G14(3日に一度更新)

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8/29/2024, 3:01:30 PM

 新学期まであと数日、私は夏休みの宿題の処理に追われていた。
 親や友人から散々言われ、計画を建てて臨んだ今年の夏休み。
 けれど、事は計画通りに進むことは無く、夏休み終盤にも関わらず宿題の半分も終わってなかった。

 原因は分かっている。
 宿題の進捗が思わしくないのに、友人の沙都子の家に毎日遊びに行ったこと。
 でも後悔はしてない。
 だって楽しかったから。
 美味しいお菓子が出てくるんだよね。
 『宿題は後でも出来る』、『今はお菓子を堪能しよう』を合言葉に、未来の自分を信じて遊びに行った。

 けれど今朝、ついに宿題が終わってないことが親にばれた。
 今日ばかりは家から出さないと部屋に軟禁状態だ。
 過去の私よ、なんで頑張ってくれなかったのか。

 私は過去の自分を恨みながら、窮地を脱するため宿題と向き合っていた。
 けれど向き合うだけ……
 まったく分からん。
 何が分からないのかも分からん。
 何も手を付けられないまま時が流れる。

 こうなったら、最後の手段。
 漫画でも読むか
 どうせできないなら、楽しく一日を過ごそう。
 それに漫画を読んでいるうちに、何か思いつくかもしれない。
 そう思って近くにある漫画を取ろうとしたとき、お母さんが私を呼ぶ声がした。

「百合子、お友達よ」
 誰かと遊ぶ約束してたっけ?
 私は不思議に思いながらも、部屋を出る。
 けれどこの地獄のような時間から逃げられるなら誰でもいい。
 私は仮初の自由を感じながら玄関に向かうと、そこにはお母さんと楽しそうに談笑する沙都子の姿があった。
 なんで沙都子がここに?
 私が沙都子の突然の来訪に驚いていると、沙都子は悪そうな笑みを浮かべた。

「無様ね、百合子。
 だから夏休みの宿題は早く終わらせさいと言ったでしょう」
 私の顔を見るなり、嫌味を言う沙都子。
 わざわざ嫌味を言いに来たのだろうか?
 遊びに行けないことをメッセージで送った時は、『了解』の二文字しか返さなかったくせに。

「そうなのよ、百合子ったらあれだけ言ったのに宿題しなくってねえ。
 ほんと、誰に似たのかしら」
 沙都子の言葉に、お母さんが便乗する。
 そこは『そんなことないわ』じゃないの!?
 確かに宿題してないけど。
 言い返せないけど!

「何しに来たの?」
 私はお母さんを無視して沙都子に尋ねる。
 都合の悪い事は触れないのが吉だ。

「あら、遊びに来たのだけどダメだったかしら?
 いつもは百合子の方から来るけど、たまには私が来てもいいと思ったの」
 沙都子は意外そうな顔で私を見る。
 ちょっととぼけた顔なのに腹が立つ。
 
「そうじゃなくて、私連絡もらってないよ。
 そしたら抜け出して――違う、遊べないから断ったのにさ。
 分かったら帰って」
 一瞬お母さんから殺気が飛んできたので言い直す。
 沙都子と宿題、どっちの相手が楽かと言えば宿題の方だ。
 今の私に余裕はないから早く帰って欲しい。

 だが私の祈りは効き遂げられず、沙都子は『よく分からない』といった顔で私を見ていた。
 まさか粘る気か!?

「あら、遊びに行くのに連絡が必要なのかしら?」
「そうだよ!
 こっちにも事情ってものが――」
「でもあなたが遊びに来るときに、連絡を貰った事は無いわよ。
 まあ、来ない日のほうが少ないから、突然のアナタの来訪でも困ったことは無いけどね」
「うぐ」
 まさかのブーメラン!?
 沙都子め……
 やはり遊びに来たんじゃなくて、私で遊びに来たんだな。

「ああ、百合子が毎日遊びに行ってるの沙都子ちゃんの所だったのね。
 迷惑かけているでしょう?」
「もう慣れました」
 ウチの母が、沙都子をちゃん付けで呼ぶほど仲良くなってる……
 なんか嫌だなあ……
 これが嫉妬か。
 ていうか!

