10年後の私から手紙が届いた。
何を言っているのか分からないと思うけど、私も分からないので仕方がない。
近所に手紙を出すと10年前の自分に届くというポストがある。
最初はこの都市伝説にちなんだ、ただのイタズラだと思っていた。
そしてこの手紙には、これから起こるであろう様々な出来事が書かれていた。
病気の感染、外国の戦争、日本での大きな事故、有名な事務所の不祥事。
だがどれもこれも荒唐無稽で信じることはできなかった。
だけど月日が経つにつれ、私は考えを変えることになった。
手紙が届いてから一年の内に、書かれている出来事の一割が起こったのだ。
寸分の狂いもなく、正確に事件や事故が起こった。
起こってないもう9割の出来事は、日付が未来となっている。
未来の事ではあるが、絶対に起こることなのだろう。
ここまで来ると、さすがに信じるほかなかった。
(そこまで分かるんなら、宝くじの当選番号くらいかけよ、とも思ったが)
だが……
『私』から、というのは絶対に信じることができない
だってこの手紙、もすごい綺麗な字で書かれているもの…
私の字は汚い。
どんなに頑張ってもこんなに綺麗にかけることはない。
かつて字をきれいにしようとしたこともあるが、時間の無駄だった。
ある人は『ミミズが這ったような字』、ある人は『これには解読班を呼ぶ必要がある』、またある人は『これは紛れもなく宇宙人の文字。宇宙人は存在する』とまで言った。
さすがに最後のやつは殴った。
たった一つの相違点。
それだけだが、この手紙は私を語る偽物が書いたと断言できる
もちろん10年後に字がきれいになる未来があるかもしれない。
しかし、それならば字の事について言及があるはずだ。
でもそれがないことはおかしい。
つまり私ではなく、私を語る偽物が書いたのだ。
証明終了。
そしてもう一つ不可解な事。
それは、これだけのことをしておいて、私にさせたいことが意味の分からない。
『指定の日時に指定の場所に行くこと』
そこで何が起こるかも、何をすればいいのかも書かれていない。
意味不明である。
なにかのイベントがあるのかとも思ったが、調べても何も出ない。
もしかしたら、暗殺者がいて私を殺すつもりなのかとも思ったこともある。
だけどそれにしては回りくどい。
直に殺しにくれば話が早くて確実である。
この手紙の差出人は何が目的なのか?
それを理解するために、この場所に行くしかあるまい。
行かないという選択肢は、私の中には無い。
なぜなら、ここで行かなければ、死ぬまでずっとモヤモヤが晴れないだろうからだ。
さすがに『ま、いっか』で済ますには見過ごせないことが多すぎる。
指定の日付は来週。
鬼が出るか蛇が出るか。
それはその時になってみないと分からない
期待と不安が入り混じりながら、その日を待つのだった。
🕙 🕙10年後🕙 🕙
今でもあのことを思い出す。
あの手紙によって私の人生は大きく変わった。
あの指定の日付に指定の場所に行くと、私は運命的な出会いを果たした。
そこには新しく結成されるアイドルグループの宣伝ポスターが張られていた。
私はそのポスターを見た瞬間、ハートを撃ち抜かれた。
そこには、ストライクゾーンど真ん中の美男子が大きく映っていたのだ。
そして死ぬまで推していくことを、その場で誓った。
有休が取れない仕事はやめ、融通の利く仕事へと転職した。
そして空いた時間をフルに使い、ライブや握手会は全て行った。
何度も行ったので、完全に顔を覚えられたのは笑い話である。
ファンレターも出した。
さすがに汚い字のまま出すわけにもいかず、必死になってきれいな字を書いた。
すると継続は力なりと言ったもので、ある程度キレイな字が書けるようになっていた。
愛は偉大である。
後で知ったのだが、宣伝ポスターはいろいろ事情があって、あの日あの場所でしか張られなかった。
つまり、あのタイミングを逃せば推しに会えることは無かった、と言うことだ。
テレビで見ることはあるかもしれないが、前職の毎日残業デーという状況下ではテレビを点けたかどうかすら怪しい。
つまり、私に確実に認識させるためには、あの場所に向かわせることが最善だったのだろう。
そして彼は今でもテレビで活躍している。
あの時会った美男子は、年を取ってイケメンになった。
だけどあの時と変わらない輝きで、私の人生を照らしてくれる。
彼と出会わなければ、私の人生は今でも暗い物であっただろう。
感謝をしてもしきれない。
そして私は手紙を書いた。
彼にではない。
十年前の自分あてに。
疑われないよう細心の注意を払い推古する。
書くのは最低限、自分のことはほとんど書かない。
字がきれいになった理由もだ。
ネタバレしてはつまらないからね。
最後に十年前に自分に届くと言われるポストに手紙を出す。
ただの都市伝説だと思っていたが、実際届いたので本当だったらしい。
なんでも疑ってかかるのはよくないな。
なんにせよ、やれることはすべてやった。
これなら彼と確実に巡り合うだろう。
十年前の私よ。
手紙を出した私に感謝するといい。
そして彼に最大級の愛を捧げるのだ!
