私は夏休みを利用して、おばあちゃんの家に来ていた。
お婆ちゃん家で一週間くらいいたけど、ずっと天気が悪くて、部屋で〇NE PIECEのアニメを見ることになった。
お婆ちゃんが〇NE PIECEが大好きで、一緒に見ようって言われたからだ。
まさか一週間丸々〇NE PIECEを見ることになるとは思わなかったけど……
当分は〇NE PIECEはいいや。
そして明日帰る事になった日の事。
帰る準備をしていると、おばあちゃんの部屋に呼ばれた。
「カスミ、こっちおいで」
「どうしたの、お婆ちゃん」
お婆ちゃんに呼ばれて私は、ベットのそばの椅子に座る。
いつも優しく微笑んでいるお婆ちゃんだけど、なぜか真剣な顔をしていた。
何かあったのかな?
「お婆ちゃんはね、カスミにお別れしなきゃいけないの……」
「私が家に帰るのは明日よ。
今日じゃないわ」
「違うのよ、カスミ……
お婆ちゃん、もうすぐこの世界いなくなるの……」
「いやだわ、お婆ちゃん。
まるで死ぬみたいなこと言わないで」
「本当よ、お医者さんから『余命一カ月』て言われたの」
「そんな……」
私は、お婆ちゃんの言うことが信じられなかった。
知らなかったけど、お婆ちゃんは病気だったらしい。
昨日、一緒に〇NE PIECEの歌を歌った時には元気だったのに……
全然気づかなかった。
「でもね、さよならを言う前に、カスミに伝えたいことがあるの」
「伝えたい事?」
「皆に秘密に出来る?」
「うん」
「偉い子ね」
おばあちゃんは私の頭を撫でる。
撫でられるのは好きだけど、もう撫でてもらえなくなるのは寂しい。
「……実はね、おばあちゃんは昔海賊だったの」
「知ってる」
「あら、言ったことあったかしら」
お婆ちゃんは、『若い頃は海賊だった』が口癖だ。
最初は信じてたけど、本当に海賊なわけじゃない。
お婆ちゃんは〇NE PIECEが好きすぎて、海賊になり切っているだけなのだ。
ボケてるわけじゃなくて、そういう遊びなんだと、お父さんが言っていた。
「船に乗って、いろんな国に行った事が懐かしいわ……
それでね、お婆ちゃんが海賊だったころに集めた財宝があるの」
「そんなのあるの!?」
「この財宝をカスミにあげるわ」
「ありがとう!」
どうやらお婆ちゃんは本当に海賊だったらしい。
そうじゃなきゃ財宝なんて持ってない。
「財宝の事知りたい?」
「うん!」
「フフフ」
「お婆ちゃん?」
私の答えに、お婆ちゃんは不敵に笑う。
私何か変なこと言った?
不思議に思っていると、お婆ちゃんはスマホを持って何か操作し始めた。
そしてお婆ちゃんのスマホから流れる音楽。
こ、これは!
「財宝か?
欲しけりゃくれてやる。
探せ!
この世のすべてをそこへ置いてきた!!」
このセリフ!
この音楽!
私知ってる!
これ、昨日一緒に歌った〇NE PIECEの歌だ
「「ありったーけのー夢をー かきあつめー♪
探し物 探しに行ーくーのーさー♪
〇NE PIECE♪」」
♪ ♬ ♪
「カスミ、お婆ちゃんどうだった?」
「あ、お父さん。
お婆ちゃん、歌うだけ歌って寝ちゃったわ」
「歌?」
「うん、〇NE PIECEの歌。
一緒に歌ったの」
「そうかい。
おばあちゃん、〇NE PIECEが好きだからなあ」
ははは、と言って笑うお父さん。
多分、その光景が簡単に想像できたからだろう。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
「お婆ちゃんが余命一カ月って本当?」
「お婆ちゃんから聞いたのかい?
