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11/3/2023, 8:32:32 AM

昼食を食べた後の、昼1時からの授業。
私は猛烈な睡魔に襲われていた。
ぽかぽか暖かい気温、古文の朗読という心地良いBGM。
午前中の体育も効いている。
眠りたいという誘惑に負けそうになる。
授業も頭に入らない
そうだ。眠いのなら、いっそ寝てしまえばいい。

しかし寝る前の準備がいる
準備が全てを決めるって誰かが言ってた。
最初に気づかれないように机の上を片付ける。
物があると邪魔な上、落として音を立てる可能性があるからだ
そのまま寝ると丸見えなので、教科書を立てて、目隠しにする。
そして満を持してマイまくらも取り出す。
完璧な寝床だ
では夢の世界へ出発

パアアンという音と供に、頭に衝撃が走る。
「こら寝るな、授業中だぞ」

顔をあげると古文の教師の顔があった。
よくも私の眠りを妨げたな
永遠の眠りにつかせてやろうか

11/2/2023, 9:40:03 AM


「次は、永遠駅(とわ)、永遠駅」
電車のアナウンスで隣りにいる夫と目を合わす。
今日は夫と二人で息子夫婦と孫に会いに来たのだ。

電車に緩やかに速度を落とし停車する。
ドアが開いたので降りようとすると、先に降りた夫が手を差し出す。
私は夫の手を借りながら電車を降りる。
夫は前にもここで転んだ事を覚えていたらしい。
そう、私たちがここに来るのは2回目である

永遠という地名には由来がある。
ここは地形の関係でいつも風が吹いているのだそうだ。
本当に“いつも”なのかは知らないが、私が前に来た時はずっと吹いてたし、今も穏やかに吹いている。

この地名が縁起が良いということで、よく観光客がやって写真をったりと、ちょっとした観光名所だった。
さらに何かシンボルを、ということで小さな鐘が設置された。
これが大当たりし、カップルや新婚がやって来ては鐘を鳴らして愛を誓い合うがブームになったのをよく覚えている。
もちろん私も結婚したばかりの時、夫と一緒に鐘を鳴らし、愛を誓った。

しかし、それは昔の話。
そんな鐘も誰も鳴らすものはいない
流行り物だったのもあるのだろうが、みんな永遠なんてないって分かったのだろう。

私たちもそうだ。
お互い愛するものは一人だけと誓ったというのに、愛するものが増えてしまった。
息子夫婦と孫の3人、愛すべき家族。
誓いは破ったが、悪くない気分である。

気づけば夫と一緒に鐘をぼんやり眺めていた。
同じことを考えていたかもしれない。

しばらく眺めていると、視界の隅にこちらに来る人の姿が見えた。
息子夫婦だ

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
息子に抱かれた孫が元気に挨拶してくる。
たしか五歳になるはずだ。

孫は私達の後ろにある鐘に気づいたようで、じっと見ていた
「それ、ボクもならす」
息子に催促して、鐘の前に移動する。
小さな手で鐘から伸びる紐を引っ張って、鐘を鳴らすと鐘の声が辺りに響いた
その音に満足したのか大きく頷いたあと、手を合わせ始めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんがずっと元気でいますように」

11/1/2023, 9:40:21 AM

「なんか思ってたのと違うな」
俺は友人と一緒に渋谷にやってきた
ハロウィンにかこつけて、日本中の妖怪が集まり、百鬼夜行すると聞いた。
妖怪の妖怪による妖怪だけの世界の顕現。
数時間とはいえ、それはまさに理想郷である
参加すれば酒の席の話になる。
そう思ったのだが、どうも様子が変である。

ここで毎年コスプレイベントをやっていると聞いたのだが、コスプレをしている人間を見ないのだ。
それどころか、警察や陰陽師共が巡回している始末だ。

なぜこんなことに。
本当なら、俺たちは今頃楽しくやっているはずなのに。
電話している友人を見る。
百鬼夜行のこともこいつから聞いて、今知り合いから事情を聞いている。

友人が電話を終えてこっちを見る
「去年、若い奴らが大暴れしただろ。それで、もともと非公式なのもあって、今年は徹底的に潰す事になったらしいぞ」
「これだから人間は」
「若い妖怪も暴れたそうだ」
「‥これだから若いやつは」
俺はため息をつく。
「百鬼夜行のことは?」
「ぬらりひょんの大将も、なんか気が乗らないと言ったらしい」
ぬらりひょんの爺さんの事を思い出す。
あの人、意外と馬鹿騒ぎ好きだもんな。

「こんなことなら池袋でやれば良かったのに‥」
思わず愚痴をこぼす。
「池袋のハロウィンは終わってから気づいたらしい。ニュースになるのは、渋谷ばっかりで池袋とか他のところとかやらないもんな」
「そういえば、俺も最近知ったな」