「私が迷惑をかけてる前提で話進めないで!」
「「かけているでしょ?」」
 二人のハモリが私の自尊心を傷つける。
 ここには私の味方はいないようだ。

「とーにーかーくー。
 私は宿題するんだからね。
 遊べないから!
 ほら帰って!」
「なら仕方がないわね。
 遊ぶのは中止ね」
 なんか思ったより、あっさり引き下がったな……
 これでようやく宿題に集中出来る。
 そう思っていると、沙都子は靴を脱いで家に上がって来た。

「沙都子ちゃん、申し訳ないけどお願いするわね」
「ご安心ください
 必ず成し遂げますわ」
「頼もしいわ。
 後でお菓子を持っていくわね」
「ありが――」
「待ったーーー!」

 私は二人の間に割って入る。
「ねえ、何の話?
 沙都子も帰るんだよね?」
「帰らないわよ」
「待って、意味が分からない」
「どうせ、宿題進んでないんでしょ?
 私が見てあげるわ」
「え?」
 シュクダイヲミテアゲル。
 何を言っているんだ、沙都子は……

「あら不満なの?
 嫌なのが顔に出ているわ」
「いやだよ、沙都子はスパルタだもん……」
「我がまま言っては駄目よ」
「嫌だ!
 私は一人で宿題する!
 誰にも邪魔はさせない!」
「待ちなさい百合子」
 お母さんが私の肩を力強く掴む。
 このまま有耶無耶にして部屋に戻ろうと思ったのに、肩を掴まれたら逃げられない。

「沙都子ちゃんと一緒に宿題しなさい。
 でないと……」
「でないと?」
「あなたの漫画コレクション、全部捨てるわ」
「そんな……」
「嫌なら、沙都子ちゃんと宿題しなさい。
 いいわね」
「…………はい」
 お母さんが肩から手を離すと、代わりに腕をとる人間がいた
 沙都子だった。

「さあ、バリバリ行くわよ!
 宿題が待ってるわ」
「あの、お手柔らかに……」
「弱音は許さないんだから」

 漫画を読むつもりだったのに、なんでこんなことに……
 こうして私は沙都子の突然の来訪によって、楽しい予定がキャンセルされるのであった……

8/28/2024, 1:47:02 PM

 俺の名前は、五条英雄。
 探偵だ。
 といっても、漫画のように難事件を解決するわけじゃない。
 専ら仕事は身辺調査やペット捜索をしている、地域密着型の探偵。
 それが俺。

 今日も浮気調査で、疑惑のある男を尾行していた。
 依頼人は男の妻、『浮気の証拠』が欲しいとの依頼だ。

 俺と助手は、カップルに偽装して浮気男を尾行する。
 助手の下手くそな演技にヒヤヒヤしたが、なんとか浮気相手の密会に立ち会うことが出来た。
 俺は浮気男たちに気づかれないようカメラで証拠を残していく。
 『成功報酬でトンカツが食える』。
 俺の心は、喜びにあふれていた……

 だが予想外の事が起こる。
 浮気男と浮気女が喧嘩し始めたのだ。
 そして浮気女がバッグを投げつけたかと思うと、そのまま走り去っていった。
 そして残された浮気男はというと、呆然として雨の中で佇んでいた……
 彼の心の中を表すように、雨が強くなり土砂降りである。

 ……なんでこうなった。
 『浮気現場をカメラで撮ってたら破局した』
 探偵歴は割と長いが、こんなん初めてだ。
 どうすんのコレ。

 妻は浮気を疑い、事実として夫は浮気していた。
 そこまではいい。
 だが今この瞬間、浮気は終わった。

 だが依頼人に報告すれば、この男は慰謝料をたんまり搾り取られることになる。
 まさに泣きっ面に蜂。
 悪いのはこの男なのに、なんだか追い打ちしているよう気分が悪い。
 どうすればいいんだ。

 そうだ、一緒に来た助手に相談しよう。
 そう思い振り返ると、助手はいい笑顔でこちらを見ていた。
 親指を立てて。
 『浮気男に天罰が下りましたね』と言わんばかりである。

