいえ、カラスの言葉はニワトリの心をひどく傷つけるものでした
ニワトリは顔に悔しさをにじませます。
悲しい事に、これはこの国ではよくある光景です。
どれだけ理想的な環境でも、いじめは絶えないのです。
ニワトリは、カラスの言った言葉を反芻させながら、寝床に帰ろうとします
そんなニワトリに、後ろから近づく影がありました。
ヤンバルクイナです。
「やあ、ニワトリ君。
元気かい?」
「ヤンバルクイナ君かい……」
「またカラスの奴に酷い事を言われてたね。
でもカラスのいう事なんて気にする必要は無いよ。
優雅に飛べない、うっぷん晴らしさ」
「でも飛べるだけ羨ましいよ」
ヤンバルクイナはニワトリを励まそうとしますが、効果がないばかりかさらに落ち込んでしました。
ヤンバルクイナは慌てて言葉を続けます。
「ニワトリ君だって、いいところはあるさ」
「でも僕は、数が多いだけのニワトリだよ。
姿もきれいじゃないし、君みたいに愛嬌もない」
「僕は好きだけどな、君のこと。
ガンダムみたいでカッコよくない?」
「そんな事を言うのは君くらいだよ」
ニワトリはヤンバルクイナの言葉にくすっと笑います。
ヤンバルクイナも、笑ってくれて少し安心しました。
その後少しだけ言葉を交わし、二匹は自分の寝床へ帰りました。
そして目を瞑りながら、ニワトリは今日あった事を考えていました。
『やーい、チキン野郎!』
カラスの言葉を思い出します。
悔しくて悔しくてたまりません。
それ以上に、何もできない自分に腹が立ちました。
『ガンダムみたいでカッコいいよ』
友人のヤンバルクイナの言葉を思い出します。
この言葉は彼なりの冗談でした。
しかし荒んだニワトリの心には、何よりの救いでした。
そしてニワトリは決意します。
自分を励ましてくれた友人に誇れるようになりたいと。
ガンダムの様に、強くなりたいと……
次の日の朝。
カラスの寝床。
不機嫌そうにカラスが起きると、寝床から起き上がりました。
「はあ、寝起きだるー。
眠気覚ましにニワトリでも揶揄うか……
でもアイツ遠くにいるから、行くのがめんどい。
あっちから来てくんねえかな――
ん?」
その時カラスは、遠くにあるものを見ました。
カラスの方にに向かってくる、白い影を。
「お、ニワトリじゃねーか。
本当にあっちから来てくれるなんて。
お礼にいつもよりも悪口を言ってやらないとな」
カラスは、ニワトリの襲来に上機嫌でした。
いったいどんな言葉でなじってやろうか。
カラスは今か今かと、ニワトリの到着を待ちわびます。
「はー、早く来ねえかな。
待ちきれねえぜ。
こっちから行くか――あれ?」
そこでカラスはおかしい事に気が付きました。
ニワトリらしき白い影が、とても大きい事に。
まだ寝ぼけているのかと、目をこするカラス。
そしてよーーーく目を凝らして白い影を見ます。
そして
「ガンダムじゃねーか!!!!」
そうです。
ガンダムです。
ガンダムがやってきたのです!
昨晩の事です。
ニワトリは、自分を鼓舞するため、友人の言葉を繰り返し口に出していました。
『ガンダムみたいでカッコいいよ』
何度も何も繰り返し口にして、夜が明け空が白くなってきたころ、ニワトリは確信します。
「僕がガンダムだ」
そしてニワトリは、自分がガンダムだと思い込みガンダムになりました
ガンダムへとなったニワトリは、カラスの元へ来たのです。
ですがカラスにとっては堪ったものではありません。
「ガンダムに勝てるか!
