信頼しあう二人が、心と心を重ねないと使うことが出来ない剣がある。
子供の頃にそんな事を聞いて、そんなカッコいい剣を使いたいと思った。
それを親に言うと、信頼出来る人が出来たら使わせてくれると約束してくれた。
それを真に受け、信頼出来る人を探した。
子供だったのだ。
けれど、簡単に見つからないからこそ、信頼というのは尊い。
それに気づいた大人になってからも、探し続けたが見つかることはなかった。
諦めかけたその時、彼女に出会った。
初めて会った時は、ただの知り合いの知り合いだった。
だが、何回か会い、話をしているうちに意外にも話が合い意気投合した。
そして信頼関係を築くのに時間はかからなかった。
彼女と出会った2年後、ついに例の剣を握れる日がやってきた。
そのとき、初めて剣の話をした。
馬鹿にされると思ったが、実は自分も…と言って恥ずかしそうにしていた。
似た者同士のようだ。
式は順調に進み、係の者から例の剣が渡される。
一緒に頑張ろうね。
彼女は俺だけに聞こえるようにささやく。
彼女と一緒にこの日を迎えたことを、心の底から嬉しく思った。
「次は、新郎新婦のケーキご入刀です。
皆様、ご祝福下さい」
恋人は俺のことを、よくミスターポーカーフェイスと呼ぶ。
何でもないフリがうまいと言いたいらしい。
確かに、俺は感情が薄いという自覚はある。
この前一緒に激辛カレーを食べさせられた時も、ほとんど動じなかったくらいだ。
一度彼女に、退屈だろうと聞いたことがある。
だが、クールなのがいいとのことだ。
そしていつかその表情を崩させるのが夢だとも言っていた。
道理でよくイタズラを仕掛けられるはずである。
まあ、彼女が良いならそれで良いのだ。
こんな自分にとって、よくできた恋人だと思う。
付き合ってから半年後、彼女の誕生日が近づいてきた。
付き合ってから初めての誕生日だったので、サプライズでプレゼントをすることを思いつく。
さり気なく欲しいものを聞き出し、プレゼントを買う。
だがプレゼントを買ってからというもの、気が気ではなかた。
自分にこんな感情があるということに驚いたくらいだ。
かなり挙動不審だったと思うが、特に彼女から聞かれることはなかった。
まさか自分のポーカーフェイスに感謝する日が来るとは!
そして誕生日当日、タイミングを見計らって、プレゼントを渡す。
だが喜んでいても、驚いた様子はなかった。
不思議に思って、彼女に聞いた。
「だって、何かあるって丸わかりだったもの。
気付かないフリは大変だったわ」
だが、俺は彼女の様子に全く気づかなかった。
どうやら彼女は、俺よりも何でもないフリが上手なようだ。
「ゾンビってさ、食事じゃなくて仲間を増やすために噛みむっていう説があるらしいわよ」
「それ、今言うことか?」
相棒が馬鹿な事を言い始めた。
無理もない。
今まさに、そのゾンビに建物を囲まれているのだから。
「もちろん必要なこと。敵を知ればーってよく言うでしょ」
「じゃあ自分の事も知らなきゃな…。弾は残ってるか?」
「無いわ」
「クソッタレ」
万事休すだ。
「私、思ったの。なんで仲間増やしたいんだろうって」
「何が言いたい」
思わず相棒の顔を見る。
「もしかしたら淋しいんじゃないかしら」
「あれだけいるのにか」
俺は窓の外を見る。
見渡す限りゾンビばかりだ。
「逆に、そう逆にあれだけいるからこそ、一人だと思ってしまうのよ。あなたも経験ないかしら」
そう言われて、考えてみる。
「まあ心当たりはある。知らない町の雑踏で急に一人であることを意識する、というやつか」
「そんな感じ」
「なるほど、興味深い。こんな状況でなかったらもっと聞きたいよ」
そう俺達に残された時間は少ない。
「だがどうする?俺達にアイツラの孤独を癒せってか」
「それはもちろん彼ら自身に解決してもらうわ」
「何か策はあるのか?」
「ええ、互いに互いを認識してもらうの」
「どうやって?」
「任せて」
◆ ◇ ◆