 ……そうだね。
 女性から見たらそうなるね。
 浮気男なんて女の敵だし……

 だが俺は助手の顔を見たことで、覚悟が決まる。
 そう、浮気男は社会の敵なのだ。
 そして俺の依頼人は、そこに立っている男ではなく、奥さんのほう。
 ありのままを報告し、どうするかは依頼人が決めるべきだ。
 俺が勝手に決めていいことではない

 一応フラれた報告するために、雨に佇む男を写真で撮ってさあ帰ろうとなった時、、浮気男に近づく女性がいた。
 まさか二人目の浮気相手?
 驚いたが二人目がいるなら話は早い。
 これで依頼人に報告しても、心は痛まない。

 俺は手に持ったカメラで写真を撮ろうとして――
 しかし、その手が止まる。

 なんてこった。
 依頼人の奥さんじゃないか!?
 なんでこんなところに……

 俺が不思議に思っていると、俺たちのいる方をチラリ見て、そして口に人差し指を当てる
 なるほど、黙って見てろということか……
 よく分からんが、見守ろう。

 そのまま依頼人は、浮気男に近づき傘を差し出す。
 その時の男の驚きようは半端ではない。
 先ほどまで浮気していた現場に、自分の妻がやってきたのだから無理もない。

 浮気男は引きつった笑みを浮かべながら、受け取った傘を差す。
 遠くから見ても動揺しているのが丸わかりだった。
 依頼人の方はと言うと、恐いくらい優しい笑顔だった。

 俺は知っている。
 あの笑顔は、敵を破滅させることを決めた時する顔だ。
 この後、二人の間で話し合いが持たれるのだろう。
 どんな凄惨な話し合いが行われるのだろうか……
 想像したくもない。

 俺が恐怖に震えている間に、二人は去っていった
 浮気男よ、達者でな。

「依頼完了ですね」
 後ろから浮かれた助手の声がする。
 この場に似つかわしくない声だ。

「お前、何か知ってるな!」
「はい、依頼人の奥さんから、浮気相手と会う時になったら連絡をくれと言われてました」
「俺、聞いてないんだけど」
 マジで初耳なんですけど。
「聞かれてませんから」
「……ホウレンソウって知ってるか?」
 同じ女性と言うことで助手に対応させたのだが、失敗だったらしい
 後で説教だな。

「でも先生……
 先生は浮気なんてしないですよね」
「何の話だ?」
 急に話が変わって俺の頭にハテナが浮かぶ。
 なんで俺が浮気する話になっているんだ?

「私、この仕事始めてたくさん人の醜い部分を見てきました……
 お互い望んで一緒になったって言うのに、なぜ人は裏切るんでしょうか……
 先生は、私の事を見捨てたしませんよね?」
 助手の目が涙で潤む。
 不安でいっぱいの顔だ。
 ならば助手の安心させるために、男としてハッキリ言わねばなるまい。

「俺とお前、恋人関係じゃないよな。
 恋人ごっこ、まだ続ける気なのか?」
 この前食事奢ったときも似たようなことやられた。
 なんなの、コイツの中で流行ってんの?
 俺の苦言を聞くと、助手は呆れたようにため息をつく。

「はあ、先生もノリが悪いでですねえ。
 遊びなんだから、もう少しロマンチックなセリフ、言ってもいいんですよ」
「やだよ。
 どうせ飯を奢らせたいだけだろ」
「ソンナコトナイデスヨ」
「嘘つくのが下手糞すぎる」
 前もやったなこんなやり取り。

「こんな美人が頼んでいるんですよ。
 奢ってもバチは当たりませんよ」
「ならもう少しいい女になってから出直してこい」
「へえ、そんなこと言うんだ……」
 助手は、依頼人とはまた違った怖い笑顔になる。
 悪だくみを思いついた顔だ。
 コイツ、何をするつもりだ?

「ならなりましょう。
 今すぐに、いい女に」
「何言って――」
「『水も滴るいい女』。
 今丁度雨が降っているようですし、雨の中佇んだらいい絵になると思うんですよね」
「やめろバカ!」

 そんなことされてみろ。
 周囲から『あの男は彼女をびしょ濡れするクズ』だと思われるじゃないか!
 探偵業は評判が命なんだぞ。
 殺す気か。

「では、私をいい女と認めていただけますね」
「それは……
 分かったから飛び出す準備するな。
 くそ、お疲れ会として何か奢ってやる」
「やった!
 じゃあ、一時間後、いつものファミレスで!」
 そう言って助手は走り去っていった。
 偽装カップルで相合傘をするために一つしかない傘を持って……

「マジか」
 俺に濡れろと?
 この土砂降りで?