確かにお医者さんに言われたけど、よく調べたら間違いだったんだ。
お婆ちゃんも知っているから、多分からかわれたんだね」
「本当に!?
じゃあ、お婆ちゃん死なない?」
「死なないよ。
それどころか、〇NE PIECEが終わるまで絶対に死なないって言ってた」
「お婆ちゃんらしいね」
私は冗談だと分かって少し安心する。
〇NE PIECEは終わりそうにないから、大丈夫そうだ
「それはそうと、お小遣い貰ったかい?」
「うん、財宝だって言われてもらった」
世界中いろんな所に行ったって言うのは本当らしい。
色んな国のお金を貰った。
日本じゃ使えないけど、綺麗だから取っておこうと思う
「お礼は言った?」
「あ、言いそびれた」
「ダメだよカスミ。
家に帰る前にちゃんとお礼言うんだよ。
さよならを言う前にね」
その日、ハッキリしない空模様だった。
普段はハキハキしている彼だが、今日ばかりは違った。
自身の二股がバレたからである。
二股の相手は『晴れ』と『雨』。
二人をキープしたい空模様は、今までは「本当に大切なのは君だけ」とデートを重ねていた
慎重に逢瀬を重ねていたのだが、ついに先日バレてしまう。
そして『晴れ』と『雨』、両方から迫られる。
「どっちを選ぶの?」と……
空模様は悩んだ。
どちらも、彼にとって魅力的だからだ。
カラッとして明るい性格の『晴れ』。
熱血で、元気いっぱいの子である。
クールビューティの『雨』。
物静かで、慈しみ深い性格だ。
二人はお互いに正反対の性格をしているが、それゆえに反りが合わない。
出会えは喧嘩ばかりしており、空模様もそれを知っていたからこそ、隠していたのだ。
だがバレてしまった以上決めなければいけない。
しかしどちらにもいい顔をしたい空模様は、このままハッキリしない空模様でウヤムヤにするつもりだった。
だがそうもいかなくなった
猛暑で苦しんでいる人間から、「ハッキリしない君でいて」と懇願されてしまったのだ。
もしこのままハッキリしない空模様でいれば、人間のお願いを聞いたように見えるだろう。
そして『晴れ』と『雨』から、「私たちより人間を取るのね」と誤解され、両者とも失ってしまうことになる。
恋人を失うのを避けたい空模様は、すぐに決断しなければならなかった。
どうやれば、二人を手に入れられるのかと……
空模様は悩み、悩み抜いて、妙案を思いつく。
そして空模様が出した答えとは――
「ここは一つ、お天気雨でいかない?」
■
「うわっ、凄い音!
事故かな?」
「違うよ。
特大の雷が落ちただけさ」
とある国に『真実を映す魔法の鏡』がありました。
この鏡に質問すると、どんなことでも真実を映し出すというのです。
国民たちは『真実』を知ろうと、こぞってこの鏡の毎日やってきて質問しました。
しかし映し出す真実は、質問するものにとって必ずしも都合のいい物ではなく、時にトラブルに発展することもありました。
それでも人々の欲求は留まるところを知らず、毎日人が押し寄せました。
ある日の事、この国のお妃さまが鏡の元にやってきました。
彼女はたいそう美しく、自分の美貌に絶対の自信がありました。
彼女は自分の美しさが世界一だと証明するべく、鏡に質問します。
「鏡よ鏡よ鏡さん。
世界で一番美しいのはだあれ」
「それは白雪姫です」
鏡は答えます。
なんということでしょう。
お妃さまの美しさは、鏡によって否定されてしまいました。
ですがお妃さまは特に気にした様子もなく、逆に不敵な笑みを浮かべます。
「ふっ、外れよ。
所詮は鏡ね」
「はあ!?」
先ほどまでの丁寧な口調とは変わり、鏡は心外そうに声を荒げます。
鏡は自分の判断に絶対の自信を持っていました。
なのでお妃さまの『外れ』という発言は、彼の名誉をとても傷付けたのです。
「お妃様、それは侮辱というもの。
私は真実を映す鏡。
偽りなど映しません」
「ならばそれが鏡の限界よ」
鏡の抗議に対しても、お妃さまは鼻で笑います。
こうなると鏡は意地になり、喧嘩腰で聞き返しました。
「ではお聞きしましょう
誰が世界一とお考えで?」
「決まっているじゃない。
私よ」
「お妃さま、現実逃避はいけません。
私が映し出すのは真実。
認めるのです」
「いいえ、私が一番美しいのよ!