あ、宝くじの当選番号書くの忘れた。
後で書く
てかお題のバレンタイン、驚くほど気分がのらない
どうしたものか…。
って書いたらたくさんハートをもらってしまった。
みんなバレンタインは複雑なんですね……
風呂に入ったら、ネタ出てきたので書きました。
ここから本文です。
🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫
「父さん!」
「どうした佳代。そんなに慌てて……」
リビングでくつろいでいた父さんは、驚きながら私を見る。
「学生時代に父さんの作る手作りチョコがおいしすぎて、クラスメイトの女子から『バレンタイン用のチョコ制作禁止令』を出されたことがあるって本当?」
「……母さんから聞いたのか。
いかにも、学生の時バレンタインチョコを作ることを禁じられた。
女子より目立つなという理由でな。
そして今も母さんから禁じられている」
「なるほど。通りでお菓子作りが好きな父さんが、バレンタインチョコを作らないはずだ」
私は長年の疑問が一つ解決した。
だが本題はそこじゃない。
「父さん、そのエピソードを見込んでお願いがある」
「バレンタインか……」
「そうだ。気になる人がいる。
父さんにお願いするのは癪だが、作り方を伝授してもらいたい」
「くっ。佳代が男になびくのは許しがたいが……
愛する娘の頼みだ。いいだろう」
父さんはにっこりと微笑む。
「教える前に一つ聞かなければいけないことがある。
チョコをあげたい人は仲がいいのか?」
父さんに痛いところを突かれる。
だがこれからのためにも正直に答えねばなるまい
「学校の部活の先輩で、会話はあんまりしてなくて……
顔を合わせた時に挨拶するくらいで……
で、でも私はあの人に愛を伝えたいんだ!」
「なるほど。はらわたが煮えくりそうだが、事情は分かった。
そうなると問題点が二つある」
「問題点?」
まさかの指摘に頭が急激に冷めてくる。
「まず一つ目。
愛を伝えるには佳代のお菓子作りの腕では足りない可能性がある。
だがこちらはそこまで問題ではない。
練習すればいいだけだ」
「うん、頑張る」
「二つ目、こちらは深刻だ。
受け取ってもらえない可能性がある」
「!?」
受け取ってもらえないだって。
盲点だった。
確かにあまり親しくない人からチョコをもらっても困るだけ。
こんなことに気づかないほど浮かれていたのか。
「だが、そこに関して父さんにいいアイディアがある」
「いいアイディア?」
かなり致命的な問題のようだが打開策なんてあるのか?
「さっき、佳代は練習すると言っただろう。
その練習の過程で作ったものを渡す」
「え?でもチョコは受け取ってもらえな――はっ」
その手がったか!
「気づいたか。
確かに『バレンタインチョコ』は受け取ってもらえないかもしれない。
だが『普通のチョコ』は?
よほど嫌われてない限り、受け取ってもらえるだろう」
私は父さんのアイディアをじっくり頭の中で消化していく。
そして、それにも問題点があることに気づく。
「いい案だと思うけど……
いきなりチョコ渡したら不審に思われない?」
「そこも考えてある。
個人に渡せば不自然だが、部活のメンバー全員に渡せば自然だ。
バレンタインの練習だといえば、勘ぐる人間がいても指摘まではされないだろう。
そして普段からチョコをあげる程度の仲になれば、バレンタインチョコも受け取ってもらえる、という寸法だ」
完璧だ。
完璧な作戦だった。
「分かった。それで行く」
「後はお菓子作りの修行だな。
厳しくするが、ついてこれるか?」
「当たり前、完璧なチョコを作る」
こうして私は父さんからチョコを作り方を教えてもらう。
厳しい修行だったがなんとかなった。
愛ゆえに。
そして、その過程で作ったチョコも、先輩に食べてもらうことに成功した。
そしてバレンタイン当日。
「佳代。チョコは持ったか?」
「もちろん。このパーフェクトなチョコでメロメロだよ」
「ならいい。じゃあ《《彼氏》》によろしくな」
「うん」
そう、今日私は彼氏にチョコを渡す。
なんと驚くべきことに、先輩はバレンタインを待たず私の彼氏になった。
私がチョコをあげることで、先輩は私を意識するようになったらしい。
それで数日前、先輩から呼び出され告白、晴れて恋人同士となった。
このことを父さんに報告すると、
「『男は胃袋で掴む』っていうだろ」
と言われた。
どうやらすべて作戦通りらしい。
私の父親ながら恐ろしい人である。
「あ、そうだ。コレ」
そう言って父さんに小包を渡す。
小包を見た父さんは驚いて固まってしまった。
「お礼。じゃ、行ってきます」
父さんの返事を待たず、家を出る。
フフフ、父さんビックリしてた。
父さんにばれないよう、友達の家で作ったバレンタインチョコである。
ベタだけど効果てきめんだった。
効果てきめんだからベタなのか?
