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12/10/2023, 9:49:36 AM

「手を繋いでいた宇宙人のことを思い出すなあ」
 僕は思ったことを口に出す。

「うん?ああ、二人の大きな男の人と手を繋いでいるヤツ?」
「そうそれ!」
 パパはすぐに分かってくれた。
 さすがパパ。
 でもママは分からなかったみたいだった。
「連れ去られる宇宙人だよ」
 パパがそう言うと、ああアレねって言ったから知ってるみたいだ。

「でもあれ、合成写真だって。しかもドイツの雑誌のエイプリルフール記事」
 パパが嫌な事をいう。
「もー夢壊さないでよ」
「次の週でネタバラシしたら、送られて来た抗議文みたいなこと言うんじゃない」
 僕が文句を言うと、変なツッコミが返ってきた。

「それでなんで宇宙人を思い出したの?」
 パパが聞いてくる。
「今、僕はあの宇宙人みたいだなって」
 僕はパパとママの手を繋いでいる。
 あの写真みたいに。
「それで、あの宇宙人の気持ち、ちょっとわかるなあって思って」
「宇宙人の気持ち?」

 パパとママが不思議そうにこっちを見ていた。
「どんな気持ちだと思ったの?」
 ママが聞いてくる。
「手が疲れるなあって」
 そう言うと、パパとママは楽しそうに笑った。

「疲れちゃったか。じゃあ抱っこしちゃうぞ」
 そう言ってパパは僕を抱っこした。
「これで宇宙人君は疲れないね」
 パパは笑っている。

「ダメ」
 僕はダメ出しする。
「何がダメなの?」
 パパが不思議そうに聞いてくる。
「ママが一人ぼっち。ママ、手を繋いで」

12/9/2023, 9:33:21 AM

 ありがとう、ごめんね。
 私は心の中で、彼に詫びる。
 私は、スパイだ。
 彼の勤める会社の機密情報を得るため、彼に近づいた。

 いつもの仕事。
 用が済めばバイバイ。
 そのはずだった。

 でも彼は私にとても良くしてくれた。
 初めはシメシメと思ったものだが、次第に罪悪感がめばえてきた。
 今では彼への申し訳無さでいっぱいだ。

 何故そんなに良くしてくれるのか、一度聞いたことがある。
「僕が、そうしたいだけだよ」
 それしか言わなかった。
 私は良心の呵責で心が押しつぶされそうだった。

 でもその関係も今日で終わり。
 これから彼に全てを話す。

 会う約束をしたレストランで待っていると、時間通りに彼はやってきた。
 そして私は告白する。
 自分がスパイであると…

 それを聞いた彼は驚いた顔をして、少し悩んだあと私に微笑んだ。
「話してくれてありがとう、でもごめんね。
 実は君にどうしても言えなかった秘密があるんだ」

 私は驚いた。
 まだ私の知らない情報があったとは。

「実は君と会う少し前に会社をクビになってね。
 君に話した情報は全部ウソなんだ。
 本当にごめんね」

12/8/2023, 9:42:53 AM

 ある少女の部屋の片隅で、一体の髪のキレイな市松人形が静かに佇んでいました。
 その人形は少女のために買われ、始めの内はとても可愛がられていました。
 しばらくして髪が伸びてくる様になってからは、少女は気味悪がり、触らなくなってしまいました。

 ある日のこと、少女は人形がいつもと違うことに気づきました。
 なんと、長かった人形の髪が短く切られていたのです。
 そのことを両親に報告しますが、不思議がるばかりで、何も分かりませんでした。

 不気味に思いつつも、特に何もすることはなく月日が経ちました。
 その間にも人形の髪がどんどん伸び続けました。
 少女は思いました。
 この人形を監視すれば、髪が短くなった理由が分かるのではないかと。

 それからというもの、少女はずっと人形を監視しました。
 ある日、監視の疲れで寝てしまったときのことです。

 シャッキン、シャッキン、シャッキン。
 なにか金属がこすり合う音で目が覚めました。
 少女が目を開けると、とても驚きました。

 なんと人形が、自分で髪を切っていたのです。
 それを見て少女は恐怖ではなく、怒りを覚えました。
 そして少女は人形の持っていたハサミを奪い取り、そして―



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「そして、その人形の髪を切ってあげたの。だって雑に切って、キレイな髪が台無しになっていてね。許せなかったのよ」
「へえ、それが初めての体験なんだ?」
「そうなの。うまく切れなかったけど、それでも喜んでくれてね」
「それが散髪屋を始めた理由?」
「そういうこと」

 少女は客と談笑していた。
 少女は慣れた手つきで、客の髪を切り上げていく。
「よし完成。鏡で確認してみて」
「お、いい感じ。ありがとう」
 そう言うと、客は満足したようにお礼をいう。

