『よう、オレ。元気か?』
ラインで写真と一緒にメッセージを受信する。
写真はコスプレした家族写真である。
「いいなぁ。僕も池袋のハロウィン行きたかったよ。ボクよ、呪われてしまえ」
俺は、恨みがましくメッセージが返す。
『仕事って言ってたな。頼られる男は大変だな』
相手の返信にちょっとイラッとする。
僕のことを“オレ”と呼び、僕は向こうを“ボク”と呼ぶ。
変な関係だが仕方がない
だって彼は僕の“ドッペルゲンガー”だから。
出会ったのは大学生、卒業旅行の時。
何の前ぶりもなく、ばったり出会った。
これはもう死ぬと直感で感じ、お互い猛ダッシュで逃げた。
そうお互いに。
あちらもヤバいと思ったとあとから聞いた。
向こうも僕のことをドッペルゲンガーと思ったそうだ。
お互い死にたくないので、友人を介し連絡先を交換し、連絡を取り合って出会わないように調整している。
それ以外にも、色々話し合った。
姿以外にも趣味やクセ、好きなアニメは全部同じだった。
違うところもある
もう一人のボクは売れない作家で、僕は会社勤めのサラリーマン。
僕も作家になりたかったが、才能の限界を感じ大学生の時筆を折った。
その選択に後悔はない。
でも彼の方はあきらめずに頑張っているらしい。
つまり彼は、もしあの時違う選択をしていたら、というIFの自分である。
なので身の上を話し合ってると、僕にあったかもしれないもう一つの物語を聞いているような、奇妙な感覚になる。
『オレよ。仕事ばっかしないで家族サービスしろよ』
「分かってる。ボクも遊んでないで仕事頑張れ」
『うるさい。今この瞬間が大事なんだよ』
というメッセージを送ったっきり、反応しなくなった。
いつものやり取りである。
ふと仕事机の上に立ててある写真をみる。
僕が写った家族写真だ
この写真を見るたびに、人生は面白いものだと感じる。
実は、もう一人のボクと同じことが一つある。
それは家族である。
どういう理屈か知らないが、“僕”の妻と子は、“ボク”の妻と子と、ドッペルゲンガーの関係にあるらしい。
あまりに似ているので、会わせてみたら案の定である。
あの時はお互い大笑いし、お互い説教食らった。
やり過ぎと言われれば、たしかにそうだ。
だけどホッとしたこともある
だってそうだろう。
僕と妻と子の間には、彼女たちに出会わないという、もう一つの物語なんて存在しないんだから。
10/30/2023, 9:52:40 AM