G14

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 その夜は全く寝付けなかった。
 もうすぐ初めての子供が生まれるのだ。
 眠れないほど緊張していた。

 このままいても仕方がないので、少し気分を変えるため、ベットからから抜け出す。
 誰かいるわけでもないが、なんとなく静かに歩いて寝室を出る。

 寝室から出て廊下を歩き台所へ行く。
 真夜中なので、物音は自分の足音だけ。
 草木も眠るとはよく言ったものだ。

 お茶を出そうと、冷蔵庫を開ける。
 思いの外、喉が渇いていたらしく、水がとても美味しい。

 ふと台所の窓から外を見る。
 何も映し出さない、真っ暗な闇。
 このあたりは田舎なので、こんな夜中には車は通ることはない。
 音もせず光もない。
 まるで世界に自分だけのようだ。

 カタと音がしたので後ろを振り向くと、飼い猫のミケがいた。
 物音で起こしたかとも思ったが、よく考えれば夜は彼女のテリトリーである。
 おそらく夜のパトロールであろう。
 御苦労なことだ。

 しかし、私を見るやいなや走ってきて遊びを催促するのだが、ミケはじっと見ているだけだった。
 よく見ると、なんだか眠そうに見える。
 昼間寝てないのだろうか?

「眠いのか?」
 そう聞いても、ミケはこちらを見るだけで何も答えない。
 するとミケは私に背を向けて歩き出す。
 数歩歩いて、こちらを見る。
 ついてこいって事だろう。

 ミケの後ろをついて行くが、家の中を歩くばかりで一向に目的地に着かない。
 それにいつもは走っていくのに、歩いているだけだ。

 しばらく歩いて寝室のドアの前に座る。
 開けろってことらしい
 ドアを開けると、スルリと部屋の中に入っていき、妻の寝る場所で横になっていた。

 そこで気づいた。
 ミケは、子供が生まれることを知っているのだ。
 だから子供のように走らず、落ち着きのある大人のように歩いていたのだ。

 私はミケを優しく撫でる
「そっか。お前お姉ちゃんになるもんな。大人っぽかったぞ」
 どうやら緊張しているのは、私だけではないようだ。

「たくさん可愛がろうな」
 そう言うと、ミケは眠そうな顔でニャアと鳴いたのだった

12/6/2023, 9:36:00 AM