「下ろしてあげるね」
 そう言って少女は、客の小さな体を抱えあげ、椅子から下ろす。
「いい出来だよ。他の人形たちにも宣伝しておくよ」
「ありがとう。また来てね」


 ✂ ✄ ✂ ✄ ✂ ✄

 ここは人形専門の散髪屋。
 この散髪屋は、部屋の片隅で営業しています。
 この散髪屋の評判を聞きつけ、沢山の人形がここに訪れ、そして満足して帰っていかれました。

 髪でお悩みの人形の皆様。
 どうぞ、この散髪屋にお越し下さい。
 あなたのことを、この部屋の片隅でお待ちしております。

12/7/2023, 9:47:41 AM

「おはよう。おや我がライバルの葵さん、なにか困ってるようね。どうしたの?」
「あ、親友の友子ちゃん。おはよう」
「親友じゃないから」
「友子ちゃんってば天邪鬼なんだから。
 実はね、書く習慣っていうアプリで、お題に『逆さま』が出たの。でも何も思い浮かばなくて…」

「確かに、素直で箱入りで、何度騙されても人を疑う事を知らない葵さんには難しいかもね」
「今さり気なくディスらなかった?本当に親友じゃないかもしれない」

「親友じゃないのよ。
 だけど大丈夫。私が良いことを教えてあげよう」
「ホントに。助かるよ。やっぱり親友だね」
「違うから。悩み事のせいで、力が発揮できないあなたに勝っても嬉しくないのよ」
(素直じゃないなあ)

「何よその顔。やっぱり教えるのやめようかしら」
「…さすが私のライバル」
「分かればいいのよ」
(チョロいな…)

「それでアイデアというのはね。股のぞきというものよ」
「股のぞき!聞いたことある」
「逆さまになって、股を覗いて景色を見ると、景色の見え方が変わるの。
 葵さんはあの名誉あるイグノーベル賞の話題で聞いたことがあるのかもね」
「なるほど。イグノーベルで聞いたのかもしれない」
「それにイグノーベル賞もノーベル賞の一種の逆さまみたいなものだから、そこを広げると良いと思うわ」

「さすが友子ちゃん。完璧ね。でも一つ穴があるわ」
「穴?穴なんてあるかしら」
「うん。締切の夜七時がもうそこに迫ってるの」
「えっ」

「だから、調べる時間が無くて、このまま書くしか無い」
「このまま?」
「そう、このまま。
 さっきから逆さまを言ってる友子ちゃんのことを書くよ」
「待って、葵さん。私は逆さまではないわ」
「大丈夫。友子ちゃんはそのままでも面白いから」
「心配してるのはそこではないわ」
「友子ちゃん。私たち親友だよね。だから書いていいよね!」
「…本当に親友じゃないかもしれないわ」

12/6/2023, 9:36:00 AM

 その夜は全く寝付けなかった。
 もうすぐ初めての子供が生まれるのだ。
 眠れないほど緊張していた。

 このままいても仕方がないので、少し気分を変えるため、ベットからから抜け出す。
 誰かいるわけでもないが、なんとなく静かに歩いて寝室を出る。

 寝室から出て廊下を歩き台所へ行く。
 真夜中なので、物音は自分の足音だけ。
 草木も眠るとはよく言ったものだ。

 お茶を出そうと、冷蔵庫を開ける。
 思いの外、喉が渇いていたらしく、水がとても美味しい。

 ふと台所の窓から外を見る。
 何も映し出さない、真っ暗な闇。
 このあたりは田舎なので、こんな夜中には車は通ることはない。
 音もせず光もない。
 まるで世界に自分だけのようだ。

 カタと音がしたので後ろを振り向くと、飼い猫のミケがいた。
 物音で起こしたかとも思ったが、よく考えれば夜は彼女のテリトリーである。
 おそらく夜のパトロールであろう。
 御苦労なことだ。

 しかし、私を見るやいなや走ってきて遊びを催促するのだが、ミケはじっと見ているだけだった。
 よく見ると、なんだか眠そうに見える。
 昼間寝てないのだろうか?

「眠いのか?」
 そう聞いても、ミケはこちらを見るだけで何も答えない。
 するとミケは私に背を向けて歩き出す。
 数歩歩いて、こちらを見る。
 ついてこいって事だろう。

 ミケの後ろをついて行くが、家の中を歩くばかりで一向に目的地に着かない。
 それにいつもは走っていくのに、歩いているだけだ。

 しばらく歩いて寝室のドアの前に座る。
 開けろってことらしい
 ドアを開けると、スルリと部屋の中に入っていき、妻の寝る場所で横になっていた。

 そこで気づいた。
 ミケは、子供が生まれることを知っているのだ。
 だから子供のように走らず、落ち着きのある大人のように歩いていたのだ。

 私はミケを優しく撫でる
「そっか。お前お姉ちゃんになるもんな。大人っぽかったぞ」
 どうやら緊張しているのは、私だけではないようだ。

「たくさん可愛がろうな」
 そう言うと、ミケは眠そうな顔でニャアと鳴いたのだった

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