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12/30/2023, 9:53:33 AM

 俺は今、異世界にいた。
 突然女神により、異世界に転移させられたのだ。
 曰く、チートあげるから世界救ってくれ。
 迷惑どころの話ではない。

 私は忙しいのだ。
 とっとと世界を救って元の世界に帰る。
 そして女神にお灸をすえる。

 ただ問題なのは、もらったチートがミカンがたくさん出せるというものだ。
 特にリスクもなく、無制限で、食べれば完全回復するミカンを出せるようになった。
 だから何なんだ、と思わなくもない。
 なぜそれがミカンでないといけないのかとも。

 だが、ある利用方法を思いついた。
 このアイディアなら、世界を救うのもすぐに終わるだろう。
 しかし、倒すべき悪の存在の場所が分からない。
 見渡す限り地平線だけ。
 目を凝らすと、煙のようなものが見えた。
 人がいるかもしれない。
 とりあえず情報収集といこう。

 しばらく歩いていると、物陰から男が現れた。
「金目のものを出しな。
 そうせうれば命だけ―げええええええ」
 盗賊は悲鳴を上げる。
 よかった、これは効くみたいだ。

 私が盗賊にやったこと。
 それは出したミカンの汁で目つぶしである。
 非人道的だという人もいるかもしれない。
 失明するだろうと。
 だが、このミカンを摂取したものは完全回復するのだ。
 失明してもすぐに回復するから問題ない。
 つまり沁みるだけ。
 優しいね。

「沁みるか?やめてほしければ、言うことを聞け」
「誰がそんなことうわあああ、沁みるううううう。
 すみませんでした。いうこと聞きますぅ」
「いいだろう。では街に案内しろ」
「喜んで!」
 こうして私は下僕を一人手に入れた。
 幸先がいい。

 これなら世界を救うのも早いかもしれない。
 そして女神に目つぶしをくらわす。
 奴は私に許しを請うだろう。
 その時が楽しみだ。

 ビクビクする盗賊を横目に、私はミカンを食べながら高笑いをするのだった。

12/29/2023, 9:50:42 AM

 社会人の冬休みは忙しい。
 12月の30日、31日と正月三が日の、計五日間。
 短いとはいえ、休みは休みだ。
 その五日間で普段できないことをしなければいけない。

 社会人ともなれば仕事に時間を取られ、体力も取られる。
 はっきり言って、趣味の時間は格段に減った。
 だが、仕事ごときが私の趣味への情熱の炎を止められると思わないことだ。
 今でも私は趣味に燃えている。

 私はいわゆるオタクである。
 休みの日はアニメかゲームをしている。
 冬休みも見れてないアニメをまとめて見たり、積んでいるゲームをやる予定だ。
 いや、予定だった。

 休みを明日に控えた夕方、遊び倒す準備をしていると、突然女神が現れた。
「私はある世界の女神をしています。
 異世界というものが好きだと伺いました。
 いまから私の世界に転移させるので、世界を救ってください。
 安心してください。
 チートをあげるので、あなたの五日間の休みが終わるぐらいで救うことが出来るでしょう」

 気が付くと、見慣れない光景が広がっていた。
 先ほどの女神の言うことは、どうやら本当のようだ。
 『世界を救ってください』。
 女神の言葉を思い出し、あることを決意する。

 とりあえず、女神ぶっとばす。
 何が異世界だ。
 何が休みが終わるくらいだ。
 こっちは忙しいっての。
 とっと終わらせて、迎えに来る女神に一発ドついて、ケジメをつけてもらう。

 そしてそこから趣味の時間だ。
 社会人の冬休みは忙しいのだ。

12/28/2023, 9:57:39 AM

 昔、国語の教科書に載っていた、狐が手袋を買いに行く話が好きだった。
 小学生の時に読んだと思うが、今の小学生はその話を習うのだろうか?
 子供のいない私には確認しようがない。