 さすがにそこまで考えてないと思うが、いくらなんでもそそっかしすぎる。
 助手が気付いて戻ってくることを祈りながら、雨を前に佇むのだった。

8/27/2024, 1:05:04 PM

 私の日記帳は、最新のAI搭載型である
 持っているだけで私の行動を記録・分析し、勝手に日記を書いてくれるスグレモノだ。
 これで夏休みの日記はバッチリだ。

 だが所詮はAI。
 たまには変なことを書くので、そのままは出すことは出来ない。
 そもそも日記の体裁を保っていない物や、日記だが事実と全然違ったりとか、書かれたりする。

 見る分には面白いけれど、こんなものを提出すれば怒られることは間違いない。
 なので使えそうな分は写して、駄目なところは適当に書くと言うのが、この日記帳の使い方なのだ。
 そんなわけで、新学期を明日に控え、日記を写す作業に勤しんでいた。

 とりあえず、パラパラページを捲っていく。
 7月は特に出かけていないので、これと言ったイベントは無い。
 テレビ見てたとか、マンガ読んでたとか、そんなのばっかり……
 だが問題なさそうなので、そのまま書き写す。

 だが7月31日の所で手が止まる。
 さすがに見過ごせないからだ。

『7月31日
 家族みんなでラーメンを食べに行った。
 とてもおいしかった』
 何の変哲もない夏休みの一日。
 だが問題なのは、絵の方。

 その日の絵には『鼻からラーメンを食べる』様子が書かれていた。
 ラーメンは鼻から食べる物じゃない事は小学生だって知ってる
 これだからAIは信用できない。
 私はのび太くんじゃないだぞ!

 そして次に目が留まったのは、8月13日。
 友達と一緒に肝試しに行った日だ。
 これにも、一つおかしい事が書いてある。

『8月13日
 友達と一緒に肝試し。
 めちゃくちゃ暗くて怖かった。
 あと、地縛霊に憑りつかれて大変だったです』

 馬鹿馬鹿しい。
 幽霊は非科学的。
 それに何か不幸な事があったわけでもない。
 これも書き直す。

 次。
『8月14日
 風邪をひいて熱が出て、ずっと部屋で寝てました』
 風邪をひいて寝込んだことが書かれていた。
 今まで忘れていたけど、確かに寝込んでいた……
 まさか本当に祟られたの!?

 ただ、私の記憶が正しければ、寝込んだのは一日だけ。
 それ以外に呪いみたいなのはなにも無い。
 私にとりついた悪霊はどうなったのだろう?

 私はページをめくり、8月15日の日記を読む。
『8月15日
 おじいちゃんの墓参りに行きました。
 おじいちゃん、天国でも元気でね』
 書かれているのはこれだけ。
 悪霊の事は何も触れていない。
 絵も墓の絵だけ……

 意味ありげに書いておいて、まさかのオチなし!?
 これだからAIは……あっ!
 よく見たら、絵の端っこの方に小さく、幽霊が連行されてどこかに行く様子が書かれていた。
 もしかしてお盆だから?
 うろいつていた所を、幽霊の警察?に捕まったのだろうか……

 謎が謎を呼ぶけど、面白かったので良しとする。
 これだから、日記帳を読むのを止められない。
 まあ、書き直すけど。

 そしてページをめくっていくが、他の所は特に問題なかった。
 今日の分を写して、これで宿題終了。
 これで心置きなく新学期を迎えられる――

 と思ったら、日記帳にもう一ページ書いてあった。
 今日の分はもう見終わった。
 と言うことは必然的に、明日の日記ということになる。
 まさかこのAI、私の行動を収集・分析し、次の日の私の行動を予測して書いていると言うのか!
 まさに未来日記。

 正直信じがたい話だ。
 未来なんて予測できるはずがないからだ。

 けれど、もし事故に遭った事が書かれていたら?
 事故を回避できるかもしれない。

 もし宝くじの番号が書いてあったら?
 私は大金持ちだ!

