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2/11/2024, 9:56:53 AM

「 頭が高い控えおろう」
「「「「「ははー」」」」
 誰もがみんな、その場に膝をつく。
 無理もない。
 目の前にはあの水戸黄門様がいるのだ。

 若い時から様々な悪事をやった俺でも、膝をつくしか道は無い。
 かつて俺に悪の道を教えてくれた師匠も、黄門様だけには逆らうなと言っていた。
 それほどのお方だ。

 だが俺には一つ疑問があった。
 本当に『あの』水戸黄門なのだろうか。
 なるほど、疑うだけでも不遜であろう。
 でも本物であるかどうか、俺には全く見当がつかなった。

 黄門様(仮)一行に気づかれないよう、隣で土下座をする相棒を小突く。
「なんだよ」
 相棒は不機嫌な様子でこちらを睨みつける。
「あれ、本物だと思うか?」
「本物に決まってるだろ。印籠も持ってるし」
「そうなんだが、俺は本物の黄門様も印籠も知らない。
 あれが本物か偽物か分からないんだ」

 相棒は黄門様(仮)の方へ一瞬目線を向け、俺の方に視線を戻す。
「確かにお前の言う通りだ。あれが本物かに偽物か、全く分かんねえ」
「だろ」
「ほかのやつが知っているかもしれない。聞いてみよう」

 相棒は、一行に気づかれないよう隣のやつを小突き、なにやら話している。
 だが、その男も知らないらしく、その男はさらに隣のやつを小突き、さらに隣の男を――
 といった様子で、波の様に動きが伝播していく。
 だが誰も知らないらしく、一向に答えが戻ってこない。

 黄門様が本物なのか、偽物なのか。
 誰もがみんな、判別する方法をしらない。
 ここまで誰も知らないとなると、本当に水戸黄門が存在するのかさえ怪しい。
 俺は、俺たちはよく分からないやつらに土下座しているのか……

 なんだか、急に腹が立ってきた。
 なんでこんな目に会わなくてはいけないのか?
 ちょっと悪事を働いただけなのに!
 俺は立ち上がる。

「貴様!どういうつもりだ!」
 黄門様(仮)に立っている隣の男が叫ぶ。
「本物かどうか、よく分かんないやつらにヘコヘコできるかよ!」
「この印籠が目に入らぬか!」
「その印籠が本物か分かんねえんだよ!」
 俺は言い返す。

「こうなりゃヤケクソだ。一か八かお前たちを殺して俺は逃げる」
「貴様ぁ!」
「待ちなさい、角さん」
 黄門様が男をなだめる。
「儂に任せなさい」
 すると角さんと呼ばれた男が一歩後へ下がる。

「そこの君、儂が本物かどうかわからんと言うが……」
 黄門様(仮)が一歩前に出る。
「これでどうかな?」
 そう言うと、印籠が光輝き始めた。
 なにが起こっているんだ?

「変身!」
 黄門様(仮)が叫ぶと、黄門様(仮)が光で満たされる。
 そして光が収まると、黄門様(仮)は全身を鎧に身を包み、顔を仮面で隠してい。
「あ、あんたは……」
 俺はこいつを知っている。
「黄門仮面!」

 日本中で悪を成敗し、弱い者たちを救う正義の使者。
 知らない人間なんて、この日本には一人もいない。
「歳には勝てなくてな。必要が無ければ変身しないことにしているんじゃよ」
 俺は膝から崩れ落ちる。

「若いの。これでどうかな」
「はい、申し訳ありません。あなたは本物です。かつて助けてもらったこともあります」
「そうか……見たことがあると思ったが、やはりな」
「申し訳ありません。悪から足を洗うと言いながら、この道に戻ってまいりました」
「うむ、だが君は若い。これからは償いをするといい」
「はい」
 俺は自然と土下座の姿勢を取っていた。
 この人を偽物だと、一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。

「黄門様、私は残りの人生を償いに捧げることを誓います」
「うむ、心を入れ替えるとよい」
 黄門様(真)は満足そうにうなずく。
 そして土下座している仲間たちを見渡し、全員に聞こえるように告げた。
「罪を憎んで人を憎まず。お前たちも心を入れ替えることだ」
「「「「ははーー」」」」

 この場にいた全員が涙を流していた。
 無理もない。
 誰もが黄門仮面に助けてもらったことがあるのだ。
 そして彼のようになりたいと憧れ、だけどどこで道を間違えてしまったのか……

 やり直そう。
 誰もがみんな、そう思ったのだった

2/10/2024, 9:38:01 AM

 押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
 おそらく明日が結婚記念日なので、夫が私に渡すための花束だと思われる。
 そのプレゼントを見つけてしまった私の今の気持ちを述べよ(配点10)

 答え:もっとうまく隠せよ

 一秒にも満たない現実逃避から、通常モードへ復帰。
 復帰して初めにやることは、ため息を出すこと。
 こういうのって当日に買うものでは?
 悶々としながら、押し入れを閉める。