先輩への愛の百分の一もないけど、まあ世話になったからサービスくらいせんとな。
それはともかく。
私は先輩の待つ学校へと歩き出す。
私が愛情をたっぷり込めたこのチョコで、きっと私の愛が伝わるはず。
待っててください、先輩!
「少し待ってて」
そう言われて待つこと、二十分。
妻はいまだに帰ってくる気配がない。
私の我慢はそろそろ限界だ。
トイレに行きたくてたまらない。
早く帰ってきて欲しい。
どうしてこうなったのだろうか。
話は一時間前にさかのぼる。
私はこの度、妻の買い物の荷物持ちとして、近所のスーパーへやってきた。
なんでも『このスーパーで近年まれにみるすごいセール行われる』という情報を得た妻は、私を荷物持ちとして連れてきたのだ。
普段家事を任せっきりなので、これくらいお安い御用とばかり了承した。
だが妻に言わせれば、結局のところマアマアぐらいのセールだったらしい。
とはいえセールはセールなのでたくさんの物品を買い込み、私は荷物持ちとして過不足なく運用された。
そして車の後部座席に荷物を山の様に積んでいく。
積み終わった後、さすがに買いすぎではなかろうかと、物思いにふけっている時に妻は言った。
「買い忘れたものがあったわ。少し待ってて」
「分かった」
たしかそのような会話だったと思う。
特に考えもなく受け入れたのだが、それが間違いだった。
よく女性は買い物が長いと言うが、妻はそれに輪をかけて長いということを忘れていた。
そして、もう二十分も待たされている。
もう二月とはいえ、まだまだ寒い季節である。
燃料代節約のため、エンジンもかけず寒い車内で待っている。
こうして寒い車内で待たされるのはクるものがある。
するとどうなるか?
トイレが近くなる。
つまり漏れそう。
何度もトイレに行こうと思ったのだが、入れ違いになり妻を待たせてしまうかもしれないので、トイレに行けずにいた。
妻は人を待たすのは好きだが、待たされるのは大嫌いな人間なのだ。
だから、怒らせるくらいなら、少しくらい待てばいいかと思っていた。
買い忘れを買うだけなら時間はかからないはずだから。
だが妻は帰ってこない。
いつまで待てばいいのか?
「待ってて」
妻の言葉が頭の中で反芻される。
なんだか妻が帰ってこないような気がしてきた。
縁起でもない。
たかだか買い物帰ってくるに決まっている
だが頭を振るも、その疑念までは振り払えない。
こうなれば心を無にしよう。
そうすれば、気が付いたときには妻は帰ってきているはずだ。
無、無、無、無、無。
駄目だ、トイレ行きたい。
私は一瞬の逡巡の後、車から降りることを決意する。
妻からは文句は言われるだろうが、漏らすよりましだ。
そう決意し、降りようとしたところでスマホが震える。
電話すればよかったのかと思いながらスマホを見ると、SNSでメッセージが来ていた。
『タイムセールがもう少しで始まるので、もう少し待ってて』
妻には悪いがもう待てない。
私は車を降りる。
私は十分待った。
あとは尿意がトイレまで待ってくれるだけ。
私は祈りながら、トイレに向かうのだった。
私は恋人の卓也と一緒に、マンションの屋上に来ていた。
理由は逢引き――ではなく、星空を見に来た。
『なんだ逢引きじゃないか』と思われるかもしれないが、そんなロマンチックなものではない。
私たちは双眼鏡を手に、宇宙人を探している。
『宇宙人なんていない』とおっしゃる方もいるだろうが、残念ながら存在する。
でも誰も信じないので、毎晩こうして証拠探しをしている。
けれど基本的に何かが見つかることは無いし、あっても流れ星くらいなもの。
それでもこの時間は楽しい。
きっと卓也と一緒にいるからだろう。
「何かあった?」
私は卓也に尋ねる。
「ダメだな。なにも無い」
「まあ、気長にやるしかないね。少し休もう」
「そうだな」
卓也は双眼鏡を覗くのをやめて、私の近くに座る。
「はい、お茶。なんと宇宙人のテクノロジーで熱々のまま!」
「何言ってるんだよ。魔法瓶に入れてただけだろ」
「バレたか」
卓也とお茶を飲みながら、星空を見上げる。
「ねえ、宇宙人に会ったらどうしたい?」
「あれ言ったことなかったっけ?」
「聞いたけど、もう一回聞きたい」
「仕方ないな」
卓也は手に持ったお茶をすする。
「会ったら伝えたいことがあるんだ。