 私は好奇心を抑えられず、明日分の日記を読む。
 そこには書かれていたのは――

『登校日を間違えて先生に怒られた』

 私はとっさに登校日の書いてあるプリントと、カレンダーと見比べる……

 ……
 …………
 ………………

 私は衝撃の事実に膝から崩れ落ちる。
 登校日、今日だ……

 なんてこった。
 今から行ってももう遅い。
 今日は始業式だけで終わりだからだ。

 つまり、怒られるのは確定……
 未来が分かっているのに、回避できないなんて……
 私はがっくり肩を落とし、そのまま布団に入る。

 どうにもならない未来を前にして、私は夢の世界に逃げるのであった。

8/26/2024, 1:47:47 PM

 俺の名前は、五条英雄。
 私立探偵をやっている。

 俺の所には、他の探偵では解決できない難事件が持ち込まれる。
 それを解決するのが俺の仕事。
 鮮やかに解決する様子に、街は俺の噂で持ち切りだ。
 今日も、噂を聞いた依頼人に『あなたしかいない』と懇願された、家出猫の引き渡しを終えたところだ。

 喜んだ依頼人から依頼料をたくさん弾んでもらったので、今日は贅沢に外食することにした。
 ということで、今日は思い切ってファミレスで食べることにした。
 近くにあったファミレスに入り、俺は空いていたテーブル案内される。

 今日は何を食べようか?
 チャーハン?
 それともパスタ?
 いや奮発してステーキを……
 くそ、腹が空いているからどれもおいしそうに見える……
 俺がメニュー表とにらめっこしていた時、不意にテーブルを挟んだ向かい合わせのソファーに誰がが座る気配がした

「相席いいですか?」
 聞き覚えのある声に驚き、メニュー表から顔を上げる。
 テーブルを挟んで向かい合わせの席に座っていたのは、なんと我が探偵事務所で雇っている助手であった。
 今日の助手は休みのはずなのだが、なぜここに?
 湧いた疑問をよそに、助手は俺に笑いかける

「先生、食事をご一緒します」
 見惚れてしまいそうな美しい笑顔。
 こんなのを見せられたら、どんな男もイチコロだろう。
 だから、俺の助手の提案の答えは決まっていた。

「ダメだ、どっか行け」
 俺はハッキリと断る。
 残念だが、もう俺には助手の営業スマイルは効かんよ。
 それで何度こき使われたことか……

 それにだ。
 モノを食べる時はね。
 誰にも邪魔されず、自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ。
 独りで静かで豊かで……

 という訳で、俺は一人レストランで食事を楽しむのであった。
 
 完

「待ってください。
 私みたいな美人が食事のお誘いですよ!?
 なんで断るんですか!?」
「美人って自分で言うのかよ……
 まあいい。
 理由だが、俺は仕事とプライベートを分ける人間だから。
 以上だ」
「それは私もです」
「だったら声をかけてくんなよ」
「スイマセン、財布忘れてご飯が食べられないんです。
 ごはん代貸してください」
 助手が両手で拝むようにお願いしてくる。
 始めからそう言えばいいのに……

「全く……
 奢ってやるから、好きな物を頼め。
 依頼料が入って、金があるからな」
「やった。
 じゃあ期間限定パスタと鉄板焼きステーキ、サラダ、ドリンクバーに、えーとえーと、あ、デザートもいいですか?」
「奢りと分かった途端、急に調子に乗り始めたな」
「奢りですから。
 それでデザートは?」
「いいよ、頼むといいさ」

 俺と助手は、互いに遠慮が無い。
 気を許していると言えば聞こえはいいが、ただ単に扱いが雑なだけである。

 なんだかんだお互いが食べたいものを注文し、ホッと一息。
 ひと段落付いて何気なく正面を見ると、助手と目が合う。
 そして俺は気づいてしまった。


 『これ、実質デートじゃね?』と……


 油断していた。
 助手を追っ払えばよかった、マジで!

 言いたくはないが、俺は女性と付き合った事は無い。
 なのでこいう時どうすればいいか、なにも分からん。
 名探偵の俺でも、これだけはお手上げだ。
 どうすればいい?
 考えろ、俺!

