「手を繋いでいた宇宙人のことを思い出すなあ」
僕は思ったことを口に出す。
「うん?ああ、二人の大きな男の人と手を繋いでいるヤツ?」
「そうそれ!」
パパはすぐに分かってくれた。
さすがパパ。
でもママは分からなかったみたいだった。
「連れ去られる宇宙人だよ」
パパがそう言うと、ああアレねって言ったから知ってるみたいだ。
「でもあれ、合成写真だって。しかもドイツの雑誌のエイプリルフール記事」
パパが嫌な事をいう。
「もー夢壊さないでよ」
「次の週でネタバラシしたら、送られて来た抗議文みたいなこと言うんじゃない」
僕が文句を言うと、変なツッコミが返ってきた。
「それでなんで宇宙人を思い出したの?」
パパが聞いてくる。
「今、僕はあの宇宙人みたいだなって」
僕はパパとママの手を繋いでいる。
あの写真みたいに。
「それで、あの宇宙人の気持ち、ちょっとわかるなあって思って」
「宇宙人の気持ち?」
パパとママが不思議そうにこっちを見ていた。
「どんな気持ちだと思ったの?」
ママが聞いてくる。
「手が疲れるなあって」
そう言うと、パパとママは楽しそうに笑った。
「疲れちゃったか。じゃあ抱っこしちゃうぞ」
そう言ってパパは僕を抱っこした。
「これで宇宙人君は疲れないね」
パパは笑っている。
「ダメ」
僕はダメ出しする。
「何がダメなの?」
パパが不思議そうに聞いてくる。
「ママが一人ぼっち。ママ、手を繋いで」
ありがとう、ごめんね。
私は心の中で、彼に詫びる。
私は、スパイだ。
彼の勤める会社の機密情報を得るため、彼に近づいた。
いつもの仕事。
用が済めばバイバイ。
そのはずだった。
でも彼は私にとても良くしてくれた。
初めはシメシメと思ったものだが、次第に罪悪感がめばえてきた。
今では彼への申し訳無さでいっぱいだ。
何故そんなに良くしてくれるのか、一度聞いたことがある。
「僕が、そうしたいだけだよ」
それしか言わなかった。
私は良心の呵責で心が押しつぶされそうだった。
でもその関係も今日で終わり。
これから彼に全てを話す。
会う約束をしたレストランで待っていると、時間通りに彼はやってきた。
そして私は告白する。
自分がスパイであると…
それを聞いた彼は驚いた顔をして、少し悩んだあと私に微笑んだ。
「話してくれてありがとう、でもごめんね。
実は君にどうしても言えなかった秘密があるんだ」
私は驚いた。
まだ私の知らない情報があったとは。
「実は君と会う少し前に会社をクビになってね。
君に話した情報は全部ウソなんだ。
本当にごめんね」
ある少女の部屋の片隅で、一体の髪のキレイな市松人形が静かに佇んでいました。
その人形は少女のために買われ、始めの内はとても可愛がられていました。
しばらくして髪が伸びてくる様になってからは、少女は気味悪がり、触らなくなってしまいました。
ある日のこと、少女は人形がいつもと違うことに気づきました。
なんと、長かった人形の髪が短く切られていたのです。
そのことを両親に報告しますが、不思議がるばかりで、何も分かりませんでした。
不気味に思いつつも、特に何もすることはなく月日が経ちました。
その間にも人形の髪がどんどん伸び続けました。
少女は思いました。
この人形を監視すれば、髪が短くなった理由が分かるのではないかと。
それからというもの、少女はずっと人形を監視しました。
ある日、監視の疲れで寝てしまったときのことです。
シャッキン、シャッキン、シャッキン。
なにか金属がこすり合う音で目が覚めました。
少女が目を開けると、とても驚きました。
なんと人形が、自分で髪を切っていたのです。
それを見て少女は恐怖ではなく、怒りを覚えました。
そして少女は人形の持っていたハサミを奪い取り、そして―
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「そして、その人形の髪を切ってあげたの。だって雑に切って、キレイな髪が台無しになっていてね。許せなかったのよ」
「へえ、それが初めての体験なんだ?」
「そうなの。うまく切れなかったけど、それでも喜んでくれてね」
「それが散髪屋を始めた理由?」
「そういうこと」
少女は客と談笑していた。
少女は慣れた手つきで、客の髪を切り上げていく。
「よし完成。鏡で確認してみて」
「お、いい感じ。ありがとう」
そう言うと、客は満足したようにお礼をいう。
「下ろしてあげるね」
そう言って少女は、客の小さな体を抱えあげ、椅子から下ろす。