地球の文化、自然とか、地球のいいところをたくさん知ってもらう。
それで宇宙人が住んでいる星の事もたくさん聞きたいんだ」
「夢があるね」
「多分だけど、宇宙人って地球に興味があると思うんだ。
アニメとかゲームとか、面白いものがたくさんあるしね」
「それは私も保証するよ。絶対に気に入る」
「そうだろ。
よし、体も暖まったし、宇宙人探しを再開するか」
そう言って卓也は双眼鏡を手にして、星空を見上げる。
だけどそんな卓也を見て、私はため息をつく。
実は私は卓也に秘密にしていることがある。
彼の夢に叶えるために伝えなければいけないこと。
でも話せないこと。
それは私が宇宙人だということ。
『自分が宇宙人ということを地球人に教える』
それは宇宙条約で禁止されている。
破ったら厳罰で、知った地球人も記憶を消されてしまう。
『地球はまだまだ未開だ』と言って、頭の固いお偉いさんによって決められたのだ。
でも地球は宇宙を渡る技術が無いだけで、素晴らしい文化があると思っている。
卓也の言ったように、アニメやゲームは素晴らしい。
ぜひとも故郷の星の人々にも堪能して欲しいくらいだ。
他の宇宙人もそう思っているようで、撤回運動が展開されていると聞いたことがある。
でもお偉いさんは頑なに拒否しているそうだ。
何がそんなに怖いのだろうか。
地球のこと、もっと知ればそんな事は思わなくなるのに……
私が卓也の求めているものだって分かったら、どんな顔をするのだろう。
いつかあなたに伝えたい。
あなたの夢は叶っているって。
いつかあなたに話したい。
私の故郷の星の文化、自然やいいところをたくさん。
そして最後に伝えたい。
あなたを心の底から愛してるって。
卓球の大会の後、高台の公園にある番地を目指していた
だが、僕が座ろうとしたベンチには先客がいた。
「この場所で待っていれば、来てくれると信じていたよ」
彼女は僕をまっすぐ見ながら言った。
「君、辛い事があったらいつもここに来るよね」
どうやら何もかもお見通しらしい。
僕は彼女の言葉に何も返さず、彼女の隣に座る。
「慰めてあげようか?」
「……いらない」
「そう言わずに」
彼女は僕の意思を無視して頭を撫でる。
「君は頑張ったよ」
「中途半端な慰めはいらない」
「ゴメンね。私、負けたことないから慰めかたが分からないや」
「嫌味か。じゃあ、やめろよ」
「それとこれとは別」
彼女の手は止まる気配がない。
「君の対戦相手、強かったね」
「そうだな」
「知ってる?君と当たった子、去年の大会で君に負けているんだよ」
「ああ」
「おや、知ってたんだ?」
「当然だ」
僕の答えに彼女の手が止まる。
そして数秒経って、また頭を撫でる手が動き始める。
「……君その時彼を完膚なきまでに負かしていたよね。
理由を聞いてもいい?」
「去年の試合の時、最後の瞬間、アイツに飲まれた。
気を抜けば負けると錯覚するほどに……
それが印象に残ってた」
「なるほど。だから君は去年から練習を増やしていたんだね」
納得しながらも、彼女は頭を撫でてくるが、最初ほどの繊細さは無い。
というか痛い。
「あと、いい加減頭を撫でるのをやめろ。
雑になってるぞ」
「ゴメン、止め時分かんなくって。
正直飽き始めてたんだよね」
「じゃあ、さっさと止めろよ!」
飽きたというのは本当のようで、彼女はすぐ頭から手をどけた。
それからお互い言葉は無く、正面に見える景色を眺める。
見慣れた街並みも、夕日に染まれば幻想的に映るのだから不思議である。
『嫌なことがあったらここに来る』。
彼女の言う通りだ。
この景色を見る時だけは、何もかもを忘れられる。
「しかしここからの景色、いいね」
彼女が突然口を開く。
「ああ、お前がいなければもっとよかったんだがな」
「可愛い女の子捕まえて、そういうこと言う?」
「なんだ、可愛いって言って欲しいのか?」
「……それはやめてくれ。君に可愛いって言われたら、死にたくなるかも」
彼女はここにきて初めて苦い顔をした。
「で、どうするつもり?」
だがそれも一瞬で、すぐに真面目な顔に切り変えた。
どうやらこれが本題らしい。
「決まってるだろ。リベンジだ」
「男の子だね」
「言ってろ」
俺はベンチから立ち上がり、そこから見える街並みを見下ろす。
「次は負けない」
僕は赤く染まるこの場所で、決意を新たにするのだった。