空に飛んで逃げよう!」
カラスは大急ぎで空へと羽ばたきます。
「逃がすか!」
ですが今のニワトリに不可能はありません。
背中に着いたジェットパックから、ジェットを噴射、空へと舞い上がります。
「バカな!?」
カラスは、自分を追いかけて来るガンダムを見て仰天します。
ですが驚いてばかりはいられません。
カラスはニワトリを撒くべく、全力で逃げ回ります。
必死に逃げるカラス、それを追いかけるニワトリ。
力の差は歴然としていました。
あっという間にカラスは捕まり、お仕置きされてしまいました。
そして地上。
カラスが土下座しながらニワトリに謝ります。
「反省してます。許してください」
カラスに二度と悪口を言わないことを誓わせ、これで一件落着――かに思えました。
ニワトリの近くに、この国の王であるハヤブサが下りてきたのです
ハヤブサは、頭を垂れながら、ニワトリに告げます。
「あなたが飛ぶ姿をこの目で見ていました。
とても優雅な飛行でした。
あなたこそこの国にふさわしい」
そうしてニワトリは王冠を授けられ、この国の王様になりました。
そして飛べる鳥も飛べない鳥も差別しない決まりを作りました。
そして真っ赤な王冠を被り、今でも良き王として鳥の国に君臨しているそうです。
めでたし、めでたし。
裏日本
この国では、古来より怪獣がやって来て街を破壊しに来ていた。
無論人々は対抗したが、巨大な怪獣の前に手も足も出ず、多くの犠牲を出した。
そのため、自然災害と同じように限られており、もはやあきらめの境地に達していた。
そして現代。
科学技術は発展し、人類が過去で最も繫栄した時代になった。
そこで今ならできるのではないかと、怪獣の被害を減らすべく対策会議が行われた。
この会議には、裏日本のみならず、世界中の優秀な頭脳を集め話し合われた。
だが会議は難航した……
沢山のアイディアは出るのだが、怪獣が強大すぎるために、どの対策も決定打に欠けた。
有効なアイディアが出ないまま、会議は数日にも及び、出席者たちに疲れが出始めた……
そんな時、若き天才から斬新なアイディアがもたらされた。
『ススキはどうだろうか?
ススキは古来より『魔除け』として信じられてきた。
ならば、もはや悪魔の化身である怪獣にも効果があるのではないか』
彼にとってヤケクソの提案だったが、思いのほか参加者たちには受け入れられた。
もちろん参加者たちは、怪獣に魔除けが聞くとは思ってなかった。
怪獣は怪獣なのだ。
だが彼らは疲れていた……
『早く会議から解放されたい』
その思いから、このアイディアは採用されることになる。
その後、ススキの研究に予算が割り当てられた。
政府も無駄だと思いながら、なにも言わなかった。
このアイディアを却下したところで、他にはこれといった対策もないからだ。
こうして、ダメ元でススキの研究が行われることになった。
遺伝子操作、呪術的な祈祷、あるいは呪い……
あらゆる実験を経て、ついに魔除けに特化したススキが生み出された。
それを見計らったかのように、怪獣襲来の一報が入る。
そこで、効果を試すため実証試験を行うことにした。
誰もが『無駄だろ』と思いつつもなにも言わない。
もはやヤケクソであった
上陸してくる怪獣を、ススキ畑に誘導。
怪獣がススキ畑に近ずく様子を、関係者は固唾をのんで見守っていた。
そして運命の瞬間、怪獣は何か見えない壁に阻まれるように、その足を止める
関係者が経過を見守る中、怪獣はなにも無かったかのように、ススキ畑に足を踏み入れた――
さて突然だが、ススキがなぜススキが『魔除け』と信じられたかを説明しよう。
ススキの葉っぱの縁は、のこぎり状になっていていて良く切れるようになっている。
人間も皮膚くらいなら簡単に切り裂くのだが、この切れ味によって悪いものが近づかないと信じられていた。
これが魔除けの由来だ。
話を戻そう。
この改良されたススキ。
魔除け効果もさることながら、人間の知らないうちに葉っぱのキレ味もかなりパワーアップしていた。
そこに足を踏み入れた怪獣は、いったいどうなるのか。
怪獣の厚い皮を簡単に切り裂かれ、怪獣は痛みで悶絶したのである。
激痛で怪獣は体制を崩し、体ごとススキ畑に突っ込っこみ……
お判りであろう。
怪獣の体はススキの葉で切り裂かれ、多くの血を流して死んでしまったのだ。
これには関係者もびっくり。
あまりにスプラッタな結末でひく者も多かったが、撃退は撃退。
改良型ススキの大量生産が決まり、そして配備することで怪獣撃退に大きな貢献をした。
こうして怪獣との長きにわたる戦いは終わり、ススキは名実ともに魔除けの草として語り継がれるのであった
俺は今、動かない宇宙船の中で死にそうになっていた。
昨日、宇宙船でドライブに出かけたのだが、不覚にもガス欠にしてしまったのである。
周囲には何も無い暗闇の空間、誰も助けに来ることはなく、ただ死を待つのみ――という事ではない。
宇宙船は動かないものの、予備電源で生命維持装置は動作している
食べ物だって沢山ある。
救助も宇宙嵐の影響とかで遅れているが、それまでは予備電源は余裕で持つだろう………
じゃあ何が俺に死をもたらすのか……
それは――退屈である。
俺は今、退屈で死にそうになっていた。
ドライブに出かける前、俺は宇宙船の中を掃除した
その時ゲーム類は出して掃除したのだが、中に戻すのを忘れてドライブに出てきたのだ。
という事でこの宇宙船には娯楽品が無い。
痛恨のミス!
