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11/5/2023, 8:30:57 AM

「やった完成だ」
「博士、何ができたのですか」
「助手か。見てくれ。これが哀愁をそそるサソリだ」
「哀愁をそそるサソリですって!?」
「色々な角度で見るといい」
「本当だ。どの角度からも哀愁をそそられます」
「フハハハ。どうだ天才だろう」
「天才です。博士は世界一天才です」
「そうだろうそうだろう。フハハハ。はあ、虚しい」

 博士は近くにあった椅子に座る
「こんなもの作って何になるというのか」
 男はがっくりと肩を落とす。
「いえどこかに需要ありますって。多分」
 助手は博士を励ますが、言い切ることはできなかった。
「諦めてはいけません。足掻きましょう」
「助手よ。若いな」
「いけません、博士。諦めたらそこで試合終了です」
「無理だよ」
「大丈夫です。私がついてますから、さあ行きましょう」

 そして部屋にはサソリ以外誰もいなくなった。
 サソリは静かになった部屋で、自分の存在意義を考えてようとして、やめた。
 何度か考えたが、意味がないとしか思えなかったからだ。
 
 サソリは世界が赤く染まっていることに気がついた。
 ケースの周囲を見渡して、夕日を見つける。
 そしてサソリはずっと夕日を眺めていた。
 夕日が沈むまで、ずっと。




ps
 哀愁をそそるってどういう意味なんですかね。
 だれか教えて欲しい

11/4/2023, 7:43:55 AM

「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「それは白雪姫です」
 鏡は答える。

 私はもう一度同じ質問をする。
「もう一度聞くわ。鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「それは、もちろん貴方様、白雪姫であります」
 私はその答えを聞き、私は笑うのを堪えられなかった。
 そう私が世界で一番美しいのだ。

 この鏡は正直だ。必ず世界一美しい女性が映る。
 稀に私以外に映ることがあるが、すぐに間違いを正すことにしている
 するとまた私が映るのだ。
 こんなに気分のいいことはない。

 かなりお金をかけることになったが、問題ない。
 私が世界で一番美しいことが重要なのだ。

 鏡を見る。
 やはり私は美しい。
 鏡の中の自分は、血と錯覚するほど真っ赤なドレスを身にまとい、邪悪な笑みを浮かべていた。

11/3/2023, 8:32:32 AM

昼食を食べた後の、昼1時からの授業。
私は猛烈な睡魔に襲われていた。
ぽかぽか暖かい気温、古文の朗読という心地良いBGM。
午前中の体育も効いている。
眠りたいという誘惑に負けそうになる。
授業も頭に入らない
そうだ。眠いのなら、いっそ寝てしまえばいい。

しかし寝る前の準備がいる
準備が全てを決めるって誰かが言ってた。
最初に気づかれないように机の上を片付ける。
物があると邪魔な上、落として音を立てる可能性があるからだ
そのまま寝ると丸見えなので、教科書を立てて、目隠しにする。
そして満を持してマイまくらも取り出す。
完璧な寝床だ
では夢の世界へ出発

パアアンという音と供に、頭に衝撃が走る。
「こら寝るな、授業中だぞ」

顔をあげると古文の教師の顔があった。
よくも私の眠りを妨げたな
永遠の眠りにつかせてやろうか

11/2/2023, 9:40:03 AM


「次は、永遠駅(とわ)、永遠駅」
電車のアナウンスで隣りにいる夫と目を合わす。
今日は夫と二人で息子夫婦と孫に会いに来たのだ。

電車に緩やかに速度を落とし停車する。
ドアが開いたので降りようとすると、先に降りた夫が手を差し出す。
私は夫の手を借りながら電車を降りる。
夫は前にもここで転んだ事を覚えていたらしい。
そう、私たちがここに来るのは2回目である

永遠という地名には由来がある。
ここは地形の関係でいつも風が吹いているのだそうだ。
本当に“いつも”なのかは知らないが、私が前に来た時はずっと吹いてたし、今も穏やかに吹いている。