おーっほっほっほ」
突然目の前で笑い始めたお妃さまに、鏡は動揺します。
いままでいろんな人間が鏡の元へやって、答えを聞いてから態度が変わることは何度も見てきました……
しかし目の前のお妃さまのように、ここまで豹変するのは初めてでした。
「お妃さま、ご乱心ですか!?
深呼吸してください」
「鏡よ鏡よ鏡さん。
気にする必要はないわ。
もうすぐその真実を映す鏡に、きっと私が映るだろうから」
「何を言って――まさか!?
白雪姫を殺すつもりですか!?
早く知らせないと」
「もう遅いわ。
既に刺客は送ったの。
後は報告を聞くだけよ」
「馬鹿な……」
「ふふふ、結果が待ち遠しいわ。
早く私が世界一にならないかしら……」
「それは無理ね。
失敗したもの」
「何奴!?」
お妃さまが振り返ると、そこにはたいそう美しい少女が立っていました。
白雪姫でした。
「貴様は白雪姫!
なぜここに」
「全て、刺客の彼から聞きました」
「ふん、買収したか」
「いいえ、彼が自分から話してくれたのです」
「……やつにも人の心があったと言う事か」
お妃さまは苦虫をつぶしたような顔をします。
当然です。
計画が全て水泡に帰したのですから。
白雪姫は、そんなお妃さまに手を差し伸べます。
「もうやめましょう、お母様。
これ以上は無意味です」
「ええい、白雪姫!
私を母と呼ぶな」
「いたっ」
白雪姫は、お妃さまの手を取ろうとして、しかし手を振り払われます。
白雪姫は悲しそうな顔をしますが一瞬の事、すぐに決意をにじませる表情になります。
「全て聞いたのです、お母さま・
全てを、です。
お母さまが、政敵から私を守るため、私を信頼できる家に預けた事。
しかし、真実の鏡によって、私の存在が明るみに出てまった。
そこで、私の死を偽装することで、再び私を守ろうとしてくれたのですね」
「ええい、黙れ黙れ黙れ。
そんな事何一つとして真実ではない。
命乞いしても無駄よ」
「お母さま、もういいのです。
私は、白雪姫は、もう守られるだけの存在ではないのです」
「白雪姫……」
「こう見えても私、格闘技をたしなんでおりますの。
逆にお母さまの身を守って差し上げますわ」
白雪姫は、もう一度お妃さまの手を取ります。
お妃さまは、今度は手を振り払う事はしませんでした。
「白雪姫、こんなに立派になって……
まだ子供だと思てちたけど、しばらく会わないうちに、大きく……」
「お母さま、泣かない下さい。
そのお綺麗な顔が台無しですわ」
「ふふふ、そうね。
娘が会いに来たもの、笑わないとね」
「そうです。
お母さまは、笑った顔が一番です!」
険悪だったムードもは、そこにない。
二人の和やかな雰囲気で、見た誰もが自然と笑顔になる光景だった。
それは鏡ですら例外ではなかった。
「なるほど……
たしかに私が間違っていたようですね……」
その様子を見ていた鏡が、感慨深そうに独り言を言います。
「世界で一番美しい物……
それは親子の絆!」
そう呟くと、鏡に映っていた白雪姫の姿が消え、今度はお妃さまと白雪姫が手を繋いだ姿が映し出されます。
「お妃さまの言う通りでした。
私は、思いあがっておりました。
今までの無礼な態度をお許しください」
「許しましょう、鏡よ。
自分の間違いを認めるあなたは、何より美しい」
「ありがとうございます」
こうして、白雪姫を巡る一連の騒動は終わり、王国にはまた平和が訪れ――
「それはそうとして、鏡さん。
あなたを割らせていただきます」
「へ?」
「もともとの発端は、隠していた白雪姫の姿を、あなたが映したからよ」
「え、でも、私嘘は付けませんし……
仲直り出来ましたし……」
「それ以外の理由もあります。
あなたが無節操に真実を映すものだから、国民の間でトラブルがたくさん起こったわ」