「こうして向かい合って、ご飯を一緒に食べるのは初めてですね」
 頭を高速回転をさせていると、助手が話を振って来た。
 これ幸いにと俺は話に乗っかる。
 意識していることがバレないよう、話を合わることにする

「そうだな。
 結構長い事一緒にいるが、こうして店で一緒に食べるのは初めてだ」
 俺と助手は昼飯のスタイルが違う。
 俺は事務所で簡単な料理を作るかコンビニ弁当。
 助手は近所の食べ物屋で食事。
 中で食べる派と外で食べる派で平行線。
 今日は珍しく交わったが、今後は無いだろうし、合わせる気もない。
 俺はそう思っていたのだが……

「あの、先生……」
 助手の歯切れが急に悪くなる。
 何事かと助手の顔を見れば、頬も赤く染まっている。
 体もモジモジしているし、まさかこれは……

「あの、また食べに来ませんか?」
 やはり次のデートのお誘い!
 まさかのモテキ到来に動揺するが、ここで答えを間違えてはいけない。
 うかつな発言は火傷するだけ……
 俺はゆっくりと自分の気持ちを伝える。
 
「俺は嫌だ。
 なんか副音声で『奢れ』って聞こえたから」
「ソンナコトナイデスヨ」
「お前、探偵舐めんな。
 そんくらい分かるわ」

 焦ったのか、いきなりぶっこんで来たから、逆に冷静になったわ。
 だが、ジワリ来られたらどうなったか分からない。
 正直助かった……
 助手が「くっそー」と悔しがっていると、店員が料理を持ってやってきた。

「お待たせしました。
 ご注文の品です」
 テーブルの上に料理が並べられる。
 なお、テーブル上の料理の8割は助手の物だ。
 ……頼み過ぎである。

「「いただきます」」
 俺たちは目の前の料理に手を付ける。
 目の前のたくさんの料理を前にして、目を輝かせる助手。
 今までの色っぽい雰囲気はどこへやら。
 女は魔物って本当だったんだな
 だがまあ……

「おいしー」
 おいしそうに食べる助手の顔を見たら、俺も嬉しくなってしまう。
 男もまた、単純と言うのは本当らしい。
 自分のバカさ加減に呆れる。

 だが、助手と食事はなかなか楽しい。
 今度食事に誘うのもいいかもしれない。
 そう思う、俺なのであった。

 ――ただし、次は奢らないがな

8/25/2024, 1:24:25 PM

「ねえ沙都子、いい機会だから前から言うね?
 思い付きで行動するのは、ほどほどにしたほうがいいよ」
「奇遇ね、百合子。
 私もちょうどその事で反省していたところよ……」

 私は今、クルーザーの甲板に椅子並べて海を見ていた。
 隣に座っているのは、友人の沙都子。
 このクルーザーの持ち主兼船長である。
 沙都子はお金持ちの家の娘なのだ。

 私は、クルーザーに乗って仲のいい友人と一緒に海を眺めておしゃべりする事に、少しだけ憧れていたりする。
 だってエモいじゃん。
 昔映画かドラマで見て、そのころから夢だったんだよね。

 なのだけど、私の気持ちはどんより沈んでいた
 夢が叶ったと言うのに、全然嬉しくなかった
 本当に、夢のままだったらよかったのに。

「本当にごめんなさい、百合子。
 私のミスで……」
「いいからいいから。
 ほらジュース飲もうよ」
「……ええ」

 沙都子は心底申し訳なさそうに謝って来る。
 私はそんな沙都子を励まそうと、無理矢理テンション高めで話す。
 けれど、逆効果なのか沙都子はさらに落ち込んでしまう。

 それも仕方ないことなのかもしれない。
 私たちは今、海で遭難しているのだから

 ■

 事の発端は、私が『海へ行きたい』と言った事から始まる。
 未だに強い日差しに対するただの愚痴だったのだが、それを聞いた沙都子が自分も行きたくなったらしい。
 お金持ちの沙都子は加減を知らないらしく、お金と人員を駆使して、私が言い出した30分後には港に来ていた。
 住んでいるところは海から結構遠いんだけど、ヘリを飛ばしたり車で秘密の地下通路を通ったりしてあっという間に海に着いた。
 お金持ちって怖い。
 海に行くのはいいけれど、もう少し落ち着いて行動できないだろうか……