「いい出来だよ。他の人形たちにも宣伝しておくよ」
「ありがとう。また来てね」
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ここは人形専門の散髪屋。
この散髪屋は、部屋の片隅で営業しています。
この散髪屋の評判を聞きつけ、沢山の人形がここに訪れ、そして満足して帰っていかれました。
髪でお悩みの人形の皆様。
どうぞ、この散髪屋にお越し下さい。
あなたのことを、この部屋の片隅でお待ちしております。
「おはよう。おや我がライバルの葵さん、なにか困ってるようね。どうしたの?」
「あ、親友の友子ちゃん。おはよう」
「親友じゃないから」
「友子ちゃんってば天邪鬼なんだから。
実はね、書く習慣っていうアプリで、お題に『逆さま』が出たの。でも何も思い浮かばなくて…」
「確かに、素直で箱入りで、何度騙されても人を疑う事を知らない葵さんには難しいかもね」
「今さり気なくディスらなかった?本当に親友じゃないかもしれない」
「親友じゃないのよ。
だけど大丈夫。私が良いことを教えてあげよう」
「ホントに。助かるよ。やっぱり親友だね」
「違うから。悩み事のせいで、力が発揮できないあなたに勝っても嬉しくないのよ」
(素直じゃないなあ)
「何よその顔。やっぱり教えるのやめようかしら」
「…さすが私のライバル」
「分かればいいのよ」
(チョロいな…)
「それでアイデアというのはね。股のぞきというものよ」
「股のぞき!聞いたことある」
「逆さまになって、股を覗いて景色を見ると、景色の見え方が変わるの。
葵さんはあの名誉あるイグノーベル賞の話題で聞いたことがあるのかもね」
「なるほど。イグノーベルで聞いたのかもしれない」
「それにイグノーベル賞もノーベル賞の一種の逆さまみたいなものだから、そこを広げると良いと思うわ」
「さすが友子ちゃん。完璧ね。でも一つ穴があるわ」
「穴?穴なんてあるかしら」
「うん。締切の夜七時がもうそこに迫ってるの」
「えっ」
「だから、調べる時間が無くて、このまま書くしか無い」
「このまま?」
「そう、このまま。
さっきから逆さまを言ってる友子ちゃんのことを書くよ」
「待って、葵さん。私は逆さまではないわ」
「大丈夫。友子ちゃんはそのままでも面白いから」
「心配してるのはそこではないわ」
「友子ちゃん。私たち親友だよね。だから書いていいよね!」
「…本当に親友じゃないかもしれないわ」
その夜は全く寝付けなかった。
もうすぐ初めての子供が生まれるのだ。
眠れないほど緊張していた。
このままいても仕方がないので、少し気分を変えるため、ベットからから抜け出す。
誰かいるわけでもないが、なんとなく静かに歩いて寝室を出る。
寝室から出て廊下を歩き台所へ行く。
真夜中なので、物音は自分の足音だけ。
草木も眠るとはよく言ったものだ。
お茶を出そうと、冷蔵庫を開ける。
思いの外、喉が渇いていたらしく、水がとても美味しい。
ふと台所の窓から外を見る。
何も映し出さない、真っ暗な闇。
このあたりは田舎なので、こんな夜中には車は通ることはない。
音もせず光もない。
まるで世界に自分だけのようだ。
カタと音がしたので後ろを振り向くと、飼い猫のミケがいた。
物音で起こしたかとも思ったが、よく考えれば夜は彼女のテリトリーである。
おそらく夜のパトロールであろう。
御苦労なことだ。
しかし、私を見るやいなや走ってきて遊びを催促するのだが、ミケはじっと見ているだけだった。
よく見ると、なんだか眠そうに見える。
昼間寝てないのだろうか?
「眠いのか?」
そう聞いても、ミケはこちらを見るだけで何も答えない。
するとミケは私に背を向けて歩き出す。
数歩歩いて、こちらを見る。
ついてこいって事だろう。
ミケの後ろをついて行くが、家の中を歩くばかりで一向に目的地に着かない。
それにいつもは走っていくのに、歩いているだけだ。
しばらく歩いて寝室のドアの前に座る。
開けろってことらしい
ドアを開けると、スルリと部屋の中に入っていき、妻の寝る場所で横になっていた。
そこで気づいた。
ミケは、子供が生まれることを知っているのだ。
だから子供のように走らず、落ち着きのある大人のように歩いていたのだ。
私はミケを優しく撫でる
「そっか。お前お姉ちゃんになるもんな。大人っぽかったぞ」
どうやら緊張しているのは、私だけではないようだ。
「たくさん可愛がろうな」
そう言うと、ミケは眠そうな顔でニャアと鳴いたのだった