「それは私のせいでは……」
「いいえ、隠しているというのは、それなりの理由があるもの……
それを考慮せず、誰もかれもに真実を暴き出し、この国を混乱させた罪は重い!」
「ひ、ひええ、お助け」
「ごめんなさいね。
私たちにはまだ、『真実』は扱いきれないの」
こうして世を乱す『真実を映す魔法の鏡』は割られました。
そしてこの国に、真の平和が訪れたのでした。
めでたしめでたし。
私にはずっと捨てられないものがある。
それは小さい頃に、ゴミ捨て場から拾った市松人形(呪い付き)。
小さい頃なのでぼんやりとしか覚えてないのだが、ゴミ捨て場でビビビと電流が走り拾った。
私はその人形をイチコと名付け、ずっと可愛がっている。
だけどお母さんはイチコの事が嫌いらしい。
不気味だから捨てろとしつこく言われ、お小遣いを減らすと脅されたこともある。
そして業を煮やしたお母さんに勝手に捨てられ、親子喧嘩に発展したこともある。
もっともイチコは賢いのでちゃんと私の部屋に帰って来るけれど。
確かにイチコは、この世のすべてを憎むような目つきをしているし、髪はずっと伸び続けるし、周りはなぜか涼しいし、勝手に動くこともあるけど、それが何だと言うのだろうか?
呪い付きとはいえ、とくに害があるわけじゃない。
なんならこの猛暑でも涼しくエアコン知らず。
SDGsなのだ。
だけど、私は断捨離をする事態にまで追い込まれてしまった。
イチコを――ではない。
イチコの拾ってきた、よく分からない物をだ
さっきも言ったように、イチコはお母さんに何度も捨てられたことがある。
その度に帰って来るんだけど、その際何かよく分からない物を拾ってくるのだ。
髪の毛、汚れたぬいぐるみ、壊れた玩具、使い古しのノート……
ゴミばかりである。
それだけなら捨てればいい話なのだが、イチコが善意で持って来たのが分かってしまったので、捨てるに捨てれなかった。
特に髪の毛に関しては私の『髪の毛染めたい』という独り言が発端なので、怒るに怒れない。
とはいえ、染めたいのは自分の髪であって、他人の髪ではないんだけど……
ともかくイチコが捨てられるたびに私の部屋に物が増え、どんどんスペースが無くなり、今や布団を敷くスペースしかない。
これを重く見たお母さんがついに特大の雷が落とし、私は部屋の大掃除を迫られたのである。
「髪の毛はゴミ、紙の切れ端はゴミ、壊れた玩具はゴミ――じゃなくて保留、ネットで売れるかも。
髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ――」
髪の毛をどんどんゴミ袋に詰めていく。
私が髪の毛をゴミ袋に詰めるたびに、イチコの顔が険しくなっていく――気がする。
私はイチコに謝りたい気持ちを押さえつけ、心を鬼にして仕分けする。
「髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、藁人形は……
イチコ、藁人形は持ち主の人が困っているだろうから、後で返してきなさい。
髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、セミの抜け殻はゴミ、髪の毛はゴミ――
ん、これは……」
無心でゴミを詰めていくと、なにか奇妙な手触りを感じた。
不思議に思ってよく見てみると、それはボロボロになったミサンガ。
真っ黒で所々ほつれており、明らかにゴミだ。
「これはゴミ……ゴミ……」
けれど何かが心の中で引っかかり、ゴミを捨てる手が止まる。
このミサンガ、どこかで見た覚えがある。
だけど、どれだけ思い出そうとしても何も思い出せない。
やっぱりゴミなのだろうか?
そうだ、イチコなら知っているだろうか?
私はイチコの方をチラリと見る。
イチコは驚愕で目が見開いて――いてはなかったが、『信じられない』と言った顔つきだった。
そして私は思い出す。
ゴミ捨て場で最初に会ったとき、イチコは『信じられない』と言った顔つきだった……
なぜそんな表情をしていたかは知らない。
誰か大切な人に裏切られたからかもしれない。
私は、そんなイチコを可哀そうだと思い拾い上げた。
そして私の妹になって最初にプレゼントした物が――
「思い出した……」
これはゴミなんかじゃない。
これはイチコとの友情の証。
捨ててはいけないものだ。
「これはイチコの物」
ミサンガをイチコの腕に付ける。
イチコは嬉しそうに笑った――気がした。
私もそんなイチコを見て、自然と笑顔になる。
「そうだ、新しいミサンガ作ってあげる」
私は押し入れから裁縫セットを取り出して、ミサンガの制作に取り掛かる。
「よーし、張り切っちゃうぞー」
私はいろんな色の糸でミサンガを作っては、付けてイチコの反応を見る。
ここに、何度目か分からないイチコのファッションショーが開催された
イチコはなにも言わないけれど、表情は読める。
久しぶりのショーに、イチコはノリノリだ。
私は掃除そっちのけで、イチコと楽しく遊ぶのだった。
なお、サボっているところを見つかり、それに怒ったお母さんがイチコを捨て、そしてイチコが新しいゴミを拾って戻ってくるのは、また別の話である。
ここはドコカ王国。
世界のどこかにある国である。
この王国に、一人の青年がいた。
彼の名前は、レオン=ギルバード。
彼は、夢と誇らしさを胸に秘める若者である。
彼は国立アカデミーを首席で卒業後、彼は軍への入隊を決める。
彼の希望の配属は第三タスマリン小隊。
王国の中でも選りすぐりのエリートが集まり、国家を支ええる精鋭部隊である。
彼は自分の才能を生かし、自分も王国を支えていきたいと言う使命感から、この部隊の配属を希望したのだ。
そしてレオンは、兵舎の扉を開け、敬礼の姿勢を取り大声であいさつする
「レオン=ギルバード、今日から配属になりました。
よろしくお願いします」
だがそこでレオンは、信じられないものを見た。
兵舎はの中は、ゴミだらけ。
兵士も昼間から酒を飲んでいて、中には酔いつぶれて寝ている者もいた。
レオンは場所を間違えたかもしれないと扉を閉めようとする。
だが、それは奥にいた一人の男によって遮られた。
「おお、来たか新入り!
