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 昔、国語の教科書に載っていた、狐が手袋を買いに行く話が好きだった。
 小学生の時に読んだと思うが、今の小学生はその話を習うのだろうか?
 子供のいない私には確認しようがない。

 あの話は今でも覚えている。
 小学生の頃のことはほとんど覚えていないのに、この話だけははっきり覚えている。
 自分のことながら他人事のように言うが、何度も読んだのだろう。

 なぜ突然このことを思い出したのかというと、目の前に子狐が現れたからだ。
 きれいな毛並みで、とても野良とは思えない。
 その大きな目で何かを訴えてくるように、こちらを見つめてくる。

 食べ物が欲しいのだろうか?
 欲しがっても食べ物を持ってないからあげられないし、あげてちゃ駄目なんだけど……。
 何も持っていないという意思表示で、両手をあげて手のひらを狐に見せる。
 鹿せんべいを持っていないときの、鹿へのアピール方法だ。
 だが伝わらなかったのか、子狐は動こうとしない。
 どうしよう。

 お互いじっと見つめ合っていたが、何かに気づいたのか子狐はこちらに近づいてきた。
 動揺して固まっていると、狐が何かを咥えてことに気づいた。
 さっきまで何も咥えてなかったはずだが、不思議である。
 そして子狐は私の足元に、ポトンと咥えた物を落とす。
 くれるのか?

 しゃがんで落とした物を手に取ると、それは手ぶくろだった。
 さっき私が手を見せた行為を、手ぶくろが欲しいと勘違いしたのだろうか。
 それにしても、なんで手ぶくろを持っているんだ。
 いろいろ考えていると首元がふっと寒くなる。

 視線を上げると、遠くで子狐が私のマフラーを咥えているのが見えた。
 やられた。
 私は狐を追いかけようとしたが、すぐに物陰に入り姿が見えなくなる。
 どうやらマフラーは諦めなければならないようだ。

 なるほど、狐たちも寒いからマフラーが欲しかったということか。
 気持ちは分かるが今度は私が寒いのだけど……。

 狐にもらった手ぶくろをみる。
 しかし、明らかに小さく私が使えるようなものではなかった。
 子供用かな。

 しかしどこかで見覚えがある手ぶくろだ。
 と思っていると、あることに気づく。
 これは童話に出てくる狐の手ぶくろだ。
 見覚えがあるはずである。

 もしかして狐の手ぶくろを作る人がいるのだろうか。
 そんな事を考えて、ちょっとほっこりしながら家に帰った。
 その帰り道は、なぜか少しも寒くなかった。

 狐につままれるような話でした。

12/28/2023, 9:57:39 AM