この地名が縁起が良いということで、よく観光客がやって写真をったりと、ちょっとした観光名所だった。
さらに何かシンボルを、ということで小さな鐘が設置された。
これが大当たりし、カップルや新婚がやって来ては鐘を鳴らして愛を誓い合うがブームになったのをよく覚えている。
もちろん私も結婚したばかりの時、夫と一緒に鐘を鳴らし、愛を誓った。

しかし、それは昔の話。
そんな鐘も誰も鳴らすものはいない
流行り物だったのもあるのだろうが、みんな永遠なんてないって分かったのだろう。

私たちもそうだ。
お互い愛するものは一人だけと誓ったというのに、愛するものが増えてしまった。
息子夫婦と孫の3人、愛すべき家族。
誓いは破ったが、悪くない気分である。

気づけば夫と一緒に鐘をぼんやり眺めていた。
同じことを考えていたかもしれない。

しばらく眺めていると、視界の隅にこちらに来る人の姿が見えた。
息子夫婦だ

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
息子に抱かれた孫が元気に挨拶してくる。
たしか五歳になるはずだ。

孫は私達の後ろにある鐘に気づいたようで、じっと見ていた
「それ、ボクもならす」
息子に催促して、鐘の前に移動する。
小さな手で鐘から伸びる紐を引っ張って、鐘を鳴らすと鐘の声が辺りに響いた
その音に満足したのか大きく頷いたあと、手を合わせ始めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんがずっと元気でいますように」

11/1/2023, 9:40:21 AM

「なんか思ってたのと違うな」
俺は友人と一緒に渋谷にやってきた
ハロウィンにかこつけて、日本中の妖怪が集まり、百鬼夜行すると聞いた。
妖怪の妖怪による妖怪だけの世界の顕現。
数時間とはいえ、それはまさに理想郷である
参加すれば酒の席の話になる。
そう思ったのだが、どうも様子が変である。

ここで毎年コスプレイベントをやっていると聞いたのだが、コスプレをしている人間を見ないのだ。
それどころか、警察や陰陽師共が巡回している始末だ。

なぜこんなことに。
本当なら、俺たちは今頃楽しくやっているはずなのに。
電話している友人を見る。
百鬼夜行のこともこいつから聞いて、今知り合いから事情を聞いている。

友人が電話を終えてこっちを見る
「去年、若い奴らが大暴れしただろ。それで、もともと非公式なのもあって、今年は徹底的に潰す事になったらしいぞ」
「これだから人間は」
「若い妖怪も暴れたそうだ」
「‥これだから若いやつは」
俺はため息をつく。
「百鬼夜行のことは?」
「ぬらりひょんの大将も、なんか気が乗らないと言ったらしい」
ぬらりひょんの爺さんの事を思い出す。
あの人、意外と馬鹿騒ぎ好きだもんな。

「こんなことなら池袋でやれば良かったのに‥」
思わず愚痴をこぼす。
「池袋のハロウィンは終わってから気づいたらしい。ニュースになるのは、渋谷ばっかりで池袋とか他のところとかやらないもんな」
「そういえば、俺も最近知ったな」

「じゃあ行くか」
友人が歩き出す。
「どこにだよ」
「そりゃ決まってる。飲みに行く」
あたりを見渡しても開いている居酒屋はない。
「開いている店ないぞ」
「さっき聞いたから大丈夫。オレたちみたいに何も知らないで来た奴らがやけ酒してるってさ」
思わず苦笑する。
「あー、そりゃうまい酒が飲めそうだな」
「間違いない」
二人で笑う。

しばらく歩き、路地の奥に入ったところに、その店はあった。
店に入ると、奥の方に何人か顔見知りが見えた。
すでに出来上がっているようで、隣に行くまで俺たちに気づかなかった。
「よく来た。理想郷へようこそ」
俺たちに気づいた一人が、歓迎の意を表す。
間違いない。
俺たち酒飲みにとって、酒が飲めればどこでも理想郷だ

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