 あの話は今でも覚えている。
 小学生の頃のことはほとんど覚えていないのに、この話だけははっきり覚えている。
 自分のことながら他人事のように言うが、何度も読んだのだろう。

 なぜ突然このことを思い出したのかというと、目の前に子狐が現れたからだ。
 きれいな毛並みで、とても野良とは思えない。
 その大きな目で何かを訴えてくるように、こちらを見つめてくる。

 食べ物が欲しいのだろうか?
 欲しがっても食べ物を持ってないからあげられないし、あげてちゃ駄目なんだけど……。
 何も持っていないという意思表示で、両手をあげて手のひらを狐に見せる。
 鹿せんべいを持っていないときの、鹿へのアピール方法だ。
 だが伝わらなかったのか、子狐は動こうとしない。
 どうしよう。

 お互いじっと見つめ合っていたが、何かに気づいたのか子狐はこちらに近づいてきた。
 動揺して固まっていると、狐が何かを咥えてことに気づいた。
 さっきまで何も咥えてなかったはずだが、不思議である。
 そして子狐は私の足元に、ポトンと咥えた物を落とす。
 くれるのか?

 しゃがんで落とした物を手に取ると、それは手ぶくろだった。
 さっき私が手を見せた行為を、手ぶくろが欲しいと勘違いしたのだろうか。
 それにしても、なんで手ぶくろを持っているんだ。
 いろいろ考えていると首元がふっと寒くなる。

 視線を上げると、遠くで子狐が私のマフラーを咥えているのが見えた。
 やられた。
 私は狐を追いかけようとしたが、すぐに物陰に入り姿が見えなくなる。
 どうやらマフラーは諦めなければならないようだ。

 なるほど、狐たちも寒いからマフラーが欲しかったということか。
 気持ちは分かるが今度は私が寒いのだけど……。

 狐にもらった手ぶくろをみる。
 しかし、明らかに小さく私が使えるようなものではなかった。
 子供用かな。

 しかしどこかで見覚えがある手ぶくろだ。
 と思っていると、あることに気づく。
 これは童話に出てくる狐の手ぶくろだ。
 見覚えがあるはずである。

 もしかして狐の手ぶくろを作る人がいるのだろうか。
 そんな事を考えて、ちょっとほっこりしながら家に帰った。
 その帰り道は、なぜか少しも寒くなかった。

 狐につままれるような話でした。

12/27/2023, 9:45:05 AM

 スーパーの卵の値段を見て、大きくため息をつく。
 最近どうにも卵の値段が高い。
 変わらないものはないとは言えど、やはり変わらないでいて欲しいものはある。

 卵の値段以外もいろいろ変わった。
 他の食材や、光熱費、社会保険料、ガソリン。
 悪い方にばかり変わっていく。

 自分の給与は変化がないというのに、これは一体どういうことか?
 世の中の不公平のはいつになっても変わらない。
 これを一番変えて欲しいんだけどなあ。

 頭の中で、愚痴を言っていると、小学三年生になったばかりの息子が買い物かごに何かを入れたのが見える。
 見なくても分かる。
 お菓子だ。

「お菓子は買わないって言ったでしょ」
「お菓子じゃないよ」
 違うと言われたので、かごの中を見る。
 お菓子だった。

「お菓子じゃん」
「それはママへのプレゼント」
 プレゼントと言われれば嬉しいが、ママはダイエット中なのでお菓子を食べません。
 知ってるよね。

「僕のはこっち」
 と、指をさした方を見ると、小さなノートが入っていた。
「ノート?何するの?」
「勉強」

 べん、きょう?
 私は一瞬耳を疑う。
 君、勉強嫌いだよね。

「本当に勉強するの?
 『もう勉強しない!』って、この前言ってたじゃん」
「んー、最近勉強が楽くなってきた」
「へぇー」

 褒めるかどうか、悩みどころだ。
 本当に勉強する気があるのかもしれないが、実際にするかは別問題だ。
 ソースは学生時代の私。
 少し考えて、結論を出す。
 よし、おだてて勉強をさせる方向で行こう。

