その夜は全く寝付けなかった。
もうすぐ初めての子供が生まれるのだ。
眠れないほど緊張していた。
このままいても仕方がないので、少し気分を変えるため、ベットからから抜け出す。
誰かいるわけでもないが、なんとなく静かに歩いて寝室を出る。
寝室から出て廊下を歩き台所へ行く。
真夜中なので、物音は自分の足音だけ。
草木も眠るとはよく言ったものだ。
お茶を出そうと、冷蔵庫を開ける。
思いの外、喉が渇いていたらしく、水がとても美味しい。
ふと台所の窓から外を見る。
何も映し出さない、真っ暗な闇。
このあたりは田舎なので、こんな夜中には車は通ることはない。
音もせず光もない。
まるで世界に自分だけのようだ。
カタと音がしたので後ろを振り向くと、飼い猫のミケがいた。
物音で起こしたかとも思ったが、よく考えれば夜は彼女のテリトリーである。
おそらく夜のパトロールであろう。
御苦労なことだ。
しかし、私を見るやいなや走ってきて遊びを催促するのだが、ミケはじっと見ているだけだった。
よく見ると、なんだか眠そうに見える。
昼間寝てないのだろうか?
「眠いのか?」
そう聞いても、ミケはこちらを見るだけで何も答えない。
するとミケは私に背を向けて歩き出す。
数歩歩いて、こちらを見る。
ついてこいって事だろう。
ミケの後ろをついて行くが、家の中を歩くばかりで一向に目的地に着かない。
それにいつもは走っていくのに、歩いているだけだ。
しばらく歩いて寝室のドアの前に座る。
開けろってことらしい
ドアを開けると、スルリと部屋の中に入っていき、妻の寝る場所で横になっていた。
そこで気づいた。
ミケは、子供が生まれることを知っているのだ。
だから子供のように走らず、落ち着きのある大人のように歩いていたのだ。
私はミケを優しく撫でる
「そっか。お前お姉ちゃんになるもんな。大人っぽかったぞ」
どうやら緊張しているのは、私だけではないようだ。
「たくさん可愛がろうな」
そう言うと、ミケは眠そうな顔でニャアと鳴いたのだった
12/6/2023, 9:36:00 AM