 前からあの人はうかつだと思っていたが、まさかここまでとは……
 あの人はサプライズ好きで、なにかと私を驚かせようとする。
 が、詰めが甘く、たいていの場合それを実行する前に目論見が露呈する。
 今回もサプライズで花束をプレゼントするつもりだったのだろうが、ご覧の有様だ。
 花束をくれること自体は嬉しいんだけどね。

 さて知らないふりをして花束をもらうべきか……
 それとも指摘するべきか……
 それが問題だ。

 いや待てよ。
 第三の選択肢を思いついた。
 私がサプライズをすればいい。
 なぜ今まで思いつかなかったのか。

 善は急げ。
 今すぐ花束を買いに行こう。
 今までもらってばかりだったが、私からのプレゼントもいいだろう。
 きっと驚くぞ。

 しかしそうなるとバレないように隠す必要があるな。
 うーん、隠す場所隠す場所。
 まあ無難に押し入れでいいだろう。
 今から夫のリアクションが楽しみだ。
 

 🌹 🌹 🌹 🌹 🌹

 押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
 おそらく今日が結婚記念日なので、妻が僕に渡すための花束だと思われる。
 そのプレゼントを見つけてしまった僕の今の気持ちを述べよ(配点10)

2/9/2024, 9:58:24 AM

『スマイル 値上げへ』
 手に持った新聞の一面にはそう書かれている。
 なんというセンセーショナルな見出しだろうか。
 私は寝起きにもかかわらず、一気に目が覚めてしまった。

 スマイルというものは0円のはずだ。
 いったい何が起こったというのか?
 朝の支度もせずに新聞を読み込む。

 『近年の急激な物価高により利益が確保できず』、『またスマイルを提供する人材の人件費が高騰』、『もともと利益が確保できていなかったため今回の値上げに踏み切った』と書いてある。

 なるほど、どうやら時代の流れらしい。
 スマイルは登場以来ずっと0円だった。
 だが企業努力ではもう限界なのだろう。
 これもまた一つの時代の終わり。
 諸行無常、変わらないものが無いのは分かっているが、それでもどこか寂しさを感じる。

 私は急にスマイルが欲しくなった。
 普段は何とも思わなかったくせに、手に入りにくくなると急に物欲しくなる。
 我ながら最低だな。
 だが欲しい物は欲しい。
 家を出て近所で一番近い店に向かう。

 店に着くと、朝が早いにもかかわらず、行列ができていた。
 みんな朝の新聞を読み、スマイルが欲しくなったのか……。
 お店的には売上が増えるが、複雑な心境であろう。

 そんな何の役に立たないことを考えていると、ついに自分の番がやってきた。
 何も考えていなったが、とりあえず目についたセットとスマイルを注文する。
 すると対応してくれた店員は、即座にスマイルをくれた。
 うむ、いい笑顔だ。

 私はそういえば、と思って聞きたいことを聞くことにした。
 新聞には値上げの事が書かれていたが、値段のことは書いてなかったのだ。
「新聞にスマイル値上げって書いてあったんですけど、いくらになるんですか?」
 言った後で、忙しい中こんなことを聞くのは迷惑だということに気づく。
 慌てて訂正しようとするが、店員は気を悪くした風もなく笑顔で答えてくれた。

「お客様の笑顔です。
 実は先ほど無料分の笑顔が切れまして、お客様より有料となります。
 ではお客様、笑顔をどうぞ」

2/8/2024, 9:50:30 AM

 『どこにも書けないこと』というお題なので、誰にも言ったことが無い話をします。

 私が3年前の事です。
 当時、私は知らない街を散歩することが趣味で、学校が休みの日にはよく出かけて散歩していました。
 
 太陽が照り付ける暑い夏の日でした。
 その日も知らない街を歩き、知らない街並みを堪能していました。
 ですが気が付くと周りの景色が変わっていることに気が付きました。
 建物が廃墟しかなく、木も枯れ木で、なんとなく地獄みたいだなと思ったのを覚えています。

 しかし私は慌てませんでした。
 稀にですが、異世界のようなところに迷い出ることがあり、今回も『またか』くらいにしか思ってませんでした。
 なのでそのまま歩いて、そのうち帰れるだろうと思ってました。

 ですが道を歩いているうちに妙な音が聞こえてくるようになりました。
 どうやら私が向かっている方向から聞こえているようで、道を進むほど音は大きくなっていきます。

 私は不思議に思いながらも歩いていると、大きく開けた場所に出ました。
 そこには二つの影がありました。
 人ではなく、鬼です。
 赤鬼と青鬼。

 じゃあその二匹が何をしていたのかと言うと、血みどろの争いをしていました。
 嫌な予感がしました。
 なぜ争っているのかは分かりませんが、鬼に見つかると大変な事になります。
 この二匹に気づかれないようにすぐさま引き返そうとすると、足元にあった枝を踏み音を立ててしまいました。
 音に気づいた二匹が私の方を見ました。
 その時の私の恐怖が分かりますか?