 ちなみに私は有無を言わされず連れてこられた。
 確かに「海行きたい」っていったけどさ。
 一度は確認を取って欲しかった
 まあいいけど。

 そして海に着いた私たちは、沙都子の案内されクルーザーに乗り込む。
 てっきり海水浴をすると思っいた私は肩透かしを食らったけど、初めてクルーザーに乗ると言うことで、私はこれ以上なくウキウキしていた。
 そして沙都子の護衛用の船の準備に時間がかかると言うことで、私たちが先に出ることになった。

 そこまでは良かった。

 陸地が小さな点になった所まで出たところで、急にクルーザーのエンジンがストップ。
 慌てて原因を調べたところ、原因はただの燃料切れ。
 沙都子が急いで海に出たがるあまり、出航前の点検を怠ったためらしい。
 予備の燃料も無いから、護衛が来るまで待っていよう。
 そう言って周囲を見渡せばさっきまで辺り一面海しかなく、私たちは遭難したことに気づいたのだった。

「ごめんなさいね。
 海に来てはしゃぎ過ぎたみたい。
 燃料の確認をしておけば良かったわ」
「ホントホント。
 本当に、海はノリだけで行動するもんじゃないね」

 私は努めて明るい調子で話す。
 本心では沙都子に言いたい事があるがぐっと抑える。
 たしかに遭難は沙都子のミスである。
 けど、文句を言っても何も解決しない。

 だから、せめて最後の時まで、仲良く楽しくいよう。
 そう思って、気分だけでも盛り上げようと、明るく振舞っているのだけど上手くいかない。
 私がやるせない気持ちでいると、なにかを思い出した沙都子が手を叩いた。

「そうだ!
 今思い出したんだけど、私スマホ持っていたわ。
 これで助けを求めればいいのよ」
「そりゃ凄い!
 ……で、電波入る?」
「……入らない」
「だろうね」
 遭難したことに気づいた私が真っ先に確認したことだ。
 というか真っ先に思いつくことだと思うけど……
 沙都子も相当混乱しているようだ。

「意味ないじゃんか!
 ああー、私の人生がこんなところで終わるなんて!
 せめて船の通信機が動けば」
「それよ!」
「え?」
 沙都子が急に大声を出して立ち上がる。

「どうしたの?」
「船の通信機で助けを呼べばいいの」
「……はい?」
 助けが呼べないから困っていると言うのに、沙都子はいったい何を言っているのか……
 追い詰められて、沙都子はおかしくなったのだろうか?

「どういうこと……?
 あ、もしかして遭難したって嘘!?」
「エンジンが止まったのは本当よ。
 遭難したのも本当。
 ただ……」
「ただ?」
「ただ普通にクルーザーの通信機で助け呼べばよかったなって……」
 私は自分の耳を疑う。
 通信機?
 それ、真っ先に使うべき機器じゃんか!

「最初に言ってよ!
 メチャクチャ焦ったじゃんか!」
「私も焦って忘れてたのよ。
 今から連絡するから」

 沙都子は急いで操縦室に入っていき、機械を操作し始めた。
 しばらくガラス越しに見ていていたが、連絡がついたのか、沙都子は私に向かって手で大きな丸を作る。

 それを見て私は、ホッとして椅子に深く腰掛ける。
 良かった。
 本当に良かった。
 助かったのはいいけれど、沙都子も慌て過ぎである。

 それにしてもと思う。
 クルーザーに乗らなければこんなトラブルに巻き込まれなかっただろう。
 文句を言ってやろうとも思ったが、遭難するまでは楽しかったのも事実。
 どうしたものかと悩んでいると、沙都子が私のそばまで寄って来る。

「私たちの船のGPSはずっと把握してて、護衛がこっちに来てるらしいわ。
 これで安心ね」
 満面の笑みで報告してくる沙都子。
 それを見て私は、考えを改める
 そうだよ、助かったんだから別にいいじゃないか。
 終わりよければすべてよし、である。
 私はやるせない思いを抱えながら、自分に言い聞かせるのだった。

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