過去の自分を殴ってやりたい。
さっきまで電灯のヒモでシャドーボクシングをしていたがそれも飽きた。
八時間続けた自分を褒めたいくらいだ。
星を数えるのも飽きた俺に、時間を潰す手段は残されていなかった。
もう何も考えたくない。
頭がどんどんカスミがかかり、思考が鈍っていく。
どうしようもない倦怠感を感じながら目を閉じる。
退屈が人を殺す。
比喩表現で聞いたことがあるが、本当に暇に殺されてしまうとは……
死の瀬戸際で脳裏に何かが浮かび上がって来た。
そうか、これが走馬灯――
ではなく、小さな妖精が煙草を吸っている様子だった。
「なんで?」
俺が思わず声に出すと、妖精が驚いたように俺を見返した。
俺たちは見つめ合い、沈黙が流れる
だがすぐに気を取り直し、俺は妖精に問いかける
「あんた誰?」
すると、妖精はバツが悪そうにタバコの火を消した。
ゆっくりと、その妖精らしからぬ苦い顔でこちらを見た。
「えー、ワイはお前さんの走馬灯の制作を担当するオオキや。
よろしくな」
妖精が意味不明なことを言い始めた。
まったく意味が分からないのだが、だけどなぜだろう……
娯楽に飢えていたのか、妖精の言葉は真実のように思えた
「よろしく……
えっと走馬灯の制作って言ったよね?」
「……言ったな」
「人間が死ぬ時見る走馬灯は、妖精が作ってるってこと?」
「……そうやな」
俺が質問するたびに、妖精の顔は険しくなっていく。
俺が聞きたいことが分かっているのだろう。
聞いてほしくないだろうが、俺は聞かなければいけない。
一呼吸おいて、俺は核心をつく質問をする。
「俺、今死にかけているよね。
それなら俺の頭に走馬灯が流れているはずだけど……
そんな気配が無いのはなぜ?」
「それは……」
「それは?」
妖精が目を逸らす。
そして不承不承といったふうに口を開く。
「――――んや」
「え?」
「作ってないんや!
お前さんの走馬灯、ワイが担当やが、作ってないんや!」
「ええー!?」
俺は驚きの声を上げる。
まさかとは思っていたが、本当に作ってないとは……
「しかたないやん!
ワイ、お前さんがこんなに若いうちに死にかけるとは思わなかったんや」
「だからサボっていたと?」
「悪いか!?
このご時世に死にかけるお前さんが悪い!」
こいつ開き直りやがった。
制作してないこいつが悪いのに、なぜこちらが怒られるのか……
理不尽である。
「という事は、俺は走馬灯を見ないまま死ぬの?」
「それは駄目や。
反省文なんて書きとうない!」
「そんなん知るか!」
こいつ、心臓に毛でも生えてんのか?
反省文なんて知るかよ
さらなる罵倒の言葉を叫ぼうとしたところで、妖精は俺に問いかけてきた
「物は相談やが……
死ぬのを止めにせんか?」
「そんなの出来るわけないだろ!
俺はここで死ぬんだ!」
「まあ、そう言わずに……
お前さんも若い。
やり残したこともあるだろう」
「まあ、それは……」
「なら決まりやな。
そんで、このことは内密に。
バレたら反省文書かされるからな」
と妖精は、爽やかな笑顔で笑う。
「まあ、いいけど。
でもどうするんだよ。
さっきも言ったけど、死ぬのを止めるのは出来ないぞ」
「安心せい。
そろそろ迎えが来るから」
「迎えってなんだ「大丈夫ですか」
◇
俺は呼びかけられた言葉にハッとする。
まるで夢の中から浮上する不快な感覚を感じながら、目を開けると知らない男性が俺の顔を覗き込むように見ていた。
なんでこの人俺の顔を覗き込んでいるの?
さっきの妖精はどこ行った?
というか今何時だ?
頭にたくさんの疑問が浮かぶ。
「大丈夫ですか?」
男の問いかけに、訳が分からないままゆっくりと頷く。
すると男は安心したように笑った。
「良かった、無事で!
酸欠で倒れてたんですよ」
酸欠?
そう言おうとして、口に何かが当てられている事に気づく。
これ酸素マスクだ。
「宇宙船の生命維持装置が故障していたようです。
それで酸素が薄くなって、意識を失ったようです」
俺はそこで自分に何が起こったかを理解した。
どうやら俺は暇ではなく、酸欠で死にかけていたらしい……
で、この男の人は、遭難した俺を助けに来てくれた救急隊員ということか。
どうやらさっきの妖精とのやり取りは夢――というか走馬灯だったようだ。
それにしてはやけにリアルだったような……
ダメだ、頭が回らない。
また瞼が重くなっていく。
けれど不安はない。
救急隊員が来てくれたのだ。
次に目を開けた時は、何もかもが解決している事だろう。
だが俺が目を閉じたその刹那、脳裏に反省文を書かされている妖精が浮かび、思わず目を開けるのであった