G14

Open App

 私は恋人の卓也と一緒に、マンションの屋上に来ていた。
 理由は逢引き――ではなく、星空を見に来た。
 『なんだ逢引きじゃないか』と思われるかもしれないが、そんなロマンチックなものではない。

 私たちは双眼鏡を手に、宇宙人を探している。
 『宇宙人なんていない』とおっしゃる方もいるだろうが、残念ながら存在する。
 でも誰も信じないので、毎晩こうして証拠探しをしている。
 けれど基本的に何かが見つかることは無いし、あっても流れ星くらいなもの。
 それでもこの時間は楽しい。
 きっと卓也と一緒にいるからだろう。

「何かあった?」
 私は卓也に尋ねる。
「ダメだな。なにも無い」
「まあ、気長にやるしかないね。少し休もう」
「そうだな」
 卓也は双眼鏡を覗くのをやめて、私の近くに座る。

「はい、お茶。なんと宇宙人のテクノロジーで熱々のまま!」
「何言ってるんだよ。魔法瓶に入れてただけだろ」
「バレたか」

 卓也とお茶を飲みながら、星空を見上げる。
「ねえ、宇宙人に会ったらどうしたい?」
「あれ言ったことなかったっけ?」
「聞いたけど、もう一回聞きたい」
「仕方ないな」
 卓也は手に持ったお茶をすする。

「会ったら伝えたいことがあるんだ。
 地球の文化、自然とか、地球のいいところをたくさん知ってもらう。
 それで宇宙人が住んでいる星の事もたくさん聞きたいんだ」
「夢があるね」
「多分だけど、宇宙人って地球に興味があると思うんだ。
 アニメとかゲームとか、面白いものがたくさんあるしね」
「それは私も保証するよ。絶対に気に入る」
「そうだろ。
 よし、体も暖まったし、宇宙人探しを再開するか」
 そう言って卓也は双眼鏡を手にして、星空を見上げる。
 だけどそんな卓也を見て、私はため息をつく。

 実は私は卓也に秘密にしていることがある。
 彼の夢に叶えるために伝えなければいけないこと。
 でも話せないこと。
 それは私が宇宙人だということ。

 『自分が宇宙人ということを地球人に教える』
 それは宇宙条約で禁止されている。
 破ったら厳罰で、知った地球人も記憶を消されてしまう。
 『地球はまだまだ未開だ』と言って、頭の固いお偉いさんによって決められたのだ。
 でも地球は宇宙を渡る技術が無いだけで、素晴らしい文化があると思っている。
 卓也の言ったように、アニメやゲームは素晴らしい。
 ぜひとも故郷の星の人々にも堪能して欲しいくらいだ。

 他の宇宙人もそう思っているようで、撤回運動が展開されていると聞いたことがある。
 でもお偉いさんは頑なに拒否しているそうだ。
 何がそんなに怖いのだろうか。
 地球のこと、もっと知ればそんな事は思わなくなるのに……
 私が卓也の求めているものだって分かったら、どんな顔をするのだろう。

 いつかあなたに伝えたい。
 あなたの夢は叶っているって。

 いつかあなたに話したい。
 私の故郷の星の文化、自然やいいところをたくさん。

 そして最後に伝えたい。
 あなたを心の底から愛してるって。

2/13/2024, 8:44:52 AM