「すごい。勉強楽しくなっちゃったか。
 じゃあ、勉強しないとね」
 そう言うと、息子は嬉しそうに笑う。

 レジに向かう間も、ほめちぎり勉強のやる気を出す。
 この様子を見れば、家に帰っても勉強をするはずだ。
 一時間くらいは…。

 しかし、この息子が勉強したいなんて言うとはね。
 小学生に入ってから、勉強が嫌いだ嫌いだって言っていたのに変わるものだ。
 いい先生が担任になったのだろうか。
 変わらないものはない、ということか。
 よい方向に変わったことに、少しうれしくなる。

 しかも息子が率先して買ったものを袋詰めしてくれている。
 成長したなぁ。
 感心しながら様子を見ていると、あることに気づく。
 なんと、お菓子が二つに増えていた。

 君、そういうところは本当に変わらないよね。

12/26/2023, 9:57:01 AM

 世の中の皆様の中には、クリスマスの日に恋人と過ごす人も多いだろう。
 だがクリスマスは私にとって、一年のうち最も気が張る一日である。

 別に恋人の彼氏が嫌いなわけではない。
 彼は毎年12月24日の夜は、仕事で出かけてしまう。
 そして翌日25日、仕事を終えて疲労困憊の彼を、いろいろフォローしないといけないからだ。
 勘違いしないでいただきたいが、別にフォローするのが嫌なわけではない。

 私はドジな性格で、むしろクリスマス以外はフォローしてもらっている。
 なので、一日だけ彼の世話をするのは、むしろ恩返しになり嬉しいのだ。

 じゃあ、なぜ気が張るのか。
 彼には大きな秘密があるのだが、それを知らないフリをしないといけない。
 その秘密とはなにか、言わなくても分かるだろう。
 そう、恋人はサンタクロースなのです(ばーん)。

 一度軽くカマをかけたことがあるのだが、その時とんでもない絶望の顔をしていたので、バレてはいけないのだろう。
 もちろん普段は秘密がばれないように、うまく立ち回っている。
 付き合ってから、初めてのクリスマスまで少しも疑いもしなかった。

 でも、クリスマスの日だけは、疲労のために彼はポンコツになる。
 サンタの服が脱いだまま彼の部屋に投げてあったり、プレゼントを配るための子供のリストが投げてあったり。
 そういえば、トナカイを連れて帰ったときもあるな。

 そのあたりまでは‘疑惑’レベル、というか疑惑だと信じたかった。
 決め手は、迎えに来てくれと言って迎えに行くと、空飛ぶソリから降りているところを目撃してしまったことだ。
 あれは言い訳できんよ。
 何も気づいていないフリをするのは大変なのだ。

 そして、今年のクリスマスの日、彼の部屋の前までやって来た。
 一度深呼吸する。

 大丈夫、私はあらゆる状況を想定して、イメージトレーニングした。
 どんなに予想外のことがあっても、なんとか出来たじゃないか。
 今年もうまく切り抜けることが出来る。
 そう何度も自分に言い聞かせる。

 そしてもう一度深呼吸して、呼び鈴を鳴らす。
 少しの静寂ののち、彼がドアを開けて迎え入れてくれる。
 その彼を見て、私は固まってしまう。
 さっそくハプニングだ。

 今日の彼は、着替えていないのかサンタ服のまま。
 なんとかリアクションせずに部屋に入ると、部屋の中にはトナカイが3匹いた!
 思わず目をそらすと、その先にはソリがフワフワ浮いている。
 よく見れば、ソリの中に酔いつぶれた知らないおじいさんがいる。

 自分でも顔が引きつっているのが分かる。
 これは想定外だ。

 これ、どうやって知らんぷりしよう。

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