俺達は扉をタイミングよく開けて数体のゾンビを建物の中にいれる。
入ってきたのを確認して、俺達は奥へ逃げる。
ゾンビは疑うこともなく、逃げる俺達を追ってきた。
だが俺達はゾンビを迎えうつ仕掛けを用意していた。
所定の位置に同時にいないと開かない扉など、力を合わせないと進めない仕掛けを何個も作ったのだ。
初めは偶然で進めても、次第に仕掛けが難しくなっていく。
途中から進歩が悪くなり、これは駄目かと思い始めた。
だが次第に彼らはお互いを意識するようになり、難しい仕掛けを難なく突破していく。
そうして彼らはゴールへたどり着き、建物の外へとでる(一方通行)。
だか外へと出たゾンビたちは、再び建物に侵入しようとはしなかった。
当然だ。
彼らは自らが一番欲しかったものを手に入れたのだ。
彼らは手に入れた仲間たちとともにどこかへ去っていった。
「成功ね」
「そうだな」
本当に成功するとは思わなかった。
なるほど。これを繰り返せば、襲われなくなるだろう。
だが。
「この見渡す限りのゾンビ、全部やるのか…」
「やるしか無いのよ」
「まじかよ」
「てことで、あの仕掛け改良しようか。
無駄が多いし、効率化を図りましょう。
さあ、ゾンビが私達を待ってるわ」
相棒は楽しげに歩いていく。
「働くのは俺なんだがな」
俺はこれから行う労働にウンザリする
大きなため息がこぼれる。
俺は仲間にするやつを間違えたかもしれない
「手を繋いでいた宇宙人のことを思い出すなあ」
僕は思ったことを口に出す。
「うん?ああ、二人の大きな男の人と手を繋いでいるヤツ?」
「そうそれ!」
パパはすぐに分かってくれた。
さすがパパ。
でもママは分からなかったみたいだった。
「連れ去られる宇宙人だよ」
パパがそう言うと、ああアレねって言ったから知ってるみたいだ。
「でもあれ、合成写真だって。しかもドイツの雑誌のエイプリルフール記事」
パパが嫌な事をいう。
「もー夢壊さないでよ」
「次の週でネタバラシしたら、送られて来た抗議文みたいなこと言うんじゃない」
僕が文句を言うと、変なツッコミが返ってきた。
「それでなんで宇宙人を思い出したの?」
パパが聞いてくる。
「今、僕はあの宇宙人みたいだなって」
僕はパパとママの手を繋いでいる。
あの写真みたいに。
「それで、あの宇宙人の気持ち、ちょっとわかるなあって思って」
「宇宙人の気持ち?」
パパとママが不思議そうにこっちを見ていた。
「どんな気持ちだと思ったの?」
ママが聞いてくる。
「手が疲れるなあって」
そう言うと、パパとママは楽しそうに笑った。
「疲れちゃったか。じゃあ抱っこしちゃうぞ」
そう言ってパパは僕を抱っこした。
「これで宇宙人君は疲れないね」
パパは笑っている。
「ダメ」
僕はダメ出しする。
「何がダメなの?」
パパが不思議そうに聞いてくる。
「ママが一人ぼっち。ママ、手を繋いで」
ありがとう、ごめんね。
私は心の中で、彼に詫びる。
私は、スパイだ。
彼の勤める会社の機密情報を得るため、彼に近づいた。
いつもの仕事。
用が済めばバイバイ。
そのはずだった。
でも彼は私にとても良くしてくれた。
初めはシメシメと思ったものだが、次第に罪悪感がめばえてきた。
今では彼への申し訳無さでいっぱいだ。
何故そんなに良くしてくれるのか、一度聞いたことがある。
「僕が、そうしたいだけだよ」
それしか言わなかった。
私は良心の呵責で心が押しつぶされそうだった。
でもその関係も今日で終わり。
これから彼に全てを話す。
会う約束をしたレストランで待っていると、時間通りに彼はやってきた。
そして私は告白する。
自分がスパイであると…
それを聞いた彼は驚いた顔をして、少し悩んだあと私に微笑んだ。
「話してくれてありがとう、でもごめんね。
実は君にどうしても言えなかった秘密があるんだ」
私は驚いた。
まだ私の知らない情報があったとは。
「実は君と会う少し前に会社をクビになってね。
君に話した情報は全部ウソなんだ。
本当にごめんね」