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「少し待ってて」
 そう言われて待つこと、二十分。
 妻はいまだに帰ってくる気配がない。
 私の我慢はそろそろ限界だ。
 トイレに行きたくてたまらない。
 早く帰ってきて欲しい。
 どうしてこうなったのだろうか。
 話は一時間前にさかのぼる。

 私はこの度、妻の買い物の荷物持ちとして、近所のスーパーへやってきた。
 なんでも『このスーパーで近年まれにみるすごいセール行われる』という情報を得た妻は、私を荷物持ちとして連れてきたのだ。
 普段家事を任せっきりなので、これくらいお安い御用とばかり了承した。
 だが妻に言わせれば、結局のところマアマアぐらいのセールだったらしい。

 とはいえセールはセールなのでたくさんの物品を買い込み、私は荷物持ちとして過不足なく運用された。
 そして車の後部座席に荷物を山の様に積んでいく。
 積み終わった後、さすがに買いすぎではなかろうかと、物思いにふけっている時に妻は言った。
「買い忘れたものがあったわ。少し待ってて」
「分かった」
 たしかそのような会話だったと思う。

 特に考えもなく受け入れたのだが、それが間違いだった。
 よく女性は買い物が長いと言うが、妻はそれに輪をかけて長いということを忘れていた。
 そして、もう二十分も待たされている。

 もう二月とはいえ、まだまだ寒い季節である。
 燃料代節約のため、エンジンもかけず寒い車内で待っている。
 こうして寒い車内で待たされるのはクるものがある。
 するとどうなるか?
 トイレが近くなる。
 つまり漏れそう。

 何度もトイレに行こうと思ったのだが、入れ違いになり妻を待たせてしまうかもしれないので、トイレに行けずにいた。
 妻は人を待たすのは好きだが、待たされるのは大嫌いな人間なのだ。
 だから、怒らせるくらいなら、少しくらい待てばいいかと思っていた。
 買い忘れを買うだけなら時間はかからないはずだから。
 だが妻は帰ってこない。
 いつまで待てばいいのか?

「待ってて」
 妻の言葉が頭の中で反芻される。
 なんだか妻が帰ってこないような気がしてきた。
 縁起でもない。
 たかだか買い物帰ってくるに決まっている
 だが頭を振るも、その疑念までは振り払えない。

 こうなれば心を無にしよう。
 そうすれば、気が付いたときには妻は帰ってきているはずだ。
 無、無、無、無、無。
 駄目だ、トイレ行きたい。

 私は一瞬の逡巡の後、車から降りることを決意する。
 妻からは文句は言われるだろうが、漏らすよりましだ。
 そう決意し、降りようとしたところでスマホが震える。
 電話すればよかったのかと思いながらスマホを見ると、SNSでメッセージが来ていた。
『タイムセールがもう少しで始まるので、もう少し待ってて』

 妻には悪いがもう待てない。
 私は車を降りる。 
 私は十分待った。
 あとは尿意がトイレまで待ってくれるだけ。
 私は祈りながら、トイレに向かうのだった。

2/13/2024, 11:28:37 AM