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「次は、永遠駅(とわ)、永遠駅」
電車のアナウンスで隣りにいる夫と目を合わす。
今日は夫と二人で息子夫婦と孫に会いに来たのだ。

電車に緩やかに速度を落とし停車する。
ドアが開いたので降りようとすると、先に降りた夫が手を差し出す。
私は夫の手を借りながら電車を降りる。
夫は前にもここで転んだ事を覚えていたらしい。
そう、私たちがここに来るのは2回目である

永遠という地名には由来がある。
ここは地形の関係でいつも風が吹いているのだそうだ。
本当に“いつも”なのかは知らないが、私が前に来た時はずっと吹いてたし、今も穏やかに吹いている。

この地名が縁起が良いということで、よく観光客がやって写真をったりと、ちょっとした観光名所だった。
さらに何かシンボルを、ということで小さな鐘が設置された。
これが大当たりし、カップルや新婚がやって来ては鐘を鳴らして愛を誓い合うがブームになったのをよく覚えている。
もちろん私も結婚したばかりの時、夫と一緒に鐘を鳴らし、愛を誓った。

しかし、それは昔の話。
そんな鐘も誰も鳴らすものはいない
流行り物だったのもあるのだろうが、みんな永遠なんてないって分かったのだろう。

私たちもそうだ。
お互い愛するものは一人だけと誓ったというのに、愛するものが増えてしまった。
息子夫婦と孫の3人、愛すべき家族。
誓いは破ったが、悪くない気分である。

気づけば夫と一緒に鐘をぼんやり眺めていた。
同じことを考えていたかもしれない。

しばらく眺めていると、視界の隅にこちらに来る人の姿が見えた。
息子夫婦だ

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
息子に抱かれた孫が元気に挨拶してくる。
たしか五歳になるはずだ。

孫は私達の後ろにある鐘に気づいたようで、じっと見ていた
「それ、ボクもならす」
息子に催促して、鐘の前に移動する。
小さな手で鐘から伸びる紐を引っ張って、鐘を鳴らすと鐘の声が辺りに響いた
その音に満足したのか大きく頷いたあと、手を合わせ始めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんがずっと元気でいますように」

11/2/2023, 9:40:03 AM