「じゃあ行くか」
友人が歩き出す。
「どこにだよ」
「そりゃ決まってる。飲みに行く」
あたりを見渡しても開いている居酒屋はない。
「開いている店ないぞ」
「さっき聞いたから大丈夫。オレたちみたいに何も知らないで来た奴らがやけ酒してるってさ」
思わず苦笑する。
「あー、そりゃうまい酒が飲めそうだな」
「間違いない」
二人で笑う。

しばらく歩き、路地の奥に入ったところに、その店はあった。
店に入ると、奥の方に何人か顔見知りが見えた。
すでに出来上がっているようで、隣に行くまで俺たちに気づかなかった。
「よく来た。理想郷へようこそ」
俺たちに気づいた一人が、歓迎の意を表す。
間違いない。
俺たち酒飲みにとって、酒が飲めればどこでも理想郷だ

10/31/2023, 9:16:20 AM

我はかつて人間どもに恐怖をもたらした大妖怪である。
しかし人間どもに遅れを取り、封印されてしまい、名も奪われた。
しかし、長い時間を経ては強力な封印も綻ぶもの
その綻びを突き封印を破ったのだ
四百年ぶりに肌に触れる空気に、懐かしさを覚える

我を封印した罪を贖ってもらうとしよう
だが力はまだ完全には取り戻せてない
まずは情報収集だ
人里に降りねばなるまい


街に出ると、見知らぬ建物がたくさん建っており、かなりの時間が経っているのが嫌でもわかった。
人通りが多いことに驚くが、色々な見たこともない飾りつけがしてある様子を見るに、祭りのようである
少し歩いてみると、違和感に気づく。
妙なことに人間は見当たらず、妖怪ばかり歩いている
見たことない妖怪もいるが、恐らく外国の奴らなのであろう
しばらく歩いても人間の気配が感じられない
恐らく人間は絶滅したのだ

何故かさみしくなった。
人間どもは、はっきり言って嫌いである。
しかしこの虚しさはなんだ。

もしかしたら、我は人間と戰う時間が好きだったのだろうか。
技と技を競い合い、お互いの優劣を決める
そんな時間は来ないのだ。
まさか、あの頃を懐かしく思う日が来ようとは。

懐かしく思うことは無しにしよう
気持ちを新たに切り替え、情報収集に努める
考えるのはそれからだ。
まずはこの祭、何という祭りなのか
近くにいた、特徴的な角の鬼に話しかける。
すると鬼は不思議そうに答えた。
「知らないなんて珍しいですね。ハロウィンっていうイベントですよ。人間がお化けとかに変装して楽しむんです。ほら、この角取れるでしょ」




10/30/2023, 9:52:40 AM

『よう、オレ。元気か?』
ラインで写真と一緒にメッセージを受信する。
写真はコスプレした家族写真である。
「いいなぁ。僕も池袋のハロウィン行きたかったよ。ボクよ、呪われてしまえ」
俺は、恨みがましくメッセージが返す。
『仕事って言ってたな。頼られる男は大変だな』
相手の返信にちょっとイラッとする。

僕のことを“オレ”と呼び、僕は向こうを“ボク”と呼ぶ。
変な関係だが仕方がない
だって彼は僕の“ドッペルゲンガー”だから。

出会ったのは大学生、卒業旅行の時。
何の前ぶりもなく、ばったり出会った。
これはもう死ぬと直感で感じ、お互い猛ダッシュで逃げた。
そうお互いに。
あちらもヤバいと思ったとあとから聞いた。
向こうも僕のことをドッペルゲンガーと思ったそうだ。
お互い死にたくないので、友人を介し連絡先を交換し、連絡を取り合って出会わないように調整している。

それ以外にも、色々話し合った。
姿以外にも趣味やクセ、好きなアニメは全部同じだった。
違うところもある
もう一人のボクは売れない作家で、僕は会社勤めのサラリーマン。
僕も作家になりたかったが、才能の限界を感じ大学生の時筆を折った。
その選択に後悔はない。
でも彼の方はあきらめずに頑張っているらしい。

つまり彼は、もしあの時違う選択をしていたら、というIFの自分である。
なので身の上を話し合ってると、僕にあったかもしれないもう一つの物語を聞いているような、奇妙な感覚になる。

『オレよ。仕事ばっかしないで家族サービスしろよ』
「分かってる。ボクも遊んでないで仕事頑張れ」
『うるさい。今この瞬間が大事なんだよ』
というメッセージを送ったっきり、反応しなくなった。
いつものやり取りである。

ふと仕事机の上に立ててある写真をみる。
僕が写った家族写真だ
この写真を見るたびに、人生は面白いものだと感じる。

実は、もう一人のボクと同じことが一つある。
それは家族である。
どういう理屈か知らないが、“僕”の妻と子は、“ボク”の妻と子と、ドッペルゲンガーの関係にあるらしい。
あまりに似ているので、会わせてみたら案の定である。

あの時はお互い大笑いし、お互い説教食らった。
やり過ぎと言われれば、たしかにそうだ。
だけどホッとしたこともある
だってそうだろう。
僕と妻と子の間には、彼女たちに出会わないという、もう一つの物語なんて存在しないんだから。



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