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 ありがとう、ごめんね。
 私は心の中で、彼に詫びる。
 私は、スパイだ。
 彼の勤める会社の機密情報を得るため、彼に近づいた。

 いつもの仕事。
 用が済めばバイバイ。
 そのはずだった。

 でも彼は私にとても良くしてくれた。
 初めはシメシメと思ったものだが、次第に罪悪感がめばえてきた。
 今では彼への申し訳無さでいっぱいだ。

 何故そんなに良くしてくれるのか、一度聞いたことがある。
「僕が、そうしたいだけだよ」
 それしか言わなかった。
 私は良心の呵責で心が押しつぶされそうだった。

 でもその関係も今日で終わり。
 これから彼に全てを話す。

 会う約束をしたレストランで待っていると、時間通りに彼はやってきた。
 そして私は告白する。
 自分がスパイであると…

 それを聞いた彼は驚いた顔をして、少し悩んだあと私に微笑んだ。
「話してくれてありがとう、でもごめんね。
 実は君にどうしても言えなかった秘密があるんだ」

 私は驚いた。
 まだ私の知らない情報があったとは。

「実は君と会う少し前に会社をクビになってね。
 君に話した情報は全部ウソなんだ。
 本当にごめんね」

12/9/2023, 9:33:21 AM