 私はそのまま背中を見ずに走り出し、一目散に逃げました。
 どれだけ走ったのか、いつの間にか家の前に立っていました。

 これが今まで誰にも話さず、どこにも書かなかったことです。
 こんなのどこにも書けませんよ。
 だってこれを見た鬼が私を見つけるかもしれません。

 でも皆さん不思議に思われますよね。
 なんで今頃になって書いたのかって。

 実は最近ずっと視線を感じているんです。
 ここ一年の間、ずっと誰かが見ている気がするんです。
 外にいても、家の中にいても……
 私は疲れました。
 もう楽になりたいのです。

 これを書いている間に、部屋の外から物音が聞こえてきました。
 彼らがやってきたのでしょう。
 やっと楽になれ
 

2/7/2024, 9:56:12 AM

 旅の途中で倒れたところ、近くの村の人に助けてもらった。
 そこで山賊が暴れていることを聞く。
 血も涙もなく、近くを通る人間を見境なく襲うので、みんな困っているという。

 私は自分の剣術には自信がある。
 私は助けてもらった恩義で山賊を退治することにした。
 一宿一飯の恩義に報いるためでもあるが、手柄をあげたい気持ちがあったことも否定しない。

 もちろん村の人たちは無謀だと言って私を止める。
 自分たちが我慢すればいい事、死ぬことはない、と。
 優しい人たちである。
 だが私はなんとか村人から山賊のアジトの場所を聞き出し、そこに赴いた。
 だが――
 
「観念するがいい。貴様の命もここでお終いよ」
「くっ」

 私は今膝をついていた。
 私は剣には自信があった。
 だが、山賊は私より強かった。

 始めの一振りで刀は弾き飛ばされた。
 次の一太刀で切り殺されることを覚悟したが、なぜか切られることは無かった。
 その隙に刀を拾い上げ、山賊と対峙するも再び刀を弾き飛ばされる。
 そしてその時も次の攻撃が来ることは無く、再び刀を拾う。

 何度か切り結んだあと、私は気づいた。
 山賊は私で遊んでいるのだ。
 その事実に身が震える。
 山賊との差はそこまでなのか……

「気づいたか。そうさ、俺は手加減している。
 だが落ち込むことは無い。
 何度かやれば、一度くらい剣が当たるかもしれんぞ」
 絶対そんなことは無いがな。
 そんな意味を言外に含み、山賊は笑う。

 その後も私は山賊に切りかかった。
 その度に刀を弾き飛ばされ、そして拾わされる。
 何度挑もうとも、山賊には刀が届かない。

 勝てない。
 その言葉が頭を駆け巡り、一歩後ずさる。
「終いだな」
 そう言うと、山賊は私の刀を遠くに弾き飛ばした。
 次は無いということだろう。

 恐怖が体を支配する。
「なかなか楽しめたよ。じゃあな」
 山賊は持っていた刀を振りかぶり、私を切り殺そうとした、まさにその時――

「ポッポー、ポッポー、ポッポー」
 背中から鳩の鳴き声が聞こえる。
「なんだあ」
 山賊は鳩の鳴き声に驚いたのか、動きが止まる。
「なんだ、南蛮から来た商人から取り上げた時計かよ。間の悪い」
「南蛮……時計……」

 振り返ると巨大な時計が鎮座していた。
 それは見事な鳩時計であった。
 知り合いの商人に見せてもらったことがある。
 時間を示す南蛮のカラクリであると。

 そのことを思い出すと同時に、私はこの時計に勝機を見出した。
 うまくいくかは分からないが、この手段にかける。
 私は時計に飛びつき、時計の針をもぎ取る。

「貴様!」
 山賊が危険を感じたのか、振り上げた剣を振り下ろす。
 だが遅い。
 私は山賊の剣を時計の長針で受け止める。
 重い衝撃が腕に伝わるが、耐えれないほどではない。

「何!?」
 山賊は予想外の事態にうろたえる。
 私は山賊が態勢を整える前に、もう片方に持った短針で山賊の心臓を正確につく。

「馬鹿な……」
 その言葉を最後に山賊は地面に崩れ落ち、二度と起き上がることは無かった。
 こうして山賊は退治され、村に平穏が戻り、人々から感謝されたのであった。

⚔ ⚔ ⚔ ⚔

 これが日本で使われた二刀流の最古の記録と言われています。

 このこのエピソードからも分かるように、片方で敵の刀を防御し、もう片方で攻撃する。
 この攻防一体の構えが評価され、のちの時代に多く使われました。

 例えば戦国時代、織田信長好んでこの構えを使い、日本の戦争を変えたと言われています
 また明治維新の時にも、多くの侍たちに使われ、外国から来た黒船を何隻も沈めたことは、皆さんのご存じの通りです。

 最近までこの記録は偽物だと思われていましたが、他の資料が見かったことで研究が進み、この記録は本物であることが判明しました。

 では最後に一つ。
 分かっているとは思いますが、大嘘です。
 信じないでね。

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