俺が隊長のハヤト=アオムラだ。
こっち来て座れ」
レオンは、信じられない思いをしつつ、ハヤトの方へと向かう。
これが何かの間違いであればと思いながら、レオンは椅子に座る。
「新入り、我が第三タスマリン小隊にようこそ。
歓迎するよ」
「ありがとうございます」
「聞いたんだが、お前はアカデミーを首席で卒業したそうだな。
しかも飛び級だそうじゃないか。
なのにウチの部隊を希望したって本当か?」
「はい。
この部隊は国中の精鋭が集まって、国を支えていると聞いたんですけど――
支えている……んですよね……?」
「おいおい、どこでそんなの聞いたんだよ……
軍の中でも落ちこぼれが集まる部隊。
任務内容は、誰でも出来る街の美化活動さ」
「この兵舎は汚ねえがな」と隊長は付け加える。
レオンは、衝撃の事実に開いた口が塞がらなかった。
胸に抱いていた夢と誇らしさがガラガラと崩れ落ちていく。
抜け殻と言っていいほどレオンは落ち込んでいたが、ハヤトは気にせずにそのまま話を続けた。
「大方噂に尾ひれがついたんだな。
確かに美化活動は国を支える大事な仕事だ。
けど、ウチはお前の思っているような仕事はしないぞ」
「そんな……」
「しかしだ、優秀なアンタをここで腐らせるのは惜しい。
どうしても言うなら、他の部隊に行けるよう口利きしてもいい。
落ちこぼれでも、そのくらいのコネはある」
ハヤトはポンと、レオンの肩を叩く。
「さっきも言ったように、美化活動も大事な仕事だ。
ここでしばらく働いて、どうするかゆっくり決めるといい。
だが顔色が悪いから、今日の所は帰れ。
家でゆっくり考えるんだな」
■
「お疲れさまでした」
「ああ、気を付けて帰れよ。
無理そうなら明日も休んでいいから」
「はい」
ハヤトは、フラフラと歩くレオンを見送る。
結局のところ、レオンは早退することになった。
始めは使命感から残ると言っていたが、ハヤトが隊長命令で無理矢理返すことにしたのだ。
今の彼には誇り高き仕事ではなく、ただ時間だけが必要だと、ハヤトは信じていた。
そんな二人を見ながら、兵舎にいた面々はハヤトに聞かれないよう、小さな声で話し始めた。
「あの新入りは大丈夫なのか?
ここにきて体調崩す奴はごまんといたが、その中でも一番だぞ」
「あの様子じゃ、明日どころか、明後日も出てこないかもしれないな」
「仕方ない。
カッコいい仕事を夢見ていたら、こんな汚い場所だもんな」
「気の毒に。
せめて優しくしてやろう」
「お喋りはそこまでだ」
雑談している部下たちをハヤトが一喝する。
彼らは一瞬のうちに雑談を辞め、姿勢を正してハヤトに注目した。
その洗練された動きは、落ちこぼれの物ではなく精鋭たちの動きであった。
寝ていた兵士も、いつの間にか起きて姿勢を正している。
先ほどまで酒盛りをしていた浮ついた空気はどこにもなかった。
ハヤトは、部下たちの準備が出来たことを確認して、机の上に紙束を置く。
その紙束には、子供の似顔絵と簡単な情報が書かれていた。
「これが今回のターゲットだ」
「うへえ、今回もターゲットがいっぱい」
「王国中の子供がターゲットだからな。
大変だろうが、王国を支えるための大事な仕事だ」
ハヤトは部下たちを見渡して、はっきりゆっくりと話し始める。
「いいか。
この任務はターゲットの情報を調べ上げる事。
もちろん、誰にも悟られず、痕跡も残さないように。
それと――」
「それと、良い子かどうか調べろって言うんでしょ」
「子供に何をプレゼントしたらいいかもな……
何回も言うから覚えちまったよ」
「なら問題ない」
おわかりだろうか?
第三タスマリン小隊の、美化活動が任務の落ちこぼれ部隊は仮の姿。
彼らの本当の姿は、国の良い子たちの元に、プレゼントを届ける伝説のサンタクロース部隊なのである。
「質問はあるか?」
「あの新人を仲間外れにするのはなぜだ?」
「今年のターゲットの中に、新入りの名前があるからだ。
アイツ、飛び級したから若いんだよ……
奴には悪いが、クリスマスまで悟らせるなよ」
「それまでに悪い子になったり、辞めたりしなきゃいいけれど……」
「うまく口車に乗せるさ。
他に質問は?」
ハヤトは目線で質問を募るが、誰も声を上げる者はいなかった。
「よろしい。
では第『三タ』スマリン小隊改め、サンタ小隊、作戦名『赤服大作戦』。
行動を開始しろ」
「「「了解」」」
こうして、小隊の面々は町に散っていく。
彼らの任務は、子供たちに笑顔を届ける事
各々が胸に誇らしさを抱きながら、彼らは任務に励むのだった。