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 ここはドコカ王国。
 世界のどこかにある国である。

 この王国に、一人の青年がいた。
 彼の名前は、レオン=ギルバード。
 彼は、夢と誇らしさを胸に秘める若者である。

 彼は国立アカデミーを首席で卒業後、彼は軍への入隊を決める。
 彼の希望の配属は第三タスマリン小隊。
 王国の中でも選りすぐりのエリートが集まり、国家を支ええる精鋭部隊である。
 彼は自分の才能を生かし、自分も王国を支えていきたいと言う使命感から、この部隊の配属を希望したのだ。

 そしてレオンは、兵舎の扉を開け、敬礼の姿勢を取り大声であいさつする
「レオン=ギルバード、今日から配属になりました。
 よろしくお願いします」

 だがそこでレオンは、信じられないものを見た。
 兵舎はの中は、ゴミだらけ。
 兵士も昼間から酒を飲んでいて、中には酔いつぶれて寝ている者もいた。

 レオンは場所を間違えたかもしれないと扉を閉めようとする。
 だが、それは奥にいた一人の男によって遮られた。

「おお、来たか新入り!
 俺が隊長のハヤト=アオムラだ。
 こっち来て座れ」
 レオンは、信じられない思いをしつつ、ハヤトの方へと向かう。
 これが何かの間違いであればと思いながら、レオンは椅子に座る。

「新入り、我が第三タスマリン小隊にようこそ。
 歓迎するよ」
「ありがとうございます」
「聞いたんだが、お前はアカデミーを首席で卒業したそうだな。
 しかも飛び級だそうじゃないか。
 なのにウチの部隊を希望したって本当か?」
「はい。
 この部隊は国中の精鋭が集まって、国を支えていると聞いたんですけど――
 支えている……んですよね……?」
「おいおい、どこでそんなの聞いたんだよ……
 軍の中でも落ちこぼれが集まる部隊。
 任務内容は、誰でも出来る街の美化活動さ」
「この兵舎は汚ねえがな」と隊長は付け加える。

 レオンは、衝撃の事実に開いた口が塞がらなかった。
 胸に抱いていた夢と誇らしさがガラガラと崩れ落ちていく。
 抜け殻と言っていいほどレオンは落ち込んでいたが、ハヤトは気にせずにそのまま話を続けた。

「大方噂に尾ひれがついたんだな。
 確かに美化活動は国を支える大事な仕事だ。
 けど、ウチはお前の思っているような仕事はしないぞ」
「そんな……」
「しかしだ、優秀なアンタをここで腐らせるのは惜しい。
 どうしても言うなら、他の部隊に行けるよう口利きしてもいい。
 落ちこぼれでも、そのくらいのコネはある」
 ハヤトはポンと、レオンの肩を叩く。

「さっきも言ったように、美化活動も大事な仕事だ。
 ここでしばらく働いて、どうするかゆっくり決めるといい。
 だが顔色が悪いから、今日の所は帰れ。
 家でゆっくり考えるんだな」


 ■

「お疲れさまでした」
「ああ、気を付けて帰れよ。
 無理そうなら明日も休んでいいから」
「はい」

 ハヤトは、フラフラと歩くレオンを見送る。
 結局のところ、レオンは早退することになった。
 始めは使命感から残ると言っていたが、ハヤトが隊長命令で無理矢理返すことにしたのだ。
 今の彼には誇り高き仕事ではなく、ただ時間だけが必要だと、ハヤトは信じていた。

 そんな二人を見ながら、兵舎にいた面々はハヤトに聞かれないよう、小さな声で話し始めた。
「あの新入りは大丈夫なのか?
 ここにきて体調崩す奴はごまんといたが、その中でも一番だぞ」
「あの様子じゃ、明日どころか、明後日も出てこないかもしれないな」
「仕方ない。
 カッコいい仕事を夢見ていたら、こんな汚い場所だもんな」
「気の毒に。
 せめて優しくしてやろう」
「お喋りはそこまでだ」

 雑談している部下たちをハヤトが一喝する。
 彼らは一瞬のうちに雑談を辞め、姿勢を正してハヤトに注目した。
 その洗練された動きは、落ちこぼれの物ではなく精鋭たちの動きであった。
 寝ていた兵士も、いつの間にか起きて姿勢を正している。
 先ほどまで酒盛りをしていた浮ついた空気はどこにもなかった。

 ハヤトは、部下たちの準備が出来たことを確認して、机の上に紙束を置く。
 その紙束には、子供の似顔絵と簡単な情報が書かれていた。

「これが今回のターゲットだ」
「うへえ、今回もターゲットがいっぱい」
「王国中の子供がターゲットだからな。
 大変だろうが、王国を支えるための大事な仕事だ」
 ハヤトは部下たちを見渡して、はっきりゆっくりと話し始める。

「いいか。
 この任務はターゲットの情報を調べ上げる事。
 もちろん、誰にも悟られず、痕跡も残さないように。
 それと――」
「それと、良い子かどうか調べろって言うんでしょ」
「子供に何をプレゼントしたらいいかもな……
 何回も言うから覚えちまったよ」
「なら問題ない」

 おわかりだろうか?
 第三タスマリン小隊の、美化活動が任務の落ちこぼれ部隊は仮の姿。
 彼らの本当の姿は、国の良い子たちの元に、プレゼントを届ける伝説のサンタクロース部隊なのである。

「質問はあるか?」
「あの新人を仲間外れにするのはなぜだ?」
「今年のターゲットの中に、新入りの名前があるからだ。
 アイツ、飛び級したから若いんだよ……
 奴には悪いが、クリスマスまで悟らせるなよ」
「それまでに悪い子になったり、辞めたりしなきゃいいけれど……」
「うまく口車に乗せるさ。
 他に質問は?」
 ハヤトは目線で質問を募るが、誰も声を上げる者はいなかった。

「よろしい。
 では第『三タ』スマリン小隊改め、サンタ小隊、作戦名『赤服大作戦』。
 行動を開始しろ」
「「「了解」」」

 こうして、小隊の面々は町に散っていく。
 彼らの任務は、子供たちに笑顔を届ける事
 各々が胸に誇らしさを抱きながら、彼らは任務に励むのだった。

8/17/